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ヨーロッパサッカー回廊『ワールドカップ48か国参加で決定』

17・01・13
 昨年12月のコラムでワールドカップ(W杯)開催要領が変わることを伝えたが、1月11日のFIFA理事会がチューリッヒで行われ、2026年のW杯から従来の32か国出場から一挙に48か国に増える事が正式決定された。

 この参加国増加についてはドイツサッカー連盟会長のグリンデルはレベル低下に陥ると反対を表明、更には世界のフットボール界を代表するヨーロッパ・クラブ・アソシエーション(ECA)は代表選手の負担の増加によりクラブのステータスが落ち、ひいては経営にも影響があるとし反対を表明していた。

 しかし、新FIFA会長インファンチーノはUEFA(ヨーロッパフットボール連盟)の出身でありUEFAとしては反対の立場は取りにくいというフットボールポリティカルによって賛成せざるを得なかった。喜んだのは弱小国のアジア、オセアニア、アフリカのフットボール連盟であろう。

 各大陸にどのように参加配分するのか、どのような方式で大会が運営されるのかの詳細はこれから詰めるとし決まっていない。しかしFIFA事務局での素案はほぼ次の通りであるとされている。

1.今までのW杯の総試合数は32か国参加の64試合であったのが48か国参加の
  80試合に増える。
2.期間は32日間とする。(ほぼ現状並み)
3.大陸別配分については、ヨーロッパ16国(従来13国)、アフリカ9国(同5国)、
  北中米6.5国(同3.5国)、南米6.5国(同4.5国)、アジア8.5国(同4.5国)、
  オセアニア1.5国(同0.5国)となる。
4.予定収入は52,9億ポンド=約7,670億円、うち利益は521百万ポンド
  =約755億円に上ると目されている。
5.試合形式については48か国を16グループに分け、予選としては1グループ
  3か国の総当たりリーグとし、その中でトップ2か国が次のノックアウトステージに
  進み、32か国での一発勝負でベスト16、ベスト8、ベスト4と行き、準決、決勝と
  なる。予選グループでは従来あった引き分け制度はとらず、延長、PK戦で勝負
  を決めることになる模様。
6.大会の試合数が80試合になるとスタジアムの数も多くする必要あり開催国も
  限られてくる可能性あり。かつ2014年ブラジル(南米)、2018年ロシア(UEF
  A)、2022年カタール(アジア)の大陸連盟での開催は避けるとしており、今の
  ところ可能性があるのはUSA、カナダ、そしてメキシコの北中米3か国共同開催
  という案が浮上している。

 以上が2026年W杯開催の骨子であるが、これからFIFA内部での開催要領が、開催国集の期限である2020年までに作成される予定である。

 だが問題点は多々ある―。

 一番大きな問題点は大陸別参加国数であろう。ヨーロッパの16枠、南米6.5枠は良いとしてもオセアニアをどう扱うのかであろう。

 オーストラリアがアジアグループへシフトして以来、ニュージーランド連続出場は堅いが、FIFAランキングでは現在109位と低い。そしてプレーオフ候補としてのオセアニアランク2位はタヒチであり、ランクは148位。北中米が6.5か国参加可能とすれば、現在北中米7位にランクされているのはキュラソー島(Curacao)、FIFAランク75位である。

 キュラソー島はどこにあるのか?ベネズエラ沖カリブ海に浮かぶホリデー・リゾート島である。オランダの構成国でもあり、オランダからの移住者に頼るオランダ2軍ともいえず実力からはオランダ3軍であろうか。

 この2国が世界のトップを目指すW杯に出場となれば話題は多いが、実力からいって『ホントーにフットボールの大会にふさわしいのかいな』という批判も出てくるのではないだろうか。

 アジアの8.5か国枠によって恩恵を受ける国はというと、金に任せて世界中からトップ選手を獲得している中国であろうか。現在の4.5枠では出場もおぼつかないが、8.5か国ともなれば中国スポンサー付きで出場できる可能性も高くなり、世界一の金満FIFAの再現に一役買うのであろう。フットボール大国を目指す習近平主席のフットボール界へのテコ入れの一環となるのであろうか。

 そして3か国1グループの予選の試合についても質が問われることになろう。英国のメディアは例えばA・B・Cの3か国が総当たりで対戦し、AがBに勝ち、CがBに勝てば次のC対Aの試合はどのような試合になるのであろうかと指摘している。面白くない消化試合が予選で続出する可能性が高い。そんな試合を観戦したい酔狂なサポーターがいるのであろうか?といった疑問も出てくる。

 結果、また『金満FIFA』にならなければ良いが。7百億円以上も1大会で稼いでFIFAは何をするのかも問われている。

 オリンピックムーブメントが金食い虫であることが実証され、2020年東京もすったもんだしているなか、その後の大会に立候補する都市が激減。今や強大化したスポーツイベントへの警鐘がなっている時だけに、2026年48か国参加のW杯がその後の世界国際大会の「終わりの始まり」にならなければ良いのであるが―。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
伊藤 庸夫