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大津一貴のエンジョイフットボールライフ『ニュージーランドサッカー事情』

20・03・11
 上写真/2016年ニュージーランドでプレー中の大津選手


 北のサッカーアンビシャスをご覧の皆さま、こんにちは。今シーズン、モンゴルリーグのFCウランバートルと契約を更新したことを、先月のコラムにてご紹介させて頂きました。しかし、世界的に流行しているコロナウイルスの影響により、日本からモンゴルへ渡航出来ない状況です。そのため、3月上旬からチームに合流する予定でしたが、現在は合流出来ずに北海道に滞在しております。リーグ戦の開催時期もまだはっきりしておらず、正直なかなか難しい状況ですが、持ち前の「なんとかなるべ!」精神でこの状況を乗り越えたいと思います。読者の皆さまも、まずは手洗いとうがいの徹底をして、健康第一でお過ごし下さい。そして、一刻も早く世界中の皆さんが元通りの生活を送れるよう願っております。

 さて今回は、北のサッカーアンビシャス内ではあまり触れてこなかった、『ニュージーランド』のサッカーについてご紹介します。私は2016年シーズン、ニュージーランドのスリーキングスユナイテッドというチームで1シーズンプレーしました。その際のエピソードや、ニュージーランド国内のリアルなサッカー事情をお伝えします。

 まずは皆さん、ニュージーランドの正確な位置をご存じでしょうか(もちろん地理に詳しい方は大丈夫だと思いますが)。私はいつも子どもたちの前で自己紹介をする際に、「ニュージーランドってどこにあるか分かる人〜!?」と、問いかけます。その際、小学生が約30人いたとしたら、1人か2人ぐらいの割合でしか答えられません。「名前は聞いたことがあるけど場所は…」という子が多く、日本人には場所をしっかり覚えられていない印象です(私が現在プレーしているモンゴルはもっと回答率が悪いような…)。

 南半球に位置するニュージーランドは、日本から世界地図を南南東の方向に目線を進めていくと存在します。日本(成田空港)からの直行便も存在し、片道で約11時間ほど。オーストラリア大陸の東側に存在する、日本と同じ島国です。海に囲まれているので、海産物が豊富。人口よりも羊が多いという国でもあります。

 また(しつこく?)、クイズ形式で言いますとニュージーランドの首都はどこでしょうか? ここでは、「オークランド」と間違える方が多いです。というのも以前はオークランドが首都でしたが1865年に「ウエリントン」へ首都を遷都しております。私は、旧都のオークランドで暮らしていました。

 
 上:左写真/大津選手が住んでいたオークランドの町並み
 上:右写真/船に乗り、海から港町のオークランドを撮った様子
 
 「ニュージーランドのサッカー」と聞いても、あまりイメージが沸かない方も多いことでしょう。なぜなら、国内で圧倒的な人気を誇るスポーツはラグビーだからです。ラグビーのニュージーランド代表は、ユニフォームカラーがブラックであることが由来で「オールブラックス」と称されています。国内のみならず、全世界から絶大な人気を誇っており、試合の前に行われるマオリの伝統的な踊りである「ハカ」をご存知の方も多いことでしょう。昨年のワールドカップも盛り上がりましたね。

 なので国内のサッカーの人気は、ラグビーに比べると正直低いです。しかし、イギリス系の移民がとても多いので、「イングランド・プレミアリーグ」は大人気。チームに加入した当初、「おれはマンチェスター・シティのファンだけど、KAZUはどこのファンなんだ?」とチームメイトに尋ねられた際は「マンチェスター・ユナイテッド…」とは、とても言いにくかった記憶があります。ラグビーほどではありませんが、サッカーも人気のスポーツです。

 ニュージーランドには国内リーグもしっかり存在していますが、とても特殊なリーグ構成です。まず、夏と冬でリーグが分かれています。夏のリーグ(サマーリーグ)は、日本のJリーグで言うところの「J1」です。国内トップリーグで、全国10チームによるリーグ戦となります。1部リーグのみしか存在しないので、Jリーグのように昇格や降格は存在しません。上位2チームは、「オセアニア・チャンピオンズリーグ」に出場することができ、この大会で優勝するとオセアニア代表として「クラブW杯」への出場権が与えられます。反対に、冬のリーグ(ウインターリーグ)は全国リーグが存在しません(カップ戦のみ全国大会が存在)。全国の地域ごとにリーグが構成されており、各地域のリーグ内では昇格や降格が存在します。

 ニュージーランドは南半球に位置するので、まず日本と季節感と時期が逆になります。その中、夏(サマーリーグ。9月から4月)と冬(ウインターリーグ。3月から9月)という名前通り、この2つのリーグは開催時期がずれています。そのため、サマーリーグでプレーしていた選手が、冬はウインターリーグでプレーしています。選手たちは各々が違うチームに所属するので、夏のサマーリーグで味方同士だった選手が、冬のウインターリーグでは敵として対戦することが多々あります。日本では想像も付かないような、特殊なリーグ構成です。

 私はウインターリーグのオークランド地域に所属するチームでプレーしていました。そのチームは、当時オークランド地域の1部リーグに所属しており、味方や対戦相手にはサマーリーグ(1部)で活躍していた選手が多く存在しており、地域リーグとは言えど決してレベルが低いわけではありませんでした。チームメイトにはクラブW杯に出場した選手がいて、レアル・マドリードの選手たちと撮った写真が沢山スマホに保存されていました。クリスティアーノ・ロナウドとのツーショット写真は、うらやましい限りでした。

 各クラブの施設も充実しています。私が所属したスリーキングスユナイテッドは、天然芝のピッチが6〜7面も存在し、立派なクラブハウスもありました。毎週木曜日の練習後は、そのクラブハウス内でチームメイトたちと一緒に夕食を食べます。もちろん、シャワーやロッカールームも完備されており、とても恵まれた環境でサッカーをプレーすることが出来ました。

 しかし、良い部分ばかりではありません。一番の難点は「プロ」ではないことです。トップリーグも含めてセミプロの待遇なので、ほとんどの選手は別に仕事をしながらプレーしています。私自身も、現地でアルバイトをしながらプレーしていました(チーム探しよりもバイト探しの方が苦労しました…)。そのため、現地の選手はプロとしてサッカーだけで生活したい人は海外へ行く傾向が強いです。実際、サッカーのニュージーランド代表は海外組の割合が多くを占めています。

 日本人にとっては「ワーキングホリデービザ」が取得できる国なので、海外挑戦するにあたっての「ビザの問題」をクリアしやすく、チャレンジしやすい環境が整っているのがニュージーランドのサッカーです。しかし、サッカーだけで生活をするには、現地での実績と選手自身の実力が必須です。クラブW杯につながっていることもあり、現在は多くの日本人選手が挑戦していますが、海外でプレーすることの難しさも同時に存在しています。

 私自身も、クラブW杯出場を目指してニュージーランドのサッカーに挑戦しましたが、その目標は叶えられずに帰国しました。しかし、ニュージーランドに挑戦した経験が、今も海外でサッカーを続けられていることにつながっているのも事実です。是非、多くの日本人選手にチャレンジしてほしいと思っています。そして、そのように未知なる領域へどんどんチャレンジするような選手が、もっと北海道から多く輩出されるようになるといいな。と、個人的に思っています。

 上:左写真/チームに加入が決まった際にクラブハウス内で監督と撮影
 上:右写真/チームメートと円陣を組んでいる様子。体格の差がよく分かります
  (172センチの私、14番の大津がとても小さく見えます)


◆大津一貴プロフィール◆
少年時代は、札幌山の手サッカー少年団とSSSサクセスコースに所属。中学校時代はSSS札幌ジュニアユース。青森山田高校から関東学院大学へ。卒業後は一般企業へ就職。2013−2014年は、T.F.S.C(東京都リーグ)。2015年FCウランバートル(モンゴル)。2016年スリーキングスユナイテッド(ニュージーランド)。2017年カンペーンペットFC(タイ)、2018年からは再度FCウランバートル(モンゴル)でプレーし、優秀外国人選手ベスト10に選出された。
大津 一貴