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ヨーロッパサッカー回廊『イングランド代表の混乱と今後』

16・10・11
 6月のユーロでアイスランドに思わぬ敗退をし、ベスト8にも進めなかったイングランドは体制を一新し、ホジソン監督を更迭。新たに代表歴もないプレミアリーグでも下部の監督を務めたサム・アラダイス(61歳)を7月22日任命し、ロシアワールドカップ欧州予選に臨んだ。

 初戦のスロバキア戦(9月4日)は一進一退のせめぎ合う試合展開となったが、途中スロバキアのキャプテン、シュクルテルが2枚目のイエローで退場したこともあり、95分ララナ(リバプール)のシュートが決まりやっと勝ちを拾った。幸先の良いスタートとみなされたが、あにはからんや、わずか就任後67日目の9月25日、The FAに更迭されてしまったのである。

 その原因は、サムがイングランド監督以外に19社に及ぶコンサルタント、投資会社に関係しており、その中には選手の移籍に関し、FIFA規約で禁止されている第3者が選手の保有権を持っている移籍行為を行っていたという事。さらにデイリーテレグラフ紙記者が東南アジアのビジネスマンに扮し、アラダイス監督に現金授受する場面がビデオに撮られ、それがテレビのニュースに流れてしまった事で、FAのクレッグ・ダイク会長はこのようなスキャンダルを起こすとはイングランド監督としての資質が問われるとし更迭を決定したのである。

 わずか67日の監督業、3百万ポンドのサラリーも棒に振ったアラダイス監督であった。

 W杯の予選第2戦、対マルタ戦を10月8日に控え次の監督を誰にするかイングランドFAは模索し、結局はUnder21監督である、ガレス・サウスゲートが代理監督として任命せざるを得なかった。

 アラダイス監督就任前後には、アーセナルのベンゲルが良いとか、いやイングランドの監督はイングリッシュでなければならないとする声も高くなかなか決まらなかった経緯がある。

 今回も、まずはイングリッシュ優先なのか外国人監督も厭わないのか、メディアもあれこれ候補者名をあげて推測をしていたが、適任者がおらず、とりあえずサウスゲートが当面代理としてW杯予選のマルタ、スロベニア、スコットランド戦、そしてスペインとのフレンドリーマッチ4試合をマネージすることになったのである。

 サウスゲート監督はロンドンのワットフォード生まれで9歳から現在プレミアリーグのクリスタルパレスのジュニアーユース選手として育ち、18歳でクリスタルパレスのセンターバックとしてデビューした。その後は順調に成長しイングランド代表歴は57試合出場の経験を持つ。

 多くの英国のフットボール選手が労働者階級の出身であり、学歴もないのが普通であるが、サウスゲートは中産階級の家庭に育ち、教育も中等学校(11歳―16歳)での国家科目別試験に9科目合格(70点以上)しており、大学へも行ける能力を持っているインテリジェンスある選手であった。

 ただ彼を有名にしたのは、1996年のユーロ大会でドイツとの準決勝、PK戦となり彼がPKを外してイングランドの決勝進出がなくなった試合である。

 彼が入れていれば、1966年のW杯優勝以来の優勝もあったのでは―と今でも語り継がれているPKであった。以来イングランドはPK戦に弱いチームとしてその後もPK戦では勝っていない。

 その彼が率いるイングランドは10月8日のマルタ戦、本来なら5点を取って勝たねばならぬ相手。前半29分スターリッジ(リバプール)が決め1−0。そして38分にはトッテナムの20歳新鋭アリが決めて2−0としたが、後半はシュートチャンスは数多くあったが無得点に終わり、完勝とは言い切れぬ試合であった。

 次のスロベニア戦と140年の宿敵スコットランド戦での結果では、またイングランド監督問題が持ち上がってくることになろう。

 今のところ、サウスゲート監督のインテリジェンスある指揮がイングランド代表監督として適しているかは、メディアもサポーターも期待の目で見守っている。しかし、一旦敗退を喫するとあっという間に「首!首!」との声が高くなる熱狂的イングランドサポーターの声に、FAがどう対応するか見ものである。

 ちまたでは元Mシティの監督であったイタリア人マンチニが次期監督ではと噂しているが、イングリッシュではなくイタリアンでいいのかという声も高い。

 それにしても代理監督という不安定な立場を当面取らねばならぬFAの態度も、いわば人材不足を露呈しているようだ。プレミアリーグの監督が外国人が多いつけが回ってきているようだ。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
伊藤 庸夫