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ヨーロッパサッカー回廊『波乱のプレミア開幕』

17・08・21
 8月に入り、暦通りの晩夏の英国、気温は20度前後、まさに夏は通り過ぎ秋到来である。

 ロンドンでは世界陸上が8月4日より始まり、ボルトの最後の走り、イギリスのモー・ファラの2冠(1万mと5千m)となるかで連日盛り上がっていた。フットボールシーズンの開幕はその最中にあり、併せて全米ゴルフも行われていたため、スポーツ好きの英国人にとっては何を応援すべきか忙しい2週間となった。

 結局、陸上は期待のボルトの最終100mランは3位に終わり、400mリレーでも40分もメダルセレモニーで待たされた結果、体が冷え切り、最終走者として疾走したが肉離れを起こし途中棄権の悪夢で引退を余儀なくされた。そのお陰(?)か、日本は3位となり銅メダルを獲得し、なんとも皮肉な結果に終わった。モーは1万mでは勝ったが5千mでは2位に終わり、トラック競技からは引退、今後はマラソンに専念することになった。

 フットボールの開幕は8月6日、世界陸上の陰で昨シーズンのリーグ優勝者チェルシーとFAカップ優勝のアーセナルとの「FA Community Shield」で始まった。

 以降トピックス的に取り上げてみたい。

1)PK戦でABBA方式の初採用
 「FA Community Shield」を勝ち取ったのはアーセナルであった。後半46分にチェルシーのモーゼスがカーヒルのヘディングでのボールからゴールに押し込み1−0とリードしたが、後半チェルシーはペドロが相手選手のアキレス腱へのスタンピングの危険なファールで一発退場、10人となる。アーセナルは今シーズン、シャルケから獲得したディフェンダー、コラシナックがFKのボールをヘディングで決め同点とした。

 試合はそのまま1−1で終了し、延長戦はなく、即PK戦に入った。このPK戦も今年から新ルールが採用され、いわゆるテニスのタイブレーク方式のABBA方式(チームA−チームB−チームB−チームAの繰り返し)で行われた。結果はチェルシーのGKクルトワが2番目に蹴りそれが観客席に行く大ホームランで失速、PK4−1でアーセナル勝利。ベンゲル監督の今シーズン初タイトルとなった。ちなみにこの試合、チリのサンチェスは報酬アップ(週給300,000ポンド)を要求し移籍を求めており、この試合は出場しなかった。

2)飲水タイム(Cooling Break)の採用とベイル獲得失敗。
 そして2日後、8月8日。UEFAスーパーカップがスコピエ(マケドニア)で行われた。気温は30度を超す蒸し暑さのなか、昨シーズンUEFAチャンピオンズリーグ優勝者レアル・マドリッド対UEFAヨーロッパリーグ優勝者マンチェスターユナイテッド(MU)戦が行われた。

 UEFAはこの試合、30度を超す気温に対して、前半30分および後半73分に飲水タイム(Cooling Break)を取った。この取り方は必ずしも22分、67分(ハーフの半分)ではなく主審の判断に任されていた。

 この試合は勝敗はともあれ、レアルのガレス・ベイル(ウェールズ代表)をモウリーニョMU監督は獲得したいと試合前からジャブを出しており、「この試合にベイルが先発しなければMUが獲得する。先発したらレアルは彼をキープしたい方針とみて、獲得は断念する」と断言し、注目を浴びていた。結局ベイルは先発し(後半29分に交代)、モウリーニョ監督のベイル獲得はなくなった。

 試合はレアルが前半24分、カゼミロの得点でリード、後半にもベイルとイスコのワンツーパスでイスコが得点、2−0とし勝敗は決した。MUも75百万ポンドでエバートンから獲得したルカクが得点するも追いつかず、2−1でレアルの今シーズン初カップとなった。

3)10,189ビリオンポンド(約1,480億円)の移籍金総額
 アーセナルのアーセン・ベンゲル監督をして、「全くEconomicalではない」と酷評された、バルサのネイマールのパリサンジェルマンへの移籍金と年棒を合わせた298百万ポンド(440億円)だけではない。
 プレミア20クラブの開幕8月11日までの総移籍金額は、英国史上最高の「ワン・ビリオンポンド」を超えた。10,189Bポンド=1,480億円となっている。8月31日までには更に上回る数字となろう。

 最高はマンチェスターシティの218百万ポンド=316億円となっている。今やトップ選手の移籍金が、50百万ポンドを超えるのは当たり前となっており、インフレバブルの汚名をいずれの日か浴びせられる時がくるのは必至であろうが、今のところは天井知らずの状況が続いている。2019年、英国のEU離脱が実現すればこのバブルもはじけることになろうが、まだその予兆はない。

4)シーズン開幕の話題
1、プレミアの開幕日は例年10試合(20チーム)が同時Kick Offで始まるのが恒例であるが、今年はなぜか8月11日金曜日にアーセナル対レスター戦が先立って行われた。

 Arsenal vs Leicester(4−3)
 結果は全くのSeesawゲームであった。前半1分34秒にプレミアリーグのこれまでのオープニングゲーム最速得点の記録を塗り替えたのである。

 得点者は今シーズンからアーセナルに移籍してきたラカゼッタ(フランス代表)であった。アーセナルが4,650万ポンドでリヨンから獲得したストライカーである。結局試合は1−0、1−1(岡崎が得点)、1−2、2−2、2−3、3−3、そして移籍する可能性の高かった、フランス代表ジルーのヘッドが劇的なアーセナルの勝利を決定。4−3でアーセナルの勝ちとなり、ベンゲル監督安堵の初戦であった。

2、翌日12日(土曜日)も衝撃の試合が行われた。チェルシー完敗2人レッド!

 Chelsea vs Burnley(2−3)
 昨シーズン優勝のチェルシーが、アンダードック降格候補のバーンリーにまさかの敗退を喫したのである。しかもホームでの敗退。アウエーのバーンリーは24分、センターフォワードのヴォクスがゴール前でミスキック気味ながらシュートを決め0−1とし、更に39分ワードがクロスボールに合わせ0−2、そして43分にまたもヴォクスがヘッドで決めて0−3。

 この間にチェルシーのセンタ−バック、イングランド代表カーヒルが前半14分、相手選手に足を上げてのタックルで一発退場したのも痛かった。後半にモラタがやっと1点を返したが、その後ファブリガスが2枚目のイエローで退場、チェルシーは9人となってしまう。1点をルイスが返すが時遅し、早々と黒星を付けてしまった。

 監督コンテは選手の獲得がままならず、本人の去就も噂されておりチュルシーにとっては次の試合からペドロと合わせ、都合3人の選手を欠くことになり前途多難のスタートとなった。コンテ監督が自主的に退団するのではと噂されている。

3.ルーニー返り咲き勝利のヘッド
 
 Everton vs Stoke City(1−0)
 今シーズンから育ったクラブ、エバートンへ戻ったルーニーは30歳を超えたとはいえ、シャドーセンターフォワードとして往年の動きを復活、右クロスボールをジャンプヘッドでGKを抜き決勝点を決めた。これでサウスゲートイングランド代表監督は、次のW杯予選にはルーニーを呼ぶことを匂わせている。
 
4.なお今シーズンよりSimulationの反則(イエローカード)は自動的に2試合出場停止となることになった。

 まだまだ始まったばかりの9か月の長丁場、これからのプレミアは目が離せない。毎年のことながら楽しみなシーズン開幕である。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
伊藤 庸夫