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ヨーロッパサッカー回廊『プレミアリーグ開幕』

16・08・11
 リオのオリンピックも始まり、連日メダル獲得を賭けた熱戦に世界中が沸いている。

 今のところ、自転車ロードレースでのヘアピンカーブでの転倒事故、そして強風によるボートレースが中止されたこと以外には大きな事件も心配されたテロも無く、順調に大会が推移している。

 日本選手の活躍も今のところ期待通りで、お家芸の体操団体で3大会振りに金を獲得、ここ英国のテレビも大絶叫であった。

 ただU−23のフットボールは地元ブラジルがまだ勝ちがなく、予選突破がなるのかと混戦状況にある。日本も初戦ナイジェリアに5−4と乱戦の上敗戦してしまった。相手ナイジェリアの選手がアメリカからの航空機代が払えないという、2002年日本でのW杯のカメルーンと同じような状況下で、リオ到着が試合当日というハンデを負っているにもかかわらず勝てなかったのは、若い選手が「闘い勝つ気持ち」を持っていたのかという疑問がわく試合であった。2020年の「おもてなし」をすでにこのリオでしているのではないかと、ひねくれた見方もしたくなるほどの敗戦であった。

 ここ英国でも連日、ほぼ24時間体制でテレビ放映が行われており、フットボールの話題は少ない。しかしそれでもフットボールはフットボール。英国のフットボールシーズンは静かに幕を開けた。

 8月6日にはプレミアの下のチャンピオンシップ、リーグ1、リーグ2も開幕。同時に8月7日には恒例の昨シーズンのチャンピオン、レスターシティ対FAカップ勝者マンチェスターユナイテッドのコミュニティシールドがウェンブレイスタジアムで行われた。

 昨年の覇者レスターシティは中盤のカンテがチェルシーに引き抜かれたが、至宝ストライカーのバーディーがアーセナルからの引き合いに応じず、残留。今年も旋風を起こすか期待されている。

 一方、マンチェスターユナイテッドは昨シーズン5位に甘んじファンハール監督を更迭。新たに優勝引受人たる『スペシャルワン』モウリーニョを監督(元チェルシー監督)に迎え入れ、過去のユースを育ててトップ選手とするシステムから、莫大な資金を十二分に使っての世界のトップ選手を獲得し、チーム力を高めていく方向に転換。4年振りに覇者復活を狙う。

 補強は順調である。パリサンジェルマンからフリーでイブラヒモビッチを獲得、久しぶりにストライカーらしいストライカーを補強した。イブラヒモビッチは、スウェーデンのマルモからアヤックス、ユベントス、インターミラン、バルセロナ、ACミランと渡り歩き15年、リーグタイトル獲得は13回。スウェーデン代表をこの6月のユーロを最後に引退したが、年齢34歳ながらルーニーとのストライカーコンビは、Mユナイテッド復活を期待させる。

 そして、中盤の補強はユベントスのポグバに的を絞っており、2012年までユナイテッドの選手として登録されていたが、出番は無く、時の監督ファーガソンが戦力外としてユベントスに移籍させた選手である。移籍金は89百万ポンド、それにエージェントフィーなどを加えると1億ポンド(135億円)にも上がる。

 アーセナルのベンゲル監督をして「クレイジー」と言わしめ、リバプールのクロップ監督も「1億ポンドも選手に課すのは全くの不経済であり、決して元はとれない」と批判しているが、Mユナイテッドの経営規模、3億9500ポンドから見れば投資効果は高いと踏んでの補強である。このコミュニティシールド戦には、移籍の手続きが終わっていないため試合には出られなかったが、ともあれプレミアリーグの最高移籍金のタグをつけた選手となるのだ。

 この試合の主導権を握ったのはMユナイテッド。前半32分、中盤からリンガード(Mユナイテッドユース出身)がドリブルで仕掛け、レスターのディフェンス陣3人をかわしてシュートを決め1−0とした。往年のギッグスのドリブルシュートをほうふつとさせるプレーであった。しかしレスターもさるもの。後半7分、レスターのストライカー、バーディーがユナイテッドのフェライニのミスパスをかっさらってシュートを決め、同点とした。

 しかしMユナイテッドは後半38分、右からバレンシアがクロス、そのボールをイブラヒモビッチがレスターのキャプテン、モーガンに競り勝ち頭でゴールを決め2−1とし、コミュニテイシールドを勝ち取った。モウリーニョ監督のMユナイテッドでの最初のトロフィーとなったのである。

 それにしても34歳のイブラの存在感は、新たなMユナイテッドの看板となることを認めたゴールであった。

 そしてプレミアリーグは8月13日が開幕となる。

 昨シーズンの開幕前の賭け率は、レスターが5000分の1であったが今年は33分の1、順位は10位あたりとなっている。マンチェスターシテイの2.25分の1がトップ賭け率で、Mユナイテッドは2位の3分の1となっている。

 今年のアンダードックはというと、昇格したハルとバーンレイがそれぞれ1500分の1となっているが、このチームが優勝できる可能性は低いであろう。今年も4強のMシティ、Mユナイテッド、チェルシー(5分の1)、アーセナル(6分の1)のいずれかと思われるが、フットボールには何が起こるかわからないところもあり、目を離せないシーズンになることであろう。

 そして今のところ、ブレグジット(EU離脱)の動きはフットボール業界にはまだなく、プロフットボール選手の労働許可条件は以前と変わっていない。しかし本格的なEU離脱交渉は来年から行われることになり、いずれ厳しくなることには間違いない。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
伊藤 庸夫