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ヨーロッパサッカー回廊『今後のワールドカップの行方』

16・12・14
 FIFAスキャンダルを受けて、今年2月FIFA会長に選出されたインファンチーノ会長は、次の2017年1月に行われるFIFA理事会に「2026年ワールドカップ(W杯)開催」に関する案を提示し承認を得る予定である。

 その構想は、次回2018年ロシア大会、2022年カタール大会は現状通り32か国参加による大会にすることであるが、2026年からは40または48か国参加の大規模な大会に拡大することである。

 この世界大会を拡大する理由は、今年6月行われたUEFAユーロ大会が従来の16か国参加から24か国参加に拡大し、その結果、ポルトガルが優勝、ウェールズ、アイスランドという小国が躍進することになり、懸念されたトップ国と新興国のレベルの違いがそれ程ではなかったことが証明されたこと、拡大化によるコマーシャリズム(スポンサー、テレビ放映等)も増大化したことでのW杯拡大案である。

 インファンチーノ会長は2008年以来、UEFAの事務局長を務めた経験からUEFAが出来てFIFAが出来ないことはないと自信を持っての構想を提示しているのである。

 さてさてこの拡大W杯は成功するのであろうか? まず開催国はあるのか? スタジアム、交通インフラ、メディアの整備された国はあるのか? 期間は従来通り1か月で完了できるのか? 果たしてヨーロッパ並みの高いレベルで競り合うエキサイティングな試合の連続になるのか? などなどの課題は多い。

 まず開催国の条件はというと、2018年ロシア(UEFA)、2022年カタール(ASIA)で開催されるため、両大陸からの立候補は原則認めず、他大陸からの立候補国を募集することになる。

 現在立候補を検討しているのはアメリカ合衆国。1994年にW杯大会を実施、マイナーな女子のスポーツであったフットボール競技をサッカーという言葉で普及させ、やっとヨーロッパでもサッカーという言葉が理解されるようになったインパクトを与えた。

 アメリカ国内でもベースボール、アメリカンフットボール、バスケットボール、アイスホッケーの4大スポーツにサッカーという第5のスポーツが定着した歴史がある。スタジアムもアメリカンフットボール場は各地にありインフラ上は問題ない。

 そして更に、北中米カリブ海サッカー連盟(Concacaf)ではこの機会にスキャンダル(元Concacaf会長ジャック・ワーナー元FIFA理事による汚職事件)一掃のためにもW杯を開催したいとの熱望があることを背景にアメリカ、メキシコ、そしてカナダ3か国共同開催を模索している。

 この候補国の利害が一致すれば、2026年の開催国に対抗できるアフリカ、オセアニア、南米(2014年ブラジルで開催済)の国はないであろう。

 次にスタジアム、交通インフラ、メディアなどについてもアメリカ、メキシコ、カナダは問題ないであろう。

 ただ距離的に東西南北にまたがり時差もある。気候的な温度差、高地のメキシコでの試合など、選手のコンディショニングが大きな問題となろう。2014年ブラジル大会でも移動距離の短い国が優位になった点もあり、その平均化した組合せも配慮する必要があろう。

 次に1か月で完了できるのかについては、現在のところ40ないし48か国参加のトーナメントをどう運営し、組分けするのか未決定である。今後検討されるものと思われるがFIFAの構想としてはまずベスト16(地域予選を勝ち抜いた国のFIFAランキングにより)をシードし、残りの24ないし32か国でのプレーオフ方式とする方法を検討している。

 となると、プレーオフは一発勝負方式なのか、4チームによる総当たりポイント制によるのかで試合数が増えたり減ったりする。当然日程は現在の1か月基調から増加する。それが各国リーグ戦日程と調整する必要も出てくる。

 更に現在の大陸別割り当て国の比率からみると、ヨーロッパは現在14か国となっており、もし48か国となるとプロラタベース(比例配分)で21か国が出場出来ることになる。現在のユーロが24か国出場であるのでほぼ同数の国が参加できることになる。

 アジアも現在は4.5か国参加が7か国参加と増加する。あるいは別の考え方により大陸別参加枠を決める必要が出てくることも考えられる。その結果いわゆるフットボールポリティカルが発生することも必至となり、また腐敗を呼ぶ可能性も出てくるかもしれない。

 そして何よりも一番の課題は、果たして48もの国が参加することによりフットボールのレベルが下がり面白くない試合、安易な試合、始めから勝負がわかっている試合が多くなり、ひいては大会そのものレベルが低下しサポーター、メディアそしてスポンサーから非難の声が上がらないとも限らない事態に陥ることであろう。

 過去のW杯とユーロとの比較において、レベル的にも諸インフラ的にもW杯が世界から24か国、ユーロがヨーロッパから16か国であった時ではないかと思われる。

 筆者の目からは2000年のオランダ・ベルギー共同開催でのユーロが一番レベルの高い試合の連続の大会であったと思えてならない。その前後の1998年フランスW杯、2002年の日韓共同開催W杯と比しても、そして更に最近の2014年ブラジルW杯と比較してもそうである。

 W杯には得てして、レベル的に低いアジア、オセアニア、北中米、アフリカからの参加があり予選リーグの試合には賭け屋ではないが勝負が決まっている試合が多い。いわば『Giant Killer』しか期待できない試合が多いのである。そして多くのファンはトップレベル同士の激しい、スピーディーな90分の伯仲した攻防を堪能することを期待して観戦に来ているのにである。

 出場できるかできないかの瀬戸際にいる中級国にとっては、晴れのW杯への出場は夢が現実になる機会が増えるが、一方では、出ると負けの国に成り下がり、大会全体のレベルダウンに陥る可能性もある。この40か国か48か国参加のW杯が、果たしてフットボールの繁栄に寄与するのか一考を要するのではないかと思われる。

 日本にとっては確実に出場できるメリットはあるが・・・。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
伊藤 庸夫