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ヨーロッパフットボール回廊『Director of Football, Manager, Head Coach, Care Take Manager』

19・12・11
 
 12月クリスマス前後、ヨーロッパ各国リーグにとっては、そのシーズンの成果を問う最初のハードルである。特に英国は休暇もない試合の連続の時期、気温も下がり凍てつく中で試合が行われる。選手にとっても監督にとっても、更にクラブ経営者にとってもタフな時期である。

 そのプレミアリーグも12月8日現在、16試合を消化。道半ばであるが過去2年連続優勝を果たしたマンチェスターシティ(勝点32)の3連覇は望みが薄くなってきた。既に4敗を喫し、昨年の38試合中4敗だけでの優勝からは遠のき、現在3位と、勝点14ポイント差で首位を走る無敗リバプール(勝点46)に離されている。

 昨シーズンのUEFAチャンピオンズリーグの決勝に残ったスパーズ(勝点23)も今シーズンは低迷し、現在はリーグ7位。そしてトップ4の常連であったアーセナルに至っては勝点22で9位に落ち、今シーズントップ4に残る可能性は無くなってきた。またシティのライバル、マンチェスターユナイテッドも一時は降格ラインすれすれまで落ちたが、現在は勝点24で5位まで回復。これからトップ4のUEFAチャンピオンズリーグの参加資格を目指している。

 12月8日現在、主なクラブ順位は下記の通り。( )内は勝点、*は降格候補
1位  リバプール(46)         
2位  レスター(38)          
3位  マンチェスターシティ(32)
4位  チェルシー(29)
5位  マンチェスターユナイテッド(24)      
6位  ウルバーハンプトン(24)
7位  スパーズ(23)
       ・
9位  アーセナル(22)
       ・
       ・         
14位 エバートン(17)
       ・
       ・
18位 サウサンプトン(15)*
19位 ノーリッチ(11)*
20位 ワットフォード(9)*

 プレミアリーグの過酷さは下記のターゲットを達成することがクラブオーナー、サポーターから求められている。
 1.ホームでは必勝
 2.18位以下の降格ゾーンからの脱出
 3.トップ6クラブ(リバプール、Mシティ、Mユナイテッド、チェルシー、アーセナル、スパーズ)はUEFAチャンピオンズリーグへの参加のためプレミア上位4クラブ以内。
 4.そして国内のプレミア優勝、FAカップ優勝、リーグカップ優勝 
 5.UEFAチャンピオンズリーグでの優勝、あるいはヨーロッパリーグ(プレミアの5位が参加できる)優勝

 このようなターゲットが達成されないとどういうことが起こるのか。第一責任はまさしくチームの統括者である。英国ではこのチームマネージメントのヒエラーキーの順は多かれ少なかれ下記の役職者が担っている。
 1.Chairman(会長)
 2.Chief Executive(最高経営責任者)
 3.Director of Football(チーム責任者)
 4.Manager(監督)
   Care Take Manager(代理監督)
 5.Head Coach(ヘッドコーチ)
 6.Coach(コーチ)

 上記のチーム役職者の中で、現場でのチーム成績に直接の責任を持つのは4番目のManagerであり、5番目のHead Coachである。6番目のコーチは通常上記監督、またはヘッドコーチが任命し、契約は上記1.2.3.が行うので、去就は4.または5.と共にすることが一般的である。つまり監督が更迭されれば、その下のコーチも更迭されるケースが多い。

 そして現場チームの責任者たるManager(またはHead Coach)がシーズン中途で更迭されるが、一番多いのは正しくシーズン半ば、そして1月より第2の移籍期間開始(1月)前の今、12月である。特に上記の通り、クラブのターゲットが達成されないと見たクラブ経営者1.会長の鶴の一声で更迭されることが多い。選手からの声の更迭は、お互いプロとして共同責任を担うがため、指揮官たる監督、ヘッドコーチを名指しで更迭を求めるケースはほとんどない。

 選手からの声を上げるとすれば、クラブに対して移籍要望(Transfer Request)し、新天地を求めるぐらいである。選手の要望を聞くか否かは契約者たる1.会長または2.チーム責任者が4.監督、5.ヘッドコーチの意をくんで決めることになる。監督が選手を更迭することは契約上ほとんどない。

 今シーズンのプレミアは、この11月・12月でいわゆるトップ6クラブを含めて既に4人の監督が更迭された。
 
 1)まず11月19日に、スパーズのHead Coachポチェチーノが会長ダニエル・レビーから引導を渡され更迭された。昨年、新スタジアムを建設、UEFAチャンピオンズリーグ準優勝を遂げたが、新たな選手補強が出来ず、14位(12節)と低迷し責任を負わされたのだ。後任には元チェルシー、マンチェスターユナイテッドのManager(監督)を歴任したモリーニョが就任した。

 2)そして11月29日にはアーセナルのHead Coachエメリーが更迭された。名門アーセナル前べンゲル監督から引き継いだパリサンジェルマンの監督(Manager)であった。しかしディフェンス陣の構築に失敗、キャプテンのシャカとの不和もあり、5試合勝なしの戦いを強いられ8位(13節)と低迷、更迭された。後任はまだ決まらず、代理監督(Care take Manager)としてアーセナル黄金時代を背負ったコーチの元スウェーデン代表リュンベルグが就任、現在次期監督を模索中である。

 3)12月に入ってからは、2日に勝点8しかあげられていないワットフォードが今年2人目のHead Coachのサンチェス・フローレスを更迭。このクラブだけは、選手から会長へ「外国人のコーチでは意思疎通ができない。英国人コーチにしてくれ」と要請の結果ナイジェル・パーソンがCare take Head Coach(代理ヘッドコーチ)として就任した。

 4)そして12月4日、エバートンはダービー戦リバプールに2−5と大敗し、Managerマルコ・シルバーを更迭、後任にとりあえずCare take Managerとして元エバートンのストライカーであった、ダンカン・ファーガソンを任命、就任後のホームでの対チェルシー戦に3−1と勝利、エバトニアン監督復活となった。しかし会長は、長期的な監督を求めており、サポーターに人気があるダンカン・ファーガソンの後任選びは難航している。

 5)そして次に来るのは誰か。一時はマンチェスターユナイテッドのソルシャー監督かと、ちまたでは騒いでいるが、ダービー戦対Mシティ戦に2−1と勝利し5位に上がったため更迭の危機は当面なくなった。

 過去、マンチェスターユナイテッドのファーガソン監督のようにManagerが選手のスカウト、評価、移籍業務を掌握していた時代は過ぎ、現在の現場監督、ヘッドコーチは単なるチームを勝たせるための現場指揮官化してきている。そのため長期政権はほぼ廃れ、短期に目先の勝利にこだわる経営者次第で監督、ヘッドコーチの即更迭、チーム首脳の入れ替えが頻繁になってきている。

 負ければ即更迭、長期にわたってユースを育て、チームを強化していく我慢強い経営者は少なくなってきている現状を今後どうするのか。クラブを支える、サポーター、経営陣含めて今一度再考するときがやってきたようだ。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
伊藤 庸夫