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ヨーロッパサッカー回廊『FIFA会長選立候補締め切られる』

15・11・16
 金まみれ―。W杯開催地投票を巡る贈賄、収賄スキャンダルにまみれ、7名もの元FIFA役員がアメリカ司法当局とスイス当局に逮捕され、現会長のブラッターも辞任を表明し、新たな会長選を2016年2月26日に行うことを決めた。

 しかし、その本人ブラッターも現UEFA会長プラティニへ契約書のない口頭でのコンサルタント料を支払ったとするスキャンダルで現在職務停止の処分を受け、それが原因かうつ病となり入院中という。

 そのなかで新たな会長候補者がFIFAの内部組織である倫理委員会調査室の厳格なチェックの上、11月12日に5人の候補者が審査に合格し発表された。

 元FIFA副会長のプリンス・アリ・ビン・アル・フセイン(ヨルダン)。彼は先の会長選で現会長のブラッターに対抗して出馬し敗北しているが、多くのサポーターを得ており再度出馬を決め、候補者名簿に載った。そして同じアジアからAFC(アジアフットボール協会)会長であるバーレーンのシェイク・サルモン・ビン・エブラヒム・アル・カリファ氏も候補者となった。

 ヨーロッパからは元FIFAのフランス人ジェローム・シャンパーニュ氏と現在UEFAの事務局長であるジャンニ・インファチノ氏の2人、南アフリカからは実業家であるトウキョウ・セクワレイ氏が候補者となり、この5人から次期FIFA会長が選出されることとなったのである(候補となるためには少なくとも5か国以上の推薦が必要であった)。

 本命視されていたプラティニは、ブラッターからコンサルタント料を口約束で数年にわたり合計2.1百万スイスフラン(約2.5億円)相当を受けていたとされ、彼もFIFAの理事の職務定職処分を受けており、出馬はできなくなったのである。

 一時噂されたドイツのベッケンバウアーも、2006年のドイツ開催招致での疑惑から出馬はできず、またブラジルのジーコは会長職への意欲を示していたが5か国の推薦が取れず断念。FIFA事務局長であったブラッターの懐刀、ジェローム・バルケも南アがワールドカップ開催のため10百万ドルを中南米協会へ不法支払をしたことで実質解雇となり、対象外となった。そして韓国の元FIFA副会長、チョンモンジュン氏も疑惑ありとの判定を受け辞退した。

 果たして、腐りきったFIFAの体質改善と清廉なスポーツ団体としての行動規範を全うし、巨大化した組織を運営していける御仁は誰なのか? 適任者は上記の候補者にいるのか? 2月26日世界の加盟国209か国の代表者による選挙は、これからのワールドフットボールの行方を占う上で重要なものとなろう。

 しかし、この選挙も従来はそれぞれの大陸ごとの協会で票取りまとめを行い、いわば集団投票していた経緯もあり、果たして今度こそ各国独自の判断での投票となるかも注目されている。

 FIFAの総収入は、2011年〜14年の4年間で5,718百万ドル(約6,860億円)と巨大化し、特にテレビ放映権料の高騰による収入は全体の45%にも上っている。この利権に食いつくFIFA理事間でのマフィアまがいの取引は汚職を生み贈収賄は日常茶飯事となり、その資金の流れはマネーロンダリングとして闇金化していたのである。

 新たに選任される会長は、FIFA倫理委員会と共に経理的にも、法的にもクリーンであることが求められている。その中でスポーツのビジネス世界一となったフットボールの普及と発展拡大化へ舵取る器量も求められる。クリーンであり、公正であり、かつスポーツの楽しみを広げられる人材でなければならない。

 過去問題があった中南米、南米、アフリカといった大陸連盟はあわよくばFIFAからの恩恵を受けるだけに注力していたとも思われるが、もう一度原点に戻ってフットボールの良さと普及、環境整備に注力していかなければならないであろう。

 一癖も二癖もあるビジネス優先の組織に染まったFIFAから、清廉潔白とは言わないが、せめて清廉なるスポーツを愛するインテリジェンスある会長が選任されることを祈るばかりである。

 過去の会長の例を見ると、やはりイングランドから会長となったスタンレー・ラウス氏を思い出す。彼はレフリー出身の高潔な紳士であり、まだフットボールがこれほど経済的に巨大化する以前の会長ではあったが、その言論には機知とユーモアに包まれていた。1961年から1974年まで黎明期のFIFAの会長であったが今こそ彼のような御仁が求められているのではないだろうか。

 2月26日果たして日本は誰に投票するのであろうか? これにも注目したい。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
現在:T M ITO Ltd.(UK)代表取締役
伊藤 庸夫