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ヨーロッパサッカー回廊『ホーム・インターナショナルズ国そろい踏みか』

15・09・14
 この9月初めは、世界のフットボール界はインターナショナルデイとしてトップリーグは休みに入る時期である。

 ヨーロッパではこの期間、来年フランスで開催の『UEFA EURO 2016』の予選7試合目、8試合目の2試合が9グループ、53か国が参加し行われた。本大会へ進めるのは各グループ2位までと各グループのそれぞれ3位の中でトップの勝ち点を挙げた国が自動出場、その他3位の中で残った8チームがプレーオフを行い、勝ち抜いた4か国が出場できるというもの。

 このフランス大会は従来の16か国から24か国に拡大して行われる。その意味では、今までの激しい出場争いからは緩和され、ヨーロッパの有力国の出場はかなり楽になったはずである。

 しかしフットボールは何が起きても不思議ではない世界。あと2試合を残して番狂わせも出てきている。

 まずは「ホーム・インターナショナルズ国」そろい踏みかの話題である。

 「ホーム・インターナショナルズ」とは?

 この「ホーム・インターナショナルズ」という言葉の由来は世界の近代フットボール起源ともいうべき、イングランド、スコットランド、ウェールズ、そして北アイルランドの4か国(国としては『United Kingdom of Great Britain & Northern Ireland=UK』いわゆる英国)が毎年持ち回りで開催されていた最古のインターナショナルズ大会(ブリティッシュ・ホーム・チャンピオンシップ)を称する言葉である。

 1884年から1984年まで連綿と続けた大会であるが、伝統の行事もサッチャー政権下、フーリガン防止のため1984年を持って終了した。当時からイングランド対スコットランドは長年の怨念を持ち、毎試合観客がフーリガン化するのは当たり前であったため終了させられたのである。しかし、FIFAのワールドカップが開催されたのは1930年であるからその歴史は歴然である。

 イングランド(E組)は9月6日のサンマリノ戦に6−0と圧勝しグループ1位として『UEFA EURO 2016』の出場を決めた。そして9月9日の対スイス戦ではキャプテン、ルーニーがPKを決め、今までボビー・チャールトンが保持していた生涯代表得点49点を超える50点目を挙げ快勝、8試合無敗と近年になく好調である。来年のイングランドへの期待は大きい。

 更に、1958年のワールドカップ出場以来、国際大会への出場はなかったウェールズ(B組)がグループトップで8試合を終えた。7試合目のキプロス戦では現在レアル・マドリッドのトップ選手となったガレス・ベイルの強烈なヘディングシュートで勝利。次のホームでのイスラエル戦に勝てば58年振りの国際大会への出場が決まるはずであったが、ホームで硬くなったのか得点を取れず0−0で引き分け、あと2試合に出場を賭けることになった。

 最終戦が弱小国アンドラなので、ほぼフランスへの切符は手にしたことになる。人口400万人の小国ウェールズにはベイル、そしてアーセナルの中盤アーロン・ラムジーと久し振りにトップ選手が巡ってきており、大会のダークホースとして期待されている。ちなみにFIFAランクもイングランドを超え現在9位である。

 そして最後のワールドカップ出場は1986年という、北アイルランド(F組)の好調振りも久しい。

 9月7日のハンガリー戦、勝てば国際大会に30年振りの出場となる地元のベルファーストは燃えていた。しかしハンガリーに1点先行され、クリス・バードが2枚のイエローで退場、夢破れたの感もあったが後半アディショナルタイムにラファティがゴール前の混戦から点をもぎ取り、引き分けた。あと2試合(ギリシャ、フィンランド)で勝ち点2を取れば晴れの大会出場を果たす。

 スコットランド(D組)はというと、ドイツ、ポーランド、アイルランドと激戦組で期待を寄せていたが、9月5日ジョージア戦に0−1とアウエーで敗れ、9月8日ドイツ戦には前半2−2と善戦するも、結局ドイツのギュンドアンに決められ2−3と敗退。グループ4位となっており、残念ながらホーム・インターナショナルズ国すべての出場は厳しい状況となった。

 ただあと2試合、対ポーランドそしてジブラルタル戦に、勝ち点4点(1勝1分)を挙げ、準ホーム・インターナショナルズともいうべき現在3位のアイルランドが次のドイツ、ポーランド戦に負ければ、わずかながらプレーオフでの逆転出場の可能性はある。

 いずれにせよ、UKの4か国そろい踏みの期待は大きくなってきている。

 そして現在、A組のアイスランドとチェコ、E組のイングランド、G組オーストリアが出場を決めた。一方ワールドカップ3位のオランダは低迷、A組4位と出場が危ぶまれている。

 このホーム・インターナショナルズ国躍進の要因の底には、世代交代を担う若手選手が、厳しいプレミアの世界一流選手との競争のなかで伸びてきたことが挙げられる。その最たる例がイングランド代表の若手選手たちであろう。

 スイス戦にはクライン(24歳リバプール)、スモーリング(25歳Mユナイテッド)、バークレイ(21歳エバートン)、シェルビー(23歳スウォンジー)、スターリング(20歳Mシテイ)、オックス・チェンバレン(22歳アーセナル)、ショウ(20歳Mユナイテッド)、ストーンズ(21歳エバートン)、そして代表3点目を挙げたハリー・ケーン(21歳スパーズ)が出場。過去の30歳に近い選手が中心であった代表が若返っている。

 ウェールズにおいてもベイル(24歳レアル・マドリッド)、ラムジー(25歳アーセナル)といったトップ選手が成長しており、プレミアリーグで揉まれ育つことが代表を強くする要因ともいえよう。

 今年の9月1日の移籍ウインドウではトータル898.7百万ポンド(1663億円)の移籍金が発生、また世界の一流選手がプレミアリーグに移籍してきた。若手の出る幕は少なってきていることも事実であり、マンチェスターシティ、チェルシーではレギュラーのUKの選手は1人か2人である。

 しかし物事を悲観的にとらえず、この『UEFA EURO2016』に向けた4か国の活躍は新たな芽を育てることがいかに重要であるかを示しているだろう。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
現在:T M ITO Ltd.(UK)代表取締役
伊藤 庸夫