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ヨーロッパサッカー回廊『ロシアW杯の行方』

17・12・12
 12月1日、2018年ロシアワールドカップの組み合わせ抽選会が主催国のモスクワで行われた。予選を勝ち抜いた32か国によるオリンピックを超える世界大会があと7か月と迫ってきた。

 司会者は元イングランド代表のストライカー、リネカーが務め、抽選者には66年優勝時のイングランドGKゴードン・バンクス、元アルゼンチン代表のストライカー、ディエゴ・マラドーナ、元フランス代表センターバックのローラン・ブランなどがポットの中のボールをつかみ、次々と組合せを決めて行った。観客席に座ってボールの行方を見守る各国の監督に厳しい表情が現われていた。

 しかしその結果、毎回注目された「死のグループ」は実現しなかった。グループごとに大胆に予想を立ててみよう。

◆Aグループ:ロシア、サウジ、エジプト、ウルグアイ
 地元ロシアは初戦サウジとの対戦、モスクワルジニキスタジアムでの開幕戦。そして2戦目、エジプトとサンクト・ペテルブルグでの試合は地理的にも良いくじを引いた。このグループではウルグアイがバルセロナのストライカー、スアレスの活躍が期待され勝ち進むであろう。ベスト16にはロシア、ウルグアイが勝ち進むとみられる。

◆Bグループ:ポルトガル、スペイン、モロッコ、イラン
 初戦からイベリア半島対決が冬季オリンピックの地ソチで実現した。FIFAの最優秀選手に選出されたクリスティアーノ・ロナウド率いる2016年ユーロ優勝国ポルトガル、そしてライバル、『チキタカフットボール』のスペインが勝つのか、どちらかが負ければ予選突破に波乱があるかもしれない。
 しかしモロッコ、イランのチャンスはないだろう。ただスペインは初戦ソチ、2戦目対イラン戦がカザン、3戦目がバルト海の飛び地カリーニングラードと遠隔地での試合が続き、疲労が心配である。ベスト16に抜けても次のノックアウト戦が鍵となろう。

◆Cグループ:フランス、オーストラリア、ペルー、デンマーク
 このグループは初戦フランス対オーストラリア、ペルー対デンマーク戦次第であろう。ランクから言えばフランスが抜けているが、アウエーで弱いフランスが、まずはフィジカル対決オーストラリアにグリーズマン、ラガゼットなどのストライカーが得点マシーンとなり、幸先良い勝利が求められる。大勝すればやはりトップで抜け出るとみる。
 ペルー、デンマークのどちらが抜け出るかは、初戦のサランスカ(モスクワから640km南東)での試合の結果によるであろう。英国の賭け屋ウイリアム・ヒルによる賭け率はデンマーク100対ペルー125であり拮抗している。オーストラリアと3戦目に戦うことになったペルーが抜け出るであろう。

◆Dグループ:アルゼンチン、アイスランド、クロアチア、ナイジェリア
 このグル―プはメッシ、アグエロのストライカーがいるアルゼンチンがトップになるとみる。アルゼンチンの優位さは試合がモスクワ(対アイスランド)、ノブゴロド(対クロアチア)、サンクト・ペテルブルグ(対ナイジェリア)と比較的移動距離が少なく、コンディション的に楽なグループを引いたためである。
 もう一つの国の予想は難しい。クロアチアが抜きん出ているとはいえ、ユーロでベスト8まで進出したアイスランドも侮れない。ほとんどの選手がイングランド、ドイツなどのトップヨーロッパリーグで活躍している選手で固めており、人口33万人の小国がまた話題を提供するかもしれない。そしてナイジェリアのイーグルス軍団もアフリカの強靭な身体能力を生かし可能性はある。ここはアルゼンチンとクロアチアが抜け出るとみる。

◆Eグループ:ブラジル、スイス、コスタリカ、セルビア
 ブラジルがこけることはないであろう。今大会ドイツと並んで優勝候補に挙げられているだけに、世界一の移籍金スター選手、ネイマールを中心にロシアにブラジル旋風を起こすのは確実であろう。
 コスタリカは2014年のブラジル大会ではベスト8まで進出、番狂わせを演じたチーム。スイスもヨーロッパでプレーオフを制して出場する強豪。そして旧ユーゴの伝統を誇示するセルビアと、どこが2位となるか予想は難しい。ヨーロッパ予選のプレーオフで北アイルランドに勝ったスイスが突破するとみる。

◆Fグループ:ドイツ、メキシコ、スウェーデン、韓国
 ドイツの強さは圧倒的であろう。韓国が勝ち抜ける要素はほぼない。メキシコとスウェーデンどちらが残れるか。メキシコ対スウェーデンの第3戦は、ウラル山脈を超えたシベリアに近いエカテリンブルグで行われる。
 中米特有のボールをまわすメキシコ対、長身選手をそろえたパワーフットボールのスウェーデンの戦いに勝った方が抜けるであろう。
 最後はロシアの風土に慣れたスウェーデンが残るとみた。ちなみに賭け率はスウェーデン、メキシコ共に80である。

◆Gグループ:ベルギー、パナマ、チュニジア、イングランド
 イングランドとベルギーがヨーロッパから入ったグループ。その両者イングランドとベルギーが戦うのは共にパナマとチュニジア戦後の3戦目である。ベスト16入りは確実であろう。両国がチュニジア、パナマに後れを取ることはない。
 ベルギーの優勝賭け率は12、イングランドは16であるが、イングランドのストライカー、ハリー・ケーン(スパーズ)対ベルギーのストライカー、ルカク(マンチェスターユナイテッド)の点の取り合いは興味のある試合となることであろう。ベルギーのほとんどの選手がプレミアリーグに所属しており、お互い手の内を知った仲での試合は予選グループ戦でもハイライトな試合となるのは間違いないだろう。

◆Hグループ:ポーランド、セネガル、コロンビア、日本
 日本は非常に難しいグループを引き当てた。ストライカーのレワンドスキー(Bミュンヘン)を擁するポーランド。そして前回ブラジル大会で1−4と大敗したエースのハメス・ロドリゲスがいるコロンビア。更にアフリカのダークホース、セネガルと当たる。
 セネガルにはフランスリーグから7人、イングランドから得点源であるマネ(リバプール)を始め5人、イタリアセリアAから2人と主要ヨーロッパで活躍する選手を擁しており侮れないチームである。
 順当にいけばポーランドとコロンビアが予選を突破する確率が高いが、最初の試合、日本対コロンビア戦に日本が勝つことがあれば4チームとも予選グループ突破できる可能性があり、死のグループならずも「魔のグループ」となる可能性もある。しかし、予選突破はポーランドとコロンビアであろう。

 となると、賭け率からいえば(数字は現在の優勝賭け率―Willian Hillsより)、ベスト16にはヨーロッパからドイツ(9/2)、フランス(11/2)、スペイン(7)、ベルギー(12)、イングランド(16)、ポルトガル(28)、クロアチア(33)、ロシア(33)、ポーランド(40)、スイス(66)、スウェーデン(80)の11か国。南米からブラジル(5)、アルゼンチン(8)、ウルグアイ(28)、コロンビア(28)、ペルー(125)の5か国が残ることになる。なお、日本の掛け率での評価は250である。

 とはいえ、勝負は時の運。ユーロでもウエールズがベスト4に進出したり、アイスランドがベスト8に進出したり、アルゼンチンが最終戦でやっと出場の権利を得たり、フットボールには意外な結果が待っている。

 1990年のカメルーンの台頭、1992年のユーロでのデンマーク、2004年ユーロでのギリシャの優勝と、ランクが低くても優勝できる国がいつも出てくる。今回のロシア大会どの国がUnderdogになるか楽しみである。

 日本もチャンスがないわけではない。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
伊藤 庸夫