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ヨーロッパサッカー回廊『その後のFIFA』

15・07・19
 スキャンダルまみれに塗りつぶされたFIFAはその後どうなったのか?

 先の「FIFA Women’s World Cup Canada2015」の決勝戦、アメリカが日本に5−2と圧勝し優勝したが、セレモニーには当然居るべきFIFA会長のブラッターの姿はなかった。代理に出てきた副会長イサ・ハヤト(カメルーン)には凄まじいブーイングが起こった。

 ブラッターは5月の会長選で対抗馬ヨルダンのプリンス・アリに圧勝したが、世界のフットボール界から、そして良識ある世界の機関からレッドカードを突きつけられた形で辞任した。しかし今年の12月の再選のためのFIFA臨時総会まで実権を持つことで現在もぬけぬけと覇権に執着しているのである。その12月の総会も最近では来年に延期する方向で進んでいるといわれている。

 理事間での汚職、収賄、わいろを取り締り、理事を逮捕した当局はUSAのFBIであり各国にまたがる疑惑者は通称「フットボールマフィア」の異名を持つトリニダード・トバコのジャック・ワーナーを中心に南米・南ヨーロッパに広がっている。2010年の南ア開催にまつわる贈賄疑獄、そして2018年ロシア、2022年カタール開催については、アジアフットボール協会長であった、ビン・ハマンの暗躍があったとされている。彼はFIFAによりフットボール界からの追放処分となってはいるが。

 フットボールがその放映権、コマーシャル等の資金の膨大化により、例えFIFA会長であるとはいえ、全体を把握し、コントロールできるほどの経営規模ではなくなってきたのである。その資金を巡っての世界的な分捕り合戦がブラッターの陰で行われていたのだ。

 それをビジネスと呼ぶか、わいろによる不正取引と呼ぶかは各国の法制度にもよるが、USAだけは私的取引の中に不正なわいろ的なビジネスがあれば摘発できる制度を持っており、今回のFIFA理事を含む7人の逮捕に踏み切ったのである。

 混迷を深めるFIFAの今後は、次期会長に誰がなるかにかかっている。自浄作用出来る体制を作るためにもフットボールを知り、ビジネスを知り、かつ崇高な理念を持った人格者が求められている。

 果たして誰がまずは立候補するのか。

 ちまたでは、UEFA会長プラティニを推す勢力もある。選手としては世界のトップスターとなり、UEFA会長としての政治的、事務的能力もあるとされている。しかし一方ではカタール開催を応援支持した裏にはオイルマネーが動いたのでは―という疑惑もある。

 前回のブラッター当選時、唯一の対抗馬となったヨルダンのプリンス・アリの声も高いが、プラティニが出馬すれば降りると明言しており、対抗馬となりえない要素を持っている。

 一時、立候補を表明していたフランスのシャンパーニュの声も聞こえてくるが、一回辞退しているだけにインパクトはない。マラドーナが意欲を示しているが、果たしてマネージメントの力はあるのかという点では失格であろう。

 ダークホース的に出馬を期待されているのが、現在イングランドプレミアリーグ会長のスカダモアである。

 世界一のリーグを構築し、放映権の分配方式も公正に行い、プレミアリーグ以下のプロリーグへもその発展するための資金を確保するシステムマネージメントは大資金を運用するFIFAのトップとしてふさわしいと期待されているのだ。

 しかし、FIFAが誕生時(1904年)フットボール発祥の国イングランドが入っていなかったという歴史的ハンデがあり、フットボール後進国からはスノッブ的な英国会長が生まれるのを避けたいという意識も強く、立候補しても当選できるかが問題である。過去にスタンレー・ラウス氏が、かのアベランジェ会長(ブラジル)前のFIFA会長として君臨していたが、当時はまだ現在のような金まみれの時代ではなかっただけに、スキャンダルもなく無難に世界のフットボール界をマネージできていた時代とは違うようだ。

 現副会長のイサ・ハヤトも名前として挙がっているが、果たしてアフリカのカメルーン出身の彼が世界のビジネスオリエンテッドなFIFAをマネージできるとは思えない。

 そこへ新たな新進気鋭の名前が飛び出てきた。

 イタリア系スイス人のドミニコ・スカラである。2012年にFIFAの「Head of Audit & Compliance(会計検査・法令順守の長)」として任命され、言わば現在の疑惑のFIFA会計を熟知している能吏である。乱れた金まみれを正し、新たなFIFAを目指すにはうってつけの人材と言われている。

 少なくとも年間1兆円にも近い数字の売上を生む組織には、野放図に発展させるプロモーターよりは地道にフットボールを世界に普及させ、軌道修正ができる人材がトップに求められているのではないだろうか。

 フットボールバカでは手に負えない。ビジネスマンでは腐敗を生む。スポーツとしてのフットボールを愛し、かつ公正なマネージメント(フットボール運営、マーケティング、健全会計、普及など)を世界に向けて実施できる御仁こそが大組織のトップとして求められるのではないだろうか。

 インターナショナルスポーツ組織という面からは、ビジネスの面での経験不足(法的外国語、国際会計、国際事業、影響力など)を補う卓越した人材が求められているのである。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
現在:T M ITO Ltd.(UK)代表取締役
伊藤 庸夫