サッカーアラカルチョ

一覧に戻る

ヨーロッパフットボール回廊『The FAがなくなる?!』

19・04・17
 不思議なことに、日本では「Football」を「Soccer(サッカー)」と呼んでいる。

 その昔、明治時代に日本に「Football」が導入された時、「Association Football」と「Rugby Football」とが混同しないよう、「Association Football」を「ア式蹴球」と呼んだ。

 そして「Association」から「soc」を取り「〜er(〜する人)」を付け、「Soccer」と表記。英語の語感から「ソッカー」と言うようになり、それが「サッカー」に変化し定着したと言われている。

 ちなみに、昨年100周年の歴史を作った東京大学の正式クラブ名は「東京大学運動会ア式蹴球部」であり、慶応義塾大学は「ソッカー部」と呼んでいる。そして多くの伝統的大学は「蹴球部」と呼んで登録しているところが多い。世界を見渡しても「フットボール」を「サッカー」と呼んでいる主要国は日本とアメリカ、オーストラリアぐらいであろうか。

 筆者が英国に会社の駐在員で赴任した1980年代当時に「日本でサッカーをやっていた」と英国人に言うと、「You are American!」と、なかばさげすんだ眼をこちらに向けられることがままあった。以来、あえて話す時も書く時も「Football」と言うようにしている。

 日本ではサッカー協会のことを日本語で「日本サッカー協会」と呼ぶ一方で、国際的には「The Football Association of JAPAN」と称していたが、略称は「JFA」として登録され、サッカーとフットボールの言葉の使い方が混乱していた。1992年まではプロでもないアマチュアのサッカー界だからこそ、このような横断的な言葉でフットボールを定義していたのであろう。

 Jリーグが発足し、2002年のW杯開催国招致活動を行うに当たって、今までのような日本語表記と英語表記が異なるのは、PR上も不都合が起こるとして、現在はFIFA加盟国として外国向けに「JFA」の略称を生かして、「JAPAN FOOTBALL ASSOCIATION」が正式名称として内外に登録され、混乱は避けられてはいる。

 しかし、日本語では「フットボール」という言葉より「サッカー」という言葉が普遍的となっており、スポーツ界、テレビ、新聞等のマスコミ界、そして教育界でも「フットボール」という世界共通語を使うことがないのは誠に不思議な話である。

 その「Football」という言葉を生み出し、プレーしている英国(England、Scotland、Wales、Northern Irelandの4か国で構成)で、世界初の協会を設立したのはEnglandであり、それは1863年のことであった。

 そして当時、各Public school、Universityごとにあったルールを、1843年にCambridge(ケンブリッジ)大学のルールを統一ルールとして採用。‘Law of the Game’として一般化したルールを採用し、全ての「Football」はこの規則に従ってプレーすることになったのである。

 その協会の名称は、類い稀ない『Football発祥の国』の組織名として、「THE FOOTBALL ASSOCIATION」と国名を付すことない組織として、存在を継続しているのである。

 『The』という言葉こそ、唯一無二を表しているのである。この種の『The』が付く英国スポーツは他に「The Open(ゴルフ)」、「The Gran National(競馬)」、「The Championships,Wimbledon(ウインブルドンテニス)」など、現在でも継続して使われている。

 この伝統を誇る、定冠詞『The』のみが付く英国スポーツ団体にも変化が出てきた。「Footoball」である。

 今や世界中「Football」をプレーしない国は無いほど、人口に膾炙(かいしゃ)したスポーツとなっており、FIFA(国際フットボール連盟)加盟国は、国連加盟国を上回る211か国にまでなっている(国連加盟国は193か国+2準加盟国)。

 世界中の国が集まる「Football」の国際会議(FIFA年次総会等々)で、イングランド代表が発言したり、ロビー活動を行う時、他国代表から「どちらの国からですか?」と聞かれて「The FAです」と答えると、「どちらの国?」と再度念押しの質問が来ることが多くなった。ほとんどの国が、今やイングランドが『Football発祥の国』であり、ルールを策定する国とは思いも浮かばないほどになってきているのだ。

 現在、「The FA」は2030年W杯開催を目指して、招致活動を開始しているが、多くの国が上記のように「The FA」という定冠詞だけの国がどこかを知る国は少なく、「Football Coming Home」と言っても、『Footballの発祥の国』がイングランドであり、規則も英国の4か国+FIFAで構成される委員会(IFAB)で決定されることもあまり知られていない。

 「The FA」のクラーク会長は、211か国の代表からの支持を取り付ける為には、「The FA」という呼び方は傲慢であり、時代遅れである。単純に「England FA」とした方が多くの関心を集められるとして、来年度から「England FA」への名称変更を提唱している。

 その構想は、現在の「THE FOOTBALL ASSOCIATION」をHolding Companyとして残し、その傘下に「England Football Association」という組織を以下のように形成するようだ。
1.トップの代表チーム、その選手、コーチ、草の根グループの育成等の機能の組織
  を置く。
2.施設(現在のThe FAナショナルフットボールセンター)を置く。
3.そして各PRキャンペーンをEngland FAとして行う。その最大の活動は2030
  年のW杯招致、そして女子W杯の招致である。

 現在の「The FA」の経営規模は、2017/18年度、売上高376百万ポンド(545億円)にも上り、この中にはウエンブレースタジアムのイベント、国際試合、プレミアリーグロンドンクラブ、トッテナム・ホットスパーへのスタジアム貸しも含まれている。収入のうち、大きいのはテレビの放映権料(国際試合)で225百万ポンド(320億円)であり、収入の6割を占めている。

 協会の名称改称の目途は今年度末の総会での決議となるが、2018年ロシアW杯4位、2015年カナダ女子W杯3位と、イングランドの実力も上がってきており、この組織改正によって2030年のW杯が現実に「Football Coming Home」となることを期待したい。

 この2030年のW杯開催に当たっては、英国の4か国England, Scotland, Wales, Northern Irelandに加え、Irelandの5か国での共同開催を目しているのだ。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
伊藤 庸夫