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ヨーロッパフットボール回廊『イングランドクラブ欧州制覇、プレミアも終了』

19・05・15
 5月12日の日曜日、プレミアリーグは最終戦を迎え、トップを走るマンチェスター・シティ(以下MCI)がアウエーでブライトンに勝てば勝点98となり、2年連続の優勝となる。引分けると勝点96となり、負ければ勝点95。2位リバプールがホームでウルブスに勝てば、勝ち点97となり、2014年以来5年振りの優勝が懸かる、近年にない激戦のリーグとなった。

 この最終戦は15時同時キックオフで一斉に始まった。ドラマは17分にリバプールのマネが得点をあげ、この時点でリバプール優勝の芽が出た。しかもMCIは27分ブライトンにCKから得点を許し、あわよくばリバプールが逆転優勝をと期待されたが、その後28分MCIアグエロが決め、更に38分ラポルテがCKから2点目をあげ逆転。その後も63分にマハレス、72分ギュンドアンが得点し結局4−1で快勝。4回目となるリーグ優勝カップを手にした。

 リーグの後半戦は、19試合で18勝1分と圧倒的な強さを示したMCIに対し、リバプールは14勝1敗4分と引き分けが多かったことが逆転優勝に届かなかった結果となった。勝者MCIは、残るFAカップの決勝戦対ワットフォードに勝てば国内3冠(リーグカップとプレミアリーグは既に獲得)となる。グアルディオラ監督は「チャンピオンズリーグは敗退し4冠は取れなかったが、残る伝統のあるFAカップは是非取りたい」と最後の週に賭けている。

 この最終戦に先立って行われた、UEFAヨーロッパチャンピオンズリーグの準決勝では、イングランドの雄リバプールがメッシの強烈な左足シュートを含め、バルセロナに1戦目アウエーで0−3と敗戦。しかし2戦目ホームのアンフィールドで4点をあげ、奇跡の逆転で4−3とし、バルサを蹴散らした。2005年にキャプテンのジェラードを擁したリバプールがACミランに勝って以来14年振りにカップを狙う。

 もう一方の準決勝は、レアルマドリッド、ユベントスを破って勝ち残ってきたオランダの雄アヤックスと、60,000人を収容する新スタジアムの建設覇権を取りたいトッテナム・ホットスパー(以下スパーズ)が対戦。1戦目ホームでの試合はハリー・ケイン、そして韓国の英雄ソン・フンミンのストライカー2人を欠き、0−1と敗戦。暗雲立ち込めたアウエー、アムステルダムでの2戦目、前半5分アヤックスの19歳キャプテンのデリフトがヘッド弾、更に35分ジエックが決め合計0−3のハンデを負う展開となった。

 しかし、名将ポチェッティーノはあわてず後半に勝負を賭けた。すると55分ストライカーのルーカス・モウラが決め、続く59分、そしてアディショナルタイム96分にも3点目を仕留め、アウエーで驚愕のハットトリックを達成。2戦でスコアは並んだが、アウエーゴール方式での勝利を収め決勝に進んだ。監督の言葉は「Amazing!!(びっくり仰天)」であった。

 チャンピオンズリーグの決勝、リバプール対スパーズのイングランド対決は、6月1日(日本時間)にスペインの首都、マドリードにあるアトレティコ・マドリードのスタジアム『エスタディオ・メトロポリターノ』で行われる。スパーズは、1984年のUEFAカップ優勝以来の決勝戦出場である。

 そして、チャンピオンズリーグの下位リーグであるUEFAヨーロッパリーグの決勝も、またプレミアリーグクラブ同士の決勝となった。準決勝アーセナルはスペインのバレンシアと対戦、1戦目アウエー3−1、2戦目ホーム4−2、計7−3と圧勝し決勝に進んだ。

 もう一方は、チェルシーがドイツのフランクフルト(元日本代表の長谷部誠がボランチで出場)と対戦。これまた、1戦目アウエー1−1、そして2戦目ホームでも1−1とし、PK戦を4−3で制し決勝に駒を進めた。決勝戦はこれまた、イングランドクラブ同士、アーセナル対チェルシーとなった。ロンドンダービーの決勝戦を開催するのはアゼルバイジャンの首都バクーで5月30日(日本時間)に行われる。

 結局、ヨーロッパのフットボールを制す舞台に上がったのは、イングランドのプレミアリーグクラブ4チームとなったのだ。

 なぜプレミアリーグクラブが独占なのか。

 放映権料の高騰によるクラブ財政がバブル化し、世界のトップ選手を高額な移籍金と報酬で集められるからなのか。

 更に選手登録25名のうち、8人だけが英国籍+アカデミー出身であれば良いという、マルチナショナルな組織であることなのか。例えば、マンチェスターユナイテッド(以下MU)のフランス代表ポグバはアカデミー出身者であり、国内選手扱いとなる。

 そして、クラブ経営者が世界の富豪ぞろいであり、潤沢な選手投資が出来るからなのか(前述の4チームの経営者はリバプール、アーセナルがアメリカ人、チェルシーは石油王アブラモビッチ=現在英国ビザ発給停止中。スパーズは英国人ながらユダヤ人の富豪。そしてリーグ優勝のMCIはアブダビ石油資本王族、今年は落ちぶれたマンチェスターユナイテッドはアメリカ人)。

 選手登録も現在、EU加盟国の選手は自由労働が出来る権限を持っている。多くの南米の選手は、本来ならば労働許可書を取得できないが、彼らの先祖がスペイン、ポルトガル出身であれば2重国籍者として認められ、自由にプレーできる。このことからも、世界中のトップ選手が集められるリーグとなっている。この点は、今後『Brexit』によって英国がEU離脱した場合は制度が変わる可能性が高い。

 そしてやはり、フットボールの母国としての伝統、地元のおらがチームを応援するサポーター地元意識の強さ、過去の惨事(ヒルズボロの悲劇、ブラッドフォードの火災、ヘイゼルの悲劇など)を乗り越え、快適なスタジアムの整備が行われたこと。そして選手育成に関しては、1996年以降アカデミー制を導入し、やっと昨今ではU−17、U−20でイングランドが優勝し、イングリッシュ選手が育ってきたという事実も忘れてはならない。

 ここで、スパーズの監督ポチェッティーノの言葉は含蓄があるので紹介したい。

 「フットボールは、Basic(基本)・Heart(気持ち)・Emotion(感情)・Desire(欲望)・Running(走る)の集合体であり、Tactics(戦術)ではない」

 「11人対11人である」

 「走り勝つことが出来れば勝てる」

 「リバプールがバルサに勝ったのは『Run all over the top of their opponents』(相手を上回る走り)である」

 「従い、チャンピオンズリーグ決勝ではリバプールに勝てると信じている」

 「そしてその上にTacticsが来るので、そこをバランスよく90分戦えば勝てる」と。

 ちなみに今シーズン6位に甘んじ、12月のモウリーニョ前監督を更迭後、スールシャールを任命したMUのパフォーマンス(試合ごとの走距離数) は、プレミアリーグの18位に甘んじており、高速でワンタッチフットボールの激突が激しいリーグの覇者になるには程遠い存在であった。

プレミアリーグでの総走行距離31試合の結果
1位  ボーンマス3539,5km
2位  ニューキャッスル3532,1km
5位  リバプール3491,7km
8位  スパーズ3428,1km、
12位 MCI 3,363km、
18位 MU 3240,8km

 注目のチャンピオンズリーグ決勝戦では、イングランド同士のため、マドリードへ両チームのサポーターが大挙して押しかける。そして石油の町バクーへもアーセナル、チェルシーのサポーターが押し掛ける。スペインとアゼルバイジャンの首都が英国サポーターに占領される日も近い。

 英国政府は、特にアゼルバイジャンでは暴れないよう忠告している。ロシアとの関係悪化を恐れての話しではあるが、政治絡みではなくフットボールを純粋に楽しみたいものだ。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)