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ヨーロッパサッカー回廊『フットボール疑惑』

14・12・15
 過去にも多くあった。現在も多くある。政治の世界にも、経済の世界にも、外交の世界にもある。

 フェアプレーを真髄とするスポーツの世界にはないということではない。勝つ、負ける、お金が絡む、そこには必ず存在するもの。それは『疑惑』である。

 『疑惑』とは何ぞや?八百長と言ってもよいであろう。不当な金をもって勝敗を作為的に決めることである。しかし、その事実が犯罪要件となれば当然、法の裁きを受けることになるが、多くは闇の中に埋没してしまうことが多い。

 フットボールでの疑惑は過去種々のケースで発生していた。筆者が知っているケースを取り上げてみても、幾つかあった。

 例えば1994年に、リバプールのGKブルース・グロベラー(元ジンバブエ代表)がその勝敗の疑惑の対象となったことがある。大衆紙サンが現金の受渡しの場面を公表し、マレーシアの賭け屋からグロベラーが現金を受け取ったと報じたのである。そしてリバプールの試合で相手のシュートに対し逆に飛び、シュートを入れさせようとした場面も公表したのである。

 しかし、実際には逆に飛んだが、足にかすかに当たり得点とはならなかった。この疑惑のため、グロベラーは告訴され3年にわたり公判が行われたが、結局証拠不十分で無罪が確定した。しかし一方でマレーシアの賭け屋は有罪となっている。彼は裁判中もプレーを続けたが、疑惑となった時点でリバプールは彼を他チームへ移籍させている。

 また、1995年のシーズンと記憶しているが、ロンドンのクリスタルパレス対アーセナルの試合は前半終了した時点で照明が消え、後半の試合が出来なくなった。単なる電気の故障とみなされていたが、2年後にクリスタルパレスのスタジアムの電気技師が逮捕された。本人が東南アジアの賭け屋シンジケートの手先として、その試合のハーフタイムに電気を落としてしまった事を白状し、有罪となったことがある。この試合ではフットボールクラブのスタッフ、選手が巻き込まれることはなかった。

 多くの場合、世界のフットボールは今や賭け屋、それも公式賭け屋(政府からの認可を受けている賭け屋。英国では「Book Maker」と言われている)から闇に隠れたシンジケートによって、莫大な金が賭けられているのだ。

 ましてやトップ1部からの降格、2部からの昇格という事態に陥ったチームはこれまた莫大な資金面でのUp&Downがありクラブ経営に大きな影響を与えている。プレミアリーグでは、下部へ降格すれば60億円もの放映権料が無くなる。スペインリーガでもブンデスリーガでも、セリエでも同じである。天国から地獄へ落ちるのは誰もが望まない。

 クラブ経営者、監督、選手は何とか残るための手立てを講じることは自然の成り行きである。しかもそれが最終戦で勝つか負けるかで決まるとすれば、そして相手はそのリーグで安泰の地位にいれば、誰でも疑惑の助け舟を考えないこともないであろう。フェア・プレーをうたい文句としているスポーツ。スポーツだからこそ真剣勝負で雌雄を決するのが本来の姿であるが、外国人出稼ぎ監督、選手にとっては首を賭けた勝負に何でもありと考えるのも致し方ないのかもしれない。

 そこに落とし穴が待っている。相手の買収もそのひとつであろう。

 安泰側のチームは最終戦生き残りをかけた相手に対し、どのような態度で対戦するのか。Easyに行くのかHardに勝ちに行くのか。明日は我が身と考えて、適当に息抜きする試合をするかもしれない。そこに何らかのアプローチをかけ、あたかも真剣勝負のような試合をしているように見せかけ、負け試合を演じてしまうこともあるのではないか。

 外国人監督、選手は一般的にマルチに口座を持っている。自国とプレーしている国、そして他国(タックスヘブンの国)の銀行口座に報酬を分散している場合も多い。闇金は、合法的にそれぞれの口座に鎮座出来るのである。もちろんクラブと個人との契約によるが、現在のように代理人が介在する契約では、いかようにもなる可能性も高い。

 スポーツのフェアー性を追及する面からみれば、これらのいわば抜道契約は合法であっても、モラルの点からは糾弾できる側面はあってしかるべきであろう。

 昨今、話題となっているJapan代表監督の疑惑も、法的には合法かもしれないが、モラル的には疑惑が起こり裁判沙汰になる気配濃厚であれば、当然「ペルソナ・ノン・グラタ(好ましからざる人物)」として更迭することが日本人の心情ではないのであろうか。

 例え裁判で無罪となっても、Cheating(不正)していたのであれば、モラル的に有罪であって然るべきことと思われる。疑惑の状態で更迭した場合は、契約期間の報酬を賠償しなければならないという点は、契約の準拠法が日本であれば日本法が適用されるわけで、有能な国際弁護士がついていれば、裁判では勝てるのではないかと思われる。

 しかし、重要なことはすぐ始まるアジアカップの準備である。少々の犠牲を払ってでも、新たな陣容で準備することが先ではないだろうか。彼しか人材はいないわけではないであろうし、果たして彼がJapanのトップとしてふさわしい人間であるのか。

 代表というのは、実績、スキル、技術だけではなく、それ以上の品格、人格共に一流でなくてはならないことを忘れてはならない。

 皆様はどう考えますか―。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
現在:T M ITO Ltd.(UK)代表取締役
伊藤 庸夫