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ヨーロッパサッカー回廊『ウインター・ウインドー』

16・02・18
 プレミアリーグも思わぬダークホース、レスターの快進撃で盛り上がっている。現在トップを走り、1995年のブラックバーン優勝以来の番狂わせリーグになる確率は高い。そのためこの伏兵を追うビッグ4、アーセナル、マンチェスターシティ、マンチェスターユナイテッド、トッテナムのタイトルへの追い上げが可能かはあと12試合を残すのみとなった。

 シーズン初めの移籍期間サマーウインドーでは史上最高の898.7百万ポンド(約1,617億円=180円/ポンド換算)の移籍金が動いた。

 中でもマンチェスターシティは、154.2百万ポンド(277億円)をかけ、イングランド代表スターリング(リバプール)、デルフ(アストンビラ)、そしてドイツ・ヴォルフスブルクからデ・ブライネ(55百万ポンド)等を獲得。昨年チェルシーに持って行かれた優勝を取り戻そうと大補強した。

 ライバルのマンチェスターユナイテッドも115百万ポンドを使い補強、チェルシーも73百万ポンド、リバプールも88百万ポンドといった大型補強をしてのシーズン明けであった。

 しかし結果はというと、チェルシーの突然の衰退(現在は12位)、昨年優勝と同じメンバーでのチーム不調、その結果は『スペシャルワン』を自称する監督モウリーニョの更迭となり、今シーズンのトップ4には遠い存在となっている。

 一方、両マンチェスタークラブ、シティとユナイテッドも期待を裏切るパフォーマンスでシティは現在4位、ユナイテッドはシティから6ポイントも離され5位、来シーズンのチャンピオンズリーグへの切符確保は絶望的となっている。

 アーセナルは知将、経済学士ベンゲル監督の計算では、さしたる補強を避け、現有勢力でのチャンピオン挑戦を掲げ、移籍にかけた金額は13百万ポンドと列強とは段違いに少ないが、現在3位。まだチャンスを残している。

 そしてこのウインター・ウインドウが2月1日締め切られた。上記各チームは補強に血祭を挙げるかと期待されたが、首脳陣は動かず、目ぼしい選手の移籍は成り立たなかった。ユナイテッドはゼロであり、シティも15万ポンド、いわば補強皆無となった。チェルシーも3.5百万ポンド、アーセナルも5百万ポンドに過ぎなかった。

 なぜか?

 どうも各クラブの首脳陣は、選手より監督をどうするかを見極めて来シーズンでの巻き返しを図ることに重点を置き、ギャンブルに近い選手の補強は二の次と考えたようだ。

 その第一弾がシティの監督マニュエル・ベジェグリー二がウインドウが閉まる直前の記者会見で、「来シーズンの契約延長はしない。この6月でシティを去る」と、表明したことである。

 クラブ側からの慰留はなく、逆にクラブは「来シーズンは現在バイエルンミュンヘン監督のジョセップ・グアルディオラを招くことに決定し、本人からの承諾を受けている」と電撃的に発表した。

 グアルディオラはバルセロナ育ちの45歳。現役引退後はバルサのBチームコーチとなり、2008年からトップチームの監督に就任。リーガで3回、チャンピオンズリーグでもメッシ、イニエスタ、シャビの生え抜きを中心に2回、クラブワールドカップでも2回優勝、その指導力はカリスマ的でもある。

 彼はマンチュスターユナイテッドからも誘いがあったとされているが、ライバルのシティで来シーズンから指揮を執る。ウインターウインドウで選手を取らなかった理由は、新たに就任するグアルディオラ監督にその補強を委ねた為と言われている。あのメッシが来るのではないかと噂されているが―。今年はさもあれ、来シーズンは楽しみである。

 第二弾としては、一方のライバル、ユナイテッドの監督問題である。過去アレックス・ファーガソン監督の26年に亘る黄金期を経てモイーズ、そして現在のファン・ハールとユナイテッド外からの監督によって、ファンの言葉を借りれば「外様がガタガタにしてしまった」という状況に陥っている。

 今シーズンの低迷ぶりから、いつファン・ハールの首を取るか、誰が後釜になるかが最大の関心時となってしまった。チームはオランダ式頑固フォーメーションに対応できず、今シーズン26試合で41ポイントとプレミア開幕92年以来、最悪の結果となっている。当然、補強よりはまずは監督を代え、次にその監督が選手を獲得するという手順に方向転換したようだ。

 最近は、ユナイテッドの首脳陣が密かにチェルシーを更迭されたモウリーニョと接触をしており、早晩監督交代は当然の秘訣であると目されている。

 しかし、一方では「ユナイテッドは歴史的にホームグロウンの選手を育てチームを栄光に導いた。ユナイテッドの匂いを嗅ぎ、ユナイテッドのシステムを感じ、ユナイテッドのメンタリティを保持する監督でなければ、いくら外から優秀なる監督といえども成功はおぼつかない」とする声が多く、「アシスタントの生え抜き、ライアン・ギグスこそユナイテッド監督の後継者である」とギグスを推す声が大きくなっている。

 モウリーニョ監督はチェルシー時代、選手を買って強くする監督としての評価は高いが、ユースアカデミーからの選手は皆無であったと批判する声も高い。

 果たしてマット・バスビー監督時代のボビー・チャールトン、ビル・フォルケス、ジョージ・ベスト、デニス・ロー、そしてファーガソン監督時代の『ゴールデン92』と言われるデービッド・ベッカム、ネビル兄弟、スコールズ、ニッキー・バッドといった名選手を生み出した、伝統あるユース生え抜き選手を育て、世界に君臨するクラブにできる監督を期待するのか、ともあれ優勝すればよいとする外国資本家によるクラブ経営がよいのか、ユナイテッドの監督選びは勝敗とは別に、スポーツの在り方にも影響する事件となること必須である。

 そして、躍進著しいトッテナム(現在2位)の監督、アルゼンチン人マウリシオ・ポチェッティーノも注目を浴びている。サウサンプトンの監督として、若手を育てプレミア上位の常連に仕立て上げた手腕は高く評価されており、トッテナム躍進の推進者である。

 ハリーケーンを発掘、そして攻撃的MFのアリの活躍で現在2位、あわよくばリネカー、ガスコインが在籍していた頃の栄華を呼び起こすのでは期待されている。このポチェッティーノ監督をユナイテッドへという声も多い。さてどうなるか。

 優勝争いも激しくなるこれからの後半戦、次期監督を巡っての展開も目が離せない。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
伊藤 庸夫