サッカーアラカルチョ

一覧に戻る

ヨーロッパサッカー回廊『ユーロの勝者』

16・07・16
 7月10日、ユーロ2016は大きな波乱を呼び、伏兵ポルトガルが初の栄冠を獲得した。

 ポルトガルは、予選グループ3引き分け(アイスランド戦1−1、オーストリア戦0−0、ハンガリー戦3−3)のグループ3位で、最終戦負けていれば予選落ちであったが、辛うじて何とかベスト16へ進出できたのである。

 一方、優勝候補の地元フランスは、予選グループではルーマニアに2−1、アルバニアに2−0、スイスには0−0の引き分けながらトップで通過、楽にベスト16に進出した。
 
 ここまでの経緯を見てみると、ポルトガルはクリスティアーノ・ロナウドのワンマンチームであり、彼の持ち味であるウイングサイドから中に入りシュートを打つチャンスがほとんどなく、サントス監督は彼をトップのセンターフォワードとしてナニとコンビを組ませたが、あまり機能しなかった。やっと彼が得点をあげたのは3戦目のハンガリー戦。ハンガリーに常時先行され苦しい展開の中、ロナウドの初得点で引き分けに持ち込み、なんとかベスト16に進出できた。チームとしては、ロナウドの効率的なポジションがどこか模索しやっと見つけた試合でもあった。

 ベスト16戦の相手はクロアチア。この試合も結局0−0から延長に入り117分にクアレスマが決め辛勝、準々決勝に進出できた。そして準々決勝ベスト8戦の相手はポーランド。この試合はポーランドに先制点を取られリードされたが、前半のうちに18歳の新星レナト・サンチェスのゴールで追い付き1−1から延長へ。ここでも決着せず最後はPK戦となり、ロナウドが1人目のキッカーとしてPKを決め5−3で勝利。苦戦の連続ながら何とかベスト4に残った。

 それに対しフランスはアトレティコ・マドリッドのセンタ−フォワード、グリーズマンが点取り屋として活躍、予選アルバニア戦で点を入れたのを皮切りにジルーと共に2トップのストライカーとしてその攻撃力は他を圧倒するものがあった。

 アイルランドとのベスト16戦では、グリーズマンが2ゴールを奪い2−1と勝ち、そしてアイスランドとの準々決勝では5−2と圧勝、グリーズマンは1点をもぎ取り、4点目。今大会の得点王の第一候補となってきた。

 ポルトガルの準決勝の相手は初出場、優勝賭け率66倍、ロナウドのRマドリッドの盟友ガレス・ベールとアーセナルの至宝アーロン・ラムジー擁する新生ウェールズ戦となった。

 しかしアーロン・ラムジーが前のベスト8戦で賭け率1/14のベルギー戦に3−1と快勝した際、2枚目のイエローを受け出場停止となり中盤の要を失ったのは痛かった。多くの選手がイングランドプレミアリーグの下位に位置するクラブ出身者で構成されており、戦力が乏しいウェールズとしては厳しい戦いとなってしまったのである。

 試合は後半5分にロナウドがCKからジャンプ、相手ディフェンダーの頭一つ高くジャンプし、強烈なヘディングシュートを決めやっと先制。ロナウドの面目躍如のシュートであった。そしてその3分後またしてもロナウドのシュートをナニが方向を変えGKの逆を突きネットを揺るがし2−0。ついにポルトガルは決勝に進んだ。

 フランスは、順当に勝ち上がってきたドイツと準決勝を戦うことになった。ドイツはほとんどの大きな大会で、その持前のドイツ魂とよく練られた戦術で覇者となっている強敵である。

 しかし、この大会の華となったストライカー・グリーズマンがまた輝いた。2点をもぎ取りドイツを2−0で下したのである。

 誰もが予想しなかった決勝戦。ここまではロナウドに頼るポルトガルが苦戦続きで這い上がり、フランスは総合力プラス、グリーズマンがけん引し、破竹の勢いで勝ち残ってきた。誰もが地元フランスの勝利を予想したであろう。

 フランスのホーム、満員のサンドニ。しかも始まって9分、ポルトガルのワンマン、ロナウドがフランスの中盤の殺し屋ペイエの激しいタックルを受け転倒、ひざをひねり起き上がれなくなった。その後痛めた左ひざにテーピングを巻き一度はピッチに戻るも、25分にプレー続行不可能と判断、涙ながらに担架で運ばれ退場となったのだ。サンドニのフランスサポーターもポルトガルサポーターも、そしてテレビ観戦している世界中のファンも、これで終わったと思ったのではないだろうか。

 しかし粘るポルトガルは90分を耐え凌いだ。そして延長戦に入る。延長後半そろそろPK戦の匂いがする109分、ポルトガルのエデルが25ヤードの強烈なシュートを放つ。ボールはGKの手の先を抜けそのままネットを揺るがした。一瞬沈黙、そして大歓声。終わったのはポルトガルではなくフランスであった。

 歓喜のポルトガル初優勝の瞬間である。2004年アテネでのギリシャとの決勝戦に0−1と敗れ優勝を逃し、2006年のドイツW杯では準決勝まで、2008年、12年のユーロでもそれぞれ準々決勝と準決勝で敗退。いいところまで行くがロナウドのワンマンチームでしかなかったポルトガルが、やっとロナウド離れをし優勝できたのである。

 先月のコラムでアンダードックが優勝するチャンスはあると書いたが、初出場の小国ウェールズがベスト4、アイスランドがベスト8と活躍。新たにヨーロッパのフットボール地図が描きかえられた大会であった。ちなみに得点王はフランスのグリーズマンの6点であった。

 そしてまた新シーズンが8月から各国で始まる―。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
伊藤 庸夫