サッカーアラカルチョ

一覧に戻る

ヨーロッパサッカー回廊『ユーロ始まる。アンダードックは?』

16・06・21
 4年に一度のワールドカップより質的レベルが高く、スピードがあり激しい、すべての参加国の実力が拮抗しているUEFAユーロ2016が6月10日に開幕。今年はフランスが開催国となった。

 3月のパリのテロ事件後、フランスは戒厳令が敷かれた状況化のまま大会開催。各地で警備は今まで以上に厳しい中のスタートとなった。

今回の大会の話題は―

1.参加国が従来の16か国より24か国と8か国増えたこと。

2.レフリーの数がゴール裏の2人を加えて6人となったこと。

3.英国から初めてイングランド、ウェールズ、北アイルランドの3か国出場となった。そしてアイルランド共和国は英国ではないが多くの選手が英国生まれという現実を考えると4か国が出場といえること。

4.毎回優勝候補の一角に挙げられているオランダが予選落ちし一抹の寂しさが残ること。

5.そして過去1992年の伏兵デンマークの優勝、2004年のギリシャの予想外の優勝に続くアンダードックの優勝はあり得るのかであろう。

 果たしてアンダードックが勝ち進んでいけるのか。今回出場の24か国のうち初出場は5か国。アイスランド、ウェールズ、スロバキア、北アイルランド、そしてアルバニアである。過去1回出場国はオーストリアである。この6か国のうちどの国が大国を破って覇権が取れるのか?ちまたではどの国が「ユーロのレスター」(プレミアリーグ優勝クラブ)になりえるのであろうかと期待している。

 英国のブックメーカー(賭け屋)の予想では1000分の1に北アイルランドをあげている。次がアルバニアの500分の1、スロバキア250分の1、アイスランド100分の1と続きオーストリアが80分の1、そしてウェールズがガレス・ベールとアーロン・ラムジーを擁しているだけに66分の1と賭け率は大きい。

 北アイルランドの監督マーチン・オニールも「我々の強さはメンタルの強さだ」と強調、「レスターが5000分の1の賭け率で優勝したのであるから我々が1000分の1の確率で優勝できないことはない」と息巻いている。

 ちなみに北アイルランドの選手の陣容を眺めてみると、プレミアリーグ選手はわずか5人、そのうちマンチェスターユナイテッド出身のDFであったジョニー・エバンス(WBA)がトップチームでプレーしたことがある程度であり、予選ではセンセーショナルなゴールを決めたストライカー、ラファティは降格したノーリッチの選手である。

 また中盤のダラスは、2011年までは建築業の労働者として働きながらプレーするアマチュア選手であった。他のプレミア選手としては36歳WBAのセンターハーフ、ガレス・マッコウリー、キャプテンのデービス(サウサンプトン)がいるだけであとは2部、3部の選手で固めている。勝てば正しくアンダードックそのものであろう。

 ウェールズは期待されている。運悪くイングランドと同じB組、直接対決に勝てばベスト16も夢ではなくベールの活躍次第ではベスト8へも進出できる実力も備えている。あわよくばというチーム力である。期待は大きい。

 そして『Small nation ,Big hearts』と言われているアイスランドも、丁度レスター市と同じ人口33万人の小国ながら、予選ではオランダとのアウエーで1−0と勝利を納めたアンダードックにふさわしいチーム。

 そのアイスランドは、強敵ロナウドを擁するポルトガルとの初戦徹底的に守って1−1の引き分けとした。このアイスランドもアンダードックの一員に入れてもよいだろう。中盤のシグルズソン(スウォンジーシティ)を中心にハードワークをモットーとして戦う姿はユーロでもセンセーションを起こす可能性が高い。

 6月14日現在、ここまでの予選グループでの戦いは予想通り、差のある試合が少なく、どこが勝ってもおかしくない試合の連続となっている。

 B組ではウエールズが初戦スロバキアに、ベールの直接FKがネットを揺るがし2−1と勝利、幸先良いスタートを切った。次は宿敵イングランド戦である。

 そのイングランドは予選全勝の成績を引っ提げてロシアを圧倒するかと思われたが、ディフェンスの弱さを突かれ終了間際、CKから長身センターバック、ベレズツキーに頭で入れられ1−1の引き分けに終わってしまった。大きな大会に弱いイングランドがどこまでいけるかは次のウエールズ戦にかかっている。

 C組のポーランドに果敢に挑戦した北アイルランドは、ポーランドの攻撃力に0−1と惜敗。しかしダイレクトボールを多用しながら、すべての選手が持っている力を100%出し切った戦い振りは、今後の試合に期待を持たせるものであった。

 アンダードックのA組アルバニアはスイスに0−1と敗れた。今のところウェールズがアンダードックの有力候補であろう。

 優勝候補と言われるのは賭け率3分の1のフランスがトップで、ドイツ4分の1、スペイン5分の1、イングランド9分の1となっている。その一角を崩すといわれていたベルギーは予想に反して巧者イタリアに0−2と敗れてしまった。

 C組ドイツは対ウクライナ戦2−0の勝利。地元優勝を狙っているA組のフランスは、対ルーマニアの開幕戦で1−1から89分にプレミアリーグ、ウエストハムのパイエのシュートで2−1と劇的な勝利を収め地元ファンをほっとさせている。

 心配されたISによるテロはまだ起こっていないが、1998年フランスワールドカップでのサポーター同士の衝突をほうふつとさせるロシアサポーターによるイングランドサポーターへの暴行事件がスタジアムで勃発、多数のけが人が出た。ロシアのウルトラサポーターが隊を組み、街での行進は脅威であり、UEFAはロシアに対し罰金を科し、今後再度フーリガン騒動が起これば出場停止処分にすると警告している。

 これから予選グループの試合も進み、ユーロ2016は佳境に入ってくる。アンダードックの出現も期待したいものである。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)