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ヨーロッパサッカー回廊『シーズン終盤の話題』

16・04・19
 ヨーロッパのフットボールも、あと4、5試合で終了し、6月からのユーロ2016フランス大会へと展開していく。パリ、ブリュッセルのテロ事件以来、ヨーロッパの治安は格段に良くなり、各主要都市では厳戒警戒のため、いたるところに警官がパトロールしており、今が一番安全な時ではないかと思われる。

 筆者もバルセロナへ行く機会があり安全面を気にかけていたが、その心配は全くなく、安心して現地でスペインのフットボールを観戦できた。また世界一といわれるバルサのパスフットボールは生きているのか興味を持って見た。

 まずはチャンピオンズリーグのバルサ対アトレティコマドリッドの第1戦。バルサのホームで対戦ということもあり、バルサがアトレティコを圧倒するかと思われたが、前半にアトレティコのトーレスがスルーパスに反応し、GKの股の中を抜くシュートで1点。アウエーゴールで先制した。

 しかしそのトーレスが前半35分に、2枚目のイエローカードをもらい退場。10人となったアトレティコはディフェンスに徹したが、やはりバルサはバルサ、後半スアレスが2点をもぎ取り逆転勝利した。

 その中、あのメッシは絶不調。チャンピオンズリーグ前のレアル・マドリッド戦でも1−2と敗れておりメッシの得点はなかった。このアトレティコ戦でもゴールを決められず、ちまたではパナマのオフショアー会社への投資で税金逃れをしていると暴露され、過去にもあった脱税の容疑で捜査される可能性も出てきているため、プレーに精彩がないと噂されている。

 そして1週間後、アウエーのバルサはアトレティコのグリーズマンの2得点で沈没、準決勝へ進めなくなった。結局残ったのはマドリッドのアトレティコとレアル、ドイツのバイエルン・ミュンヘンとイングランドのマンチェスターシティとなった。

 ホームで逆転勝利をつかんだアトレティコは、バルサのパスを高い位置でプレスをかけ、パスコースを切ったシモーネ監督の戦術が生きた試合であった。

 果たしてバルサは、このままスペインリーガで優勝できるのか。マドリッドの2チームが追ってきており、予断が許せない。それにしてもメッシの不調がフットボールではなく、税金問題とは。また同じくネイマールもダブルエージェントによる脱税問題で当局から査問されており、バルサの不調はフットボールにない問題から出ており、この終盤どうなるか注目である。

 ドイツはバイエルン・ミュンヘンでほぼ決まり、フランスも圧倒的差でパリ・サンジェルマンがすでに覇者確定となった。一方、イングランドはあと4試合残してUnderdog(アンダードック)のレスターが2位スパーズの猛追をかわして初タイトルの可能性が高い。

 4月17日現在、スパーズとの差7ポイント。しかし17日のウエストハム戦は2−2と引き分け。しかも主砲ストライカーのバーディーが2枚のイエローを受け退場。追加処分もあり、残り4試合のうち2試合出場できなくなったのは痛い。彼のゴールでレスターは勝ち抜いてきており、彼なしのレスターが果たしてポイントを上げられるか、初優勝できるか、サポーターにとっては眠れない夜が続く。

 イングランドの降格争いも激しい展開を呈している。ボトムのアストンビラは遂に降格決定した。28年間1部(プレミアリーグ)を維持した名門クラブも、来期はチャンピオンシップへ転落となった。あと残る2つには名門ニューカッスルとサンダーランドが、ノーリッチと生き残りをかけ、あと4試合戦うことになる。

 今シーズンのプレミアの特徴は、金に任せた巨大チームが没落、若手を活用した新鮮なチームが台頭したことであろう。

 前者はチェルシー、昨年の優勝チームが現在10位。昨年最優秀選手に選ばれたアザールは今シーズン1点も取れずいまや移籍要員になり下がっている。マンチェスターユナイテッドも然り、後半になってやっと若手を活用し5位まで上がってきたが、来シーズンのチャンピオンズリーグ出場権は望めない。

 一方、台頭著しいのは前述のレスター、若手に切り替えたスパーズ、6位につけているウエストハム、そして7位のサウザンプトンである。一致しているのは有名選手、移籍金の高い選手ではなく、地道にアカデミーで若手選手を育ててきたチームが金持ちチームにとって代わってきたことであろう。

 そして6月23日、英国は国民投票でEUからの脱退か否かが決まる。もし脱退となると、英国クラブに登録されている選手のうち、125人は英国クラブへ登録できないレベルの選手と判定されること必至である。

 現在、英国ではEU国籍の選手は自由に移籍が出来るが、EU以外の選手はその国の代表としてAマッチに75%出場していることが条件となっている。125人の選手はEU国(フランス、ドイツ、ポーランド等々)選手として英国での労働が許可されているが、そのうち何人が代表歴75%を達成しているかというとその数は少ない。

 このことは、外国人選手を獲得するより自国の選手を育成しレベルアップするしかなくなることを示唆している。無用な125人のEU選手の代わりに、125人の英国選手が生まれることの方が英国のレベルアップになるのでは―と期待されている。

 この国民投票の行方は、難民受け入れ拒否問題、経済問題、医療福祉問題とも複雑に絡み、現在のところ50:50と拮抗しているが、フットボールにも大きな影響を与える国民投票である。皆さまも注目してください。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
伊藤 庸夫