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ヨーロッパフットボール回廊『イングランド66年以来のタイトル逃す』

19・06・13
 イングランドがフットボール発祥の地として世界に覇を唱えたのは、今から53年前の1966年地元開催のワールドカップであった。以来W杯のみならず、UEFAヨーロッパ選手権での優勝はない。

 ベスト4に残ったのは、W杯では1990年及び前回ロシア大会だけであり、ヨーロッパ選手権では1968年の3位が最高位で、1996年地元開催時はベスト4入りであった。

 プレミアリーグには世界中のトップ選手が集まり、一時はイングランド生え抜き選手が育たないとの危惧を抱かせたが、2017年にはU−17が、そして同年にはU−20のW杯で優勝。イングランドの将来の展望も一転明るくなった。

 そして、今年度のUEFAチャンピオンズリーグではリバプールとトッテナム・ホットスパーズ(以下スパーズ)が決勝戦に進出。その下部のヨーロッパリーグの決勝もチェルシーとアーセナルが進出。オールイングランドクラブが欧州を征した。

 結果はリバプールがスパーズを2−0で破り、欧州6回目の覇者となり、一方チュルシーもアーセナルとのバクー(アゼルバイジャン)での決勝戦で4−1と圧勝し優勝を飾った。まさにイングランド黄金期を迎えた感もあるシーズンであった。

 その中で、今年度のイングランドフットボールの締めともいうべき、UEFAネーションズリーグ(UNL)でもサウスゲート監督の下、イングランド代表は若手選手を起用しべスト4に進出。この6月6日オランダとの準決勝戦に臨み、9日の決勝へ53年振りの国際大会優勝の望みをかけて対戦した。

 しかし、結果は3−1の敗退となり夢は破れた。前半32分にイングランドはPKを得てラッシュフォードが決め、リードしたにもかかわらず後半28分にオランダにCKからアヤックスの19歳キャプテン、デ・リフトにヘディングシュートを決められ、延長戦となってしまった。

 そして、延長前半7分にイングランドは、痛恨のミスで失点する。センターバックのマンチェスターシティ(以下Mシティ)のストーンズが、何でもない自分のボールをこねくり回し、オランダのデ・パイに奪われシュートを打たれ、それが結果的にはウォーカーの足に当たり、オウンゴール。その後もバークレーがストーンズの弱いパスを相手に奪われまたも失点し、1−3で万事休す。国際大会53年振りのイングランド優勝は消えてしまった。

 サウスゲート監督も「何でもないボールをやすやすと奪われてしまったミスでの敗退は大きい」と暗にストーンズを非難したが後の祭りであった。

 ちなみにストーンズは、ロシアW杯ではボールコントロールの良い、往年のマンチェスターユナイテッド(以下MU)のファーデナンドを彷彿とさせる、近代的なセンターバックとしてその成長振りが評価されていた。

 しかしその後、Mシティでは3月以降、11試合中2試合のみ90分出場で、あとの9試合はベンチ外や、メンバーに入っても後半の勝敗が決まった後に数分おこぼれ出場をしているだけのサブの選手に降格しており、明らかに試合にフィットしていない選手であった。サウスゲート監督の選手起用の間違いが、53年振りの決勝戦へ行けるチャンスを逃したのだ。

 そしてUEFAは、次の大会からは無意味な試合として3位決定戦は廃止することに決まった、準決敗者同士のスイス戦にはセンターバックにはリバプールのゴメスを起用、レスターのマグワイアとのコンビで対戦。

 結果は0−0の引き分けからPK戦となり、6対5で何とか3位の座を獲得したが、また次の大会まで優勝カップはお預けとなってしまった。この試合GKのピックフォードは、5人目のキッカーとしてゴールを決め、スイス6人目のキックをセーブし、本大会イングランド選手として唯一、ベストイレブンの一員に選出されたのがせめてもの慰めであった。

 優勝したのはオランダを1−0で破ったポルトガル。準決勝戦でハットトリックを決めたクリスティアーノ・ロナウドがまたしてもカップを掲げたのである。

 名選手と言えども、その時、その瞬間に映えていない選手は決して使わないというのが、選手のセレクションを職業とする監督の使命であることを如実に語った大会であった。

 果たして来シーズン、Mシティの監督グアルディオラはストーンズをレギュラーとして使うのであろうか。多分無いのでは。となると、選手が再起を図るとすればレギュラーで出場できるクラブへ移籍するしかない。

 ストーンズは、元々バーンズリーからエバートンへ移籍し台頭、成長してきた選手であり、そこからMシティへジャンプアップしてきた選手。もしかすると、センターバックのいないMシティの敵、MUへの移籍もあるかもしれない。まだ25歳の若さであり、今一度チャンスが出て来ればこのミスを克服して、偉大なイングランドのセンターバックに成れるポテンシャルは持っているはず。筆者が期待しているイングランドの選手であり、来シーズンに期待したい。

 これで今年度のフットボールシーズンは終わった。次は来シーズンに備えた、各クラブの補強移籍合戦が始まる。既に86百万ポンド(120億円)で、チェルシーのハザード(アザール)がレアルマドリッドへ移籍することが確定している。

 MUも金食い虫(年間23億円の報酬)のサンチェスを放出、ロシアW杯でフランス優勝の立役者ポグバも『Walking Footballer(歩く選手)』として悪評高く、元フランス代表の監督ジダンが指揮するレアルマドリッドへの移籍が噂されている。選手の大きな移動劇がまた始まる。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
伊藤 庸夫