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ヨーロッパサッカー回廊『Nations Leagueスタート』

18・09・17
 ヨーロッパの今シーズンは既に開幕し、W杯の余韻を残しながらも新しい選手、スタッフ、戦術面での変化がうかがえ、また一段とレベルアップした試合が展開されている。

 その中で『UEFA ユーロ2020』、そして『2022FIFAワールドカップ カタール大会』を目指す各国はその席を確保すべく新たな戦いを始めた。

 今シーズンよりUEFAは、過去のFIFA規定のフレンドリー主体の国際試合日をなるべく少なくし、コンペティティブ(競争力のある)なトーナメントの公式戦方式をとり、トップ4は自動的に次回の『ユーロ2020』の出場権を獲得できることを決めた。それが『UEFA Nations League(UNL)』であリ、その第一戦が9月7日よりヨーロッパ各地で行われた。

 スキームは、UEFA加盟国55か国をFIFAランクに従い、4リーグ(A・B・C・D)に分け、Aリーグにはトップ12か国。Bリーグ12か国、Cリーグ15か国、Dリーグは16か国に組分けられた。その上で各リーグごとに、AリーグではグループA1(3か国)、グループA2(3か国)、グループA3(3か国)、グループA4(3か国)に分ける。そして、そのグループごとに総当たりホームアンドアウエーで戦い、Aグループのトップ同士がベスト4として、2019年6月に勝ち抜き戦で決勝戦を行い、優勝国が決まる方式である。

 昇降格制度もあり、Dリーグを除く各リーグのグループの最下位は、ひとつ下のリーグに降格となり、Aリーグを除く各リーグのグループでトップとなった国は、ひとつ上のリーグへ昇格するという仕組みである。

 更に特典は、Aリーグ各グループの勝者(4か国)は『ユーロ2020』へ自動的に参加資格が与えられる仕組みとなっている。それだけに各国はUNLの優勝を目指す一方、『ユーロ2020』への出場権を賭け、厳しい戦いを続けなければならなくなった。

 7月中旬にロシアW杯が終わり、8月2週目には各国リーグが始まり、代表選手にとっては休暇が取れず、年中フットボールを続けなければならなくなり、体力的にも精神的にも年々厳しい状況になってきている。

 通常シーズンオフは完全休養期間として、最低4週間は必要といわれている。その4週間を過ぎてトレーニングを始めて元のレベルに戻れるには更に2週間かかる。その期間が少なくなればなるほど、パフォーマンスは落ち、けがをする確率が上がる。代表選手にとっては今後コンディショニングの調整は必須の課題となることは必至である。

 ちなみに国別グループは下記となっている。

◆リーグA
A1: ドイツ  フランス  オランダ
A2: ベルギー  スイス  アイスランド
A3: ポルトガル  イタリア  ポーランド
A4: スペイン イングランド クロアチア    

◆リーグB
B1: スロバキア  ウクライナ  チェコ
B2: ロシア  スウェーデン  トルコ
B3: オーストリア  ボスニア・ヘルツェゴビナ  北アイルランド
B4: ウェールズ  アイルランド  デンマーク

◆リーグC
C1: スコットランド  アルバニア  イスラエル
C2: ハンガリー  ギリシャ  フィンランド  エストニア
C3: スロベニア  ノルウェー  ブルガリア  キプロス
C4: ルーマニア  セルビア  モンテネグロ  リトアニア

◆リーグD
D1: ジョージア  ラトビア  カザフスタン  アンドラ
D2: ベラルーシ  ルクセンブルク  モルドバ  サンマリノ
D3: アゼルバイジャン  フェロー諸島  マルタ  コソボ
D4: マケドニア  アルメニア  リヒテンシュタイン  ジブラルタル

 その初戦、A4グループのイングランド対スペインの試合がロンドンウエンブレースタジアムに、イングランドW杯の好成績を見ようと、81,000人の大観衆を集め行われた。ウエンブレースタジアムへ行く地下鉄の中は至って友好ムード。特に子供の応援が多く、一昔前のように飲んだくれて電車の中で用を足すようなやからは消え、良い雰囲気での試合開始。

 イングランドはW杯のメンバーからヤング(WB)の穴を埋めるショー(Mユナイテッド)を3年ぶりに代表復帰させ、また右には21歳のゴメスを配し若手中心にメンバーを組む。一方のスペインはW杯でベスト16で敗退という憂き目を払拭するため、キャプテンのセルヒオ・ラモスを中心にボールをキープする戦いでキックオフ。

 最初のチャンスは前半11分、左サイドを抜けたウイングバック、ショーが絶妙なパスをセンターへ出し、MUのストライカー、ラッシュフォードが走り込みシュート。ゴールを決め幸先の良いスタートを切った。しかし、ボールポゼッションに長けるスペインは、ショーのポジショニングがあいまいである隙を突き、13分に右サイドからショーを抜き、センターに入ったサウルが決めて同点。更に32分右からのFKに飛び込んだロドリゴが決め2−1の逆転となった。

 後半に入りわずか3分、ショーが相手選手とぶつかり脳震盪を起こし退場。それからはスペインのポゼッションにイングランドは対応できず、W杯ゴールデンブーツ賞を得たハリー・ケーンもわずか10日の猶予期間で、まだ体ができておらず本来のスピードもなく得点チャンス作れず。結局2−1でスペインに勝利を与えてしまった。

 サウスゲート監督にとってはW杯で準決勝でクロアチアに負け、3位決定戦でベルギーに負け、この日スペインに負け3連敗となってしまった。3チームの内、1チームしか残れないUNLでのトップの芽は厳しくなった。

 この試合、イングランドにとって不運であったのは、96分にセンターへのクロスボールをイングランドストライカー、ウェルベックがスペインGKデ・ヘアのファンブルしたボールを拾いネットに突き刺したが、主審の判断はウェルベックのインターフェア(妨害)としてファールの判定。同点の機会を失したことである。

 今回のUNLでは、UEFA主催のためVARシステムを取っておらず、もしVARシステムが採用されていれば、明らかに主審の誤審であり、得点となっていただけに、イングランドにとっては不運な試合となった。今後UEFAはVARの採用をすべきではないであろうか。

 A1グループのドイツ対W杯優勝国フランスとの初戦は、両者譲らず0−0の引き分け。そのフランスは第2戦でオランダに2−1と勝ち、A1のトップに立っている。

 A2グループでは、スイスがアイスランドに6−0と大勝。第2戦でのアイスランドはベルギーに0−3で負けている。

 A3グループでは初戦でイタリアとポーランドが1−1で引き分け、第2戦ではポルトガルがイタリアに1−0と勝ったが、C・ロナウドの得点はまだこれからである。

 A4グループの初戦でイングランドに勝利したスペインは、ロシアW杯準優勝のクロアチア相手に6−0で大勝した。

 このUNLリーグ、クラブのチャンピオンズリーグ、ヨーロッパリーグ、更に各国のリーグ、そしてカップ戦があり、代表選手にとっては年間70試合もの激しい勝負のかかった試合を続けていかなければならない。

 体力、メンタルの強さが要求されるのが現在のヨーロッパのフットボールである。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
伊藤 庸夫