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ヨーロッパフットボール回廊『MUがチャンピオンシップ(2部)へ降格?』

19・10・16
 プレミアリーグが開幕してあっという間に10月となり、リーグ8試合を消化。現在はヨーロッパ選手権の予選が行われており、いったん休みに入っている。しかし、選手にとっては代表として戦わねばならず休みは無い。

 今年のプレミアリーグは開幕時、昨年の覇者マンチェスターシティとわずか1敗しかせず、勝点1の差で2位となったリバプールの両雄が今年も覇権を争うものと予想されていた。それに続くのは新監督となったランパード監督率いるチェルシーか、クラブ生え抜きの「童顔の暗殺者」ともいわれるソルシアーが率いるマンチェスターユナイテッド(以下MU)なのか、はたまたUEFAチャンピオンズリーグの決勝戦でリバプールに優勝杯を献上し涙を飲んだポチェッティーノ監督のトッテナムホットスパーズ(以下スパーズ)か―と予想されていた。

 そして10月なかばを過ぎ、結果は8試合連勝のリバプールがトップ。それを追うマンチェスターシティは、今年度プレミアリーグに昇格したノーリッチ・シティに第5節で2−3と敗戦。さらに第8節では、プレミア中堅のウルヴァーハンプトン・ワンダラーズ(ウルブス)に0−2で敗戦。既に2敗を喫しており、首位を独走するリバプールには勝点で8点差をつけられている。

 また、今シーズンこそ念願の優勝をと期待されていたスパーズは、イングランド代表デレ・アリの負傷、チームの要のエリクソンがレアルマドリッドへの移籍を希望するなど、チーム力が落ちたことでポチェッティーノ監督の采配も功を奏していない。現在は3勝しかあげられず勝点11で9位と低迷。期待を裏切っている結果となっている。そのためポチェッティーノ監督の更迭もありうるのではないかと噂が飛んでいる。

 一方、経営的にはプレミアトップのMUは、昨シーズンなかばモウリーニョ監督を更迭。後任に元MUのストライカー、ソルシアーが就任。代理監督として一時トップ4へ持ち上げた。しかし、2月から正式に監督就任後は戦績上がらず「Walking Footballers club」と揶揄されるほど活動力が低下してしまい、シーズン終わってみれば6位と不本意な成績に終わった。

 正式監督としてのソルシアーは、チーム改革を断行すべく、自身が選手であった時代と同様、ホームグロウン選手を中心に、若さあふれる躍動するチーム作りを目指した。早速、高額週給40万ポンドながら、わずかシーズン2得点に終わった金食い虫のチリ代表ストライカーのサンチェスとベルギー代表ストライカーのルカクを放出、中盤のフェライニも走れないとし中国へ移籍させた。

 21歳イングランド代表ストライカーのラッシュフォードを中心に、中盤のフランス代表ポグバのゲームメイク、ディフェンスはレスターから86百万ポンドでマグワイアーを獲得し、バランスのとれたチームを作り上げる予定であった。

 しかし、ストライカーのラッシュフォードはけがをしてしまい、ポグバもレアルマドリッドへの移籍を希望する不安定な状況からチームの柱が居なくなり低迷。現在8試合を経過して2勝3分3敗で勝点9の12位に甘んじている。現在17位のサウサンプトンの勝点は7であり、MUは次の試合第9節で宿敵リバプール(10月19日)に負ければ正しく降格候補チームになってしまう。このような屈辱は、1992年3試合経過で22チーム中20位という地位に下がって以来である。

 なぜ勝てないのか? いろいろな要素がある。

 一つにはソルシアー監督が目指す、若手の走る選手を起用したスピードあるチーム作りから、サンチェス、ルカクを放出、単純にストライカーが居なくなってしまったことも要因であろう。

 唯一、ラッシュフォードがいるがまだ21歳。時としてけがの為出場できず、その代役のマルシャルも現在けがで出場していない。補強したウェールズ代表21歳の快足ジェームズもまだ経験不足。イングランド代表としてトップ下で活躍したリンガードも負傷中。ストライカー不足は否めない事実であろう。

 そして、伝統あるチームの柱となるプレーメーカーとしてフランス代表ポグバに期待がかかっていたが、彼の意中は同じフランス代表でレジェンド・ジダンからのアプローチにより、レアルマドリッドへの移籍を画策、MUへの忠誠心はないとされる。また彼こそ「Walking Footballer in M−United」の代名詞となってしまった程、中盤での活動量が減っていてチームのダイナミズムを欠く結果となっている。

 ディフェンスもセンターバックス不足が昨シーズンは露呈しており、今季は何とかレスターからイングランド代表マグワイアーを86百万ポンドで獲得したがいまだチームになじんでいない。GKデ・ヘアも契約延長を拒んでおり、レアルマドリッドへの移籍も取りざたされていたこともあり、MU魂を欠く選手としてレッテルが張られていた。

 このように、選手自身がクラブの為に働くというスタンスがなくなり、サンチェスのように週給40万ポンド(54百万円)で2得点といった余りに裕福な報酬を与えられ、スポーツ本来の「全てをなげうって戦う姿勢」が欠けた選手ばかりになってしまったからともいえる。

 結局、チームに牽引力あるリーダーがいなくなり、いわば高給取りサラリーマン根性丸出しの選手ばかりになってしまったことも勝てない要因ではないかと思われる。MUの伝統は、監督の指導力もさることながら選手にリーダーがいたことで優勝を数多く遂げていたのである。

 1950〜60年代のマット・ブスビー監督時代はボビー・チャールトン、ビル・フォークス、デニス・ローといったリーダーがいた。1980年代からのファーガソン監督時代には、80年代にブライアン・ロブソンという強力なリーダーがチームを牽引していた。その後90年代は、ポール・インス、そしてロイ・キーンというカリスマ的リーダーがいた。そして近々の最後のリーダーはガリー・ネビルである。

 チームを引っ張り、鼓舞し、若手を鍛えてチーム全体の力を統一する統率力を持っていた。若手の選手にとってはものも言えない程、強烈なキャラクターを持っていた。ピッチ上では誰よりも走り、タックルしチームの牽引力となっていた。そういうチームでベッカム、ギッグス、スコールズといったボールプレーヤーがのびのびとプレーでき栄光を勝ち取ってきたのである。

 そのリーダーが今のMUにはいない。世界一のサラリーをもらっているサラリーマンフットボーラーが、11人集まっても勝てないのがフットボールというスポーツなのだ。これを打開できない限り、これからのMUがまた栄光を取り戻すのは難しい。

 次の試合でリバプールに負ければ、ソルシアー監督の名前は消えるという英国のフットボール界の噂は決して嘘ではない。「好漢」ソルシアーの宿命は来週決まるであろう。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
伊藤 庸夫