サッカーアラカルチョ

一覧に戻る

ヨーロッパサッカー回廊『プレミア開幕まで1か月、ルーニー地元に戻る』

17・07・18
 5月にオフとなったイングランドのフットボールもまた熱狂を呼び起こし戻ってくる。8月12日にプレミアリーグが開幕する。

 この暑い夏のフットボールオフの間、英国ではフットボール以上の人気と伝統のあるスポーツやイベントが目白押しに行われている。現在はウインブルドンテニスで沸き返り、その後は夏の音楽祭Promsも始まり、次はThe Openゴルフ。そして極め付きは8月4日からの世界陸上がロンドンで行われる。ボルトの100mの最後の見納めと言われており、100mが行われる日のチケットは売り切れだ。ラグビーは現在冬の南半球へテストマッチ巡業をしており、夏のスポーツ、クリケットはイングランドの公園で日没9時まで長い日差しを楽しんでいる。

 そのスポーツの国イングランドの大衆スポーツ、フットボールは今年も大きな話題を提供しスタートする。

 まずはその経営規模の拡大であろうか。2015/16年度のプレミアリーグの総収入は36億ポンド=5,200億円に上った。そのうち19億ポンド=2,750億円がテレビ放映権料である。リーグ全体の利益は5億ポンド=725億円にもなる。この放映権料の高騰により総人件費は23億ポンド=3,300億円というとてつもない額となっている。

 来るシーズンの総収入は、45億ポンド=6,500億円になると予想されている。世界のトップ選手がプレミアを目指す理由がこの報酬の高さにあることは間違いない。2年後にはBrexitにより移民が制限される可能性が高く、プロフットボーラーとて例外はない。今こそ駆け込み入国(移籍)をと世界から集まってきている。

 その中で、この英国のバブル化したフットボール界に肩を並べようと対抗しているのが中国であろう。プレーの質、環境から見ればまだまだ問題の多い国ながらMoney Gameではプレミアを超えようとしている。

 多額の移籍金と報酬を提示し、オスカーもテベスもプレミアからMoneyによって中国のクラブへ移籍した。Moneyだけで中国へ、という傾向が果たして、将来のフットボール界にとって良いことなのかは多くの疑問が残るが、現実はすべてMoneyで動いているのも事実であろう。古き良き時代の故郷を忘れず、功なして戻るという感情はフットボーラーから無くなったのであろうか。

 しかしイングリッシュにはいたのである。ウェイン・ルーニーその選手である。

 マンチェスター・ユナイテッドのキャプテンであり、昨年まではイングランドのキャプテンでもあったルーニーが、監督モウリーニョから引導を渡され、MUの報酬が週給260,000ポンドから中国でプレーすればその倍になると、一時は中国へ移籍も噂されたが、結局Moneyではなくノスタルジックな選択をし、生まれ育ったリバプールの名門エバートンに復帰を決めたのである。

 移籍はフリー(移籍金はゼロ)、報酬もMUの報酬をカットしての移籍となった。MUはルーニーの移籍の交換条件で、エバートンのベルギー代表ストライカー、ルカクを7,500万ポンド=108億円の移籍金を払って獲得した見返りである。

 モウリーニョから見れば、衰えたルーニーより得点マシーン、ルカクに投資した方が得と考えたのであろう。この移籍の損得は、来年の結果を待たなければわからないが、ユースの選手を育ててヨーロッパ一のクラブに成し遂げた、MUのマット・バスビー監督、アレックス・ファーガソン監督のチームマネージメントとは全く違う、Moneyで選手を買ってチームを作り、そのチームが勝てなければ(クビになり)、次のクラブへ移る監督業を長年やってきたモウリーニョ監督の損得計算からの決断であったといわれている。

 当のルーニーは、今回エバートン移籍後はじめて「MU時代も僕のパジャマはエバートンカラーだった」と明かし、ジュニア、ユース、そして16歳でプレミアデビュー(2002年8月17日対スパーズ戦)、そして10月のリーグカップ戦、対レックサム戦での初ゴール、更に2002年10月19日、16歳360日、対アーセナル戦でのループ気味の強烈なロングシュートをプレミアリーグ初ゴールとしたエバートンをこよなく愛していたことを吐露した。

 以降、エバートンのゴールマシーンとして活躍するも2004年MUファーガソン監督からの誘いで、当時の10代選手の最高移籍額2,560万ポンド(現在価格38億円)で移籍。MUの期待に違わず、数々の栄光を持たらした。プレミアリーグ優勝5回、リーグカップ1回、FAカップ1回、クラブワールドカップ1回、UEFAチャンピオンズカップ1回、そして今年5月のクラブヨーロッパリーグの優勝記録を打ち立てている。しかし、いつの日かまた生まれ育ったリバプール、それもエバートンに戻ることを決して忘れてはいなかったのである。

 イングランド代表としても115試合出場。ボビー・チャールトンが保持していたイングランド最高得点49点を上回る53点を挙げており、古巣エバートンに戻り、今シーズン得点マシーンが復活すれば、またイングランド代表のストライカーとして、次のロシアW杯でも活躍できるのではと期待されている。

ルーニー故郷に帰る!!

 お金ではない。気持ちである。生涯サポートしたクラブを忘れない、これがルーニーであろう。

 そしてシーズン前、7月13日の遠征初戦タンザニアでのケニアのクラブ、ゴル・マヒア戦、15年前アーセナルでの初得点と同じ30mのロングシュートを決めた。今年を予感できる得点園である。幸先の良いシーズンを迎えた今年のルーニーに期待しよう。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
伊藤 庸夫