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ヨーロッパフットボール回廊『Winter Break=Midseason player break』

20・02・18
 フットボールは冬のスポーツという代名詞は昨今見当たらなくなってきている。世界で一番人口に膾炙(かいしゃ)したスポーツとして年がら年中世界のどこかで行われている。北半球が夏でも南半球は冬であり、世界の210以上の国がリーグを運営している最もポピュラーなスポーツであろう。

 近代フットボールの元祖であるイングランドは、北半球の北緯50度に位置しており、日本でいえば樺太の真中あたりの地勢にある。メキシコ暖流によって冬でも極寒とはならず、日本の冬と同じとみても良いほどである。肉体を消耗するスポーツにとって最適な気候ともいえる。プロフットボールリーグが始まったのは、今から132年前の1888年であり、それに先立つ1871年に『The FAカップ』が始まっている。その当時から英国ではフットボール、ラグビーは冬のスポーツ、クリケットが夏のスポーツとして定着し、このシーズン制は現在に至るまで継続している。

 フットボールは夏に始まり翌年の春に終わる。冬のスポーツと言われる由縁である。イングランドではプロリーグは通常8月初旬に開幕、アマチュアは9月開幕、プロの閉幕は5月中旬、アマチュアはイースター(4月初め―月齢により毎年異なるが)までが過去100数年の伝統であった。そしてアマチュアのリーグはプロとは違い、地方リーグでは一般の公園内のピッチを利用している。そのため夏のスポーツであるクリケットが始まる4月にはゴールポストが外され、9月まではクリケット場に成り代わるためフットボールは事実上できなくなるのが普通である。

 プロリーグは年間38試合(プレミアリーグ20チーム、その下部は24チームで構成されているため46試合)、更にプレミアリーグチームは他にFAカップ、リーグカップ、そして上位6チームはヨーロッパチャンピオンリーグなどに参加する。そして国の代表選手ともなると年間10試合の試合をこなさねばならず、トップ選手に至っては年間(実質9か月)70試合も出場することになる。週2試合のハードスケジュールである。特にクリスマス、新年は伝統的な労働者のスポーツであるがため、彼らの余暇を楽しむイベントとして休みなくプロフットボールが存在、運営されてきた伝統がある。9か月休みなしでプレーしなければならないのだ。

 そのため1996年日本の名古屋グランパスからアーセナル監督に就任したベンゲル元監督は「イングランドは狂っている。クリスマスには家族と静かに過ごすべきなのにフットボールの試合をしなければならない。選手に息抜きも必要でありヨーロッパのドイツ、フランスに倣い、冬季休暇を設けるべきだ」と非難したことがある。だがこの訴えは多くの英国人には受け入れられず、FAもプレミアリーグも132年の伝統を守り続けてきた。

 しかし昨今、多くのプレミアリーグのオーナーがイングリッシュから中東、アメリカ、中国人に代わり、選手も世界中から集まる多国籍リーグとなったこともありプレミアリーグは昨年来『Winter Break』を検討し始めた。その結果、今年2020年2月から実施することになったのである。

そのスキームは下記の通りである。
1.当面プレミアリーグのみ『Winter Break』を認め実施する。

2.2部のチャンピオンシップリーグ以下の下部リーグは従来通りNon-stopリーグを継続する。

3.期間は2月のうち2週間とする。原則2月8日より2月22日(14日間)

4.名称は『Midseason player break』(シーズン中途選手休養期間というもの)

5.この期間のテレビ放映権は持続するため、チームごとに休養期間が異なるが最短13日間の休養(試合なし)を確保すること。

6.この期間中のFAカップ5回戦(2月15日予定)は3月4日に延期する。などなどである。

 このため実施開始日2月8日にはエバートン対クリスタルパレスの試合とブライトン対ワットフォード戦が行われ、2月22日のBreak明けを待たず、2月16日にはアストンビラ対スパーズ、アーセナル対ニューキャッスル戦も行われた。従い一斉に休むのではなく、テレビ放映権を優先し日程を調整したBreakとなっている。

 ちなみにプレミアで一番Breakが長いチームはマンチェスターユナイテッド、及びチェルシーの16日間、一番短いチームはサウサンプトンの9日間であった。

 トップを圧倒的な差で走るリバプールは、2月1日のホームでのサウサンプトン戦に4−0と勝利した後Breakに入り、2月4日のFAカップ4回戦再試合対シュルスベリータウンとの試合ではトップ1軍の選手は暖かい海外のリゾート休暇(マイアミ、ロス、ドバイ等)を早目のBreakとして取らせ、U23のチームで戦った。平均年齢19歳102日、10代選手が7名、背番号でいえば46番から84番までの選手で戦い1−0と勝利し、FAカップ優勝の望みをつなげた。そしてBreak終了後は、2月16日にノーリッチとBreak明けのアウエーの試合を行い1−0と勝利。あと12試合を残して2位マンチェスターシティとは勝ち点25の差となり今季の優勝は確実となっている。

 他のチームもこのBreakの期間様々な過ごし方をしていた。マンチェスターユナイテッドは暖かいマルベーラ(スペイン)でミニキャンプを張りBreak後に備えた一方、エバートンは5日間のオフとしたあと後半戦に備えトレーニングを続けた。

 スパーズのモリーニョ監督は元々Breakに反対で「何のため選手を休ませなければならないのか、今まで通りの日程で良かった」と批判し練習のみ実施。チェルシーのランバート監督も「この期間に外国へは行かない。コロナウイルスにはかかりたくない」とロンドンでの練習に徹した。

 いずれにせよテレビ放映権、カップ戦に影響され一斉休暇とはならず期間内でのBreakとなったため、一部ではなぜ一斉に取らないのかとの批判も見えてきている。一方では、一斉にとるならクリスマスまたは新年後2週間とすべきとの声もあり、これまた論議を呼んでいる。先駆者のドイツは12月21日から1月18日と期間限定しており、フランスも12月21日より3週間1月11日までとなっている。

 やっとイングランドもこの『Midseason player break(通称Winter break)』が実施されることになったがまだまだ日程等が確定しておらず、一気通貫のシーズンの伝統的英国式日程を放棄したのか、また一方でBrexitになったのになぜEUの方式を採用したのか、という政治に絡めた論議もでてきているのが実情である。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
伊藤 庸夫