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ヨーロッパサッカー回廊『ユーロ2016予選開始とビデオ判定の導入?』

14・09・18
 9月に入り2016年フランスで開催されるユーロ(欧州選手権)の予選が始まった。つい先頃ワールドカップが終わったばかりなのに、また新たな戦いが始まったのである。

 多くの選手が代表からの引退を表明し、新たな勢力で国の威信をかけた覇権を求めての戦いが始まったのである。優勝したドイツからはキャプテンのラームとストライカーのクローゼ、フランスではリベリー、更にイングランドもキャプテンのジェラード、ランバードが代表から退いた。そして彼らに代わる新星選手も多く生まれてきた。

 ドイツはスコットランドと戦い、2−1と勝つことはできたが、支柱なき新チームの厳しい船出となった。W杯ベスト3のオランダはルイ・ファン・ハールがマンチェスターユナイテッドの監督となったことで、カリスマ指導者が不在となり、若手に切り替えたチェコに1−2で逆転負けの番狂わせを喫した。

 またW杯ではあっけなく予選最下位で敗退したイングランドは若手に切り替えたが、ノルウェーとのフレンドリーマッチでわずか2本しかシュートを打てず、前途多難のスタートを切った。しかしスイスとのアウエーでの初戦では過去最年少平均年齢24.2歳のチームで臨み、移籍ウィンドーの最終日にMユナイテッドからアーセナルに16百万ポンドで移籍したウエルベック(23歳)の2ゴールで事前の予想を覆し2−0と勝利、諦めていたイングランドサポーターを沸かせた試合を展開した。このイングランドは19歳のワンダーボーイ、スターリング(リバプール)、20歳のストーンズ(エバートン)を右フルバックに起用、新星時代の草分けとなると期待されている。

 クリスティアーノ・ロナウドを負傷で欠くポルトガルはアルバニアに0−1でまさかの敗退、ワンマンチームでは勝てないことを証明してしまった。ワールドカップを終えてわずか1か月半にこれだけチームが変わるものかということを示した予選第1戦であった。

 さてそのユーロ2016に新しい審判判定方法が採用されるかもしれない。

 FIFAのブラッター会長は次期会長選でUEFAの会長プラティニが出馬しないことを表明したことで、ほぼ次期会長に無投票で5期目の会長となる可能性が高くなってきた。

 そのブラッター会長は、ブラジルW杯から導入されたゴールライン・テクノロジーの機器導入が成功したこともあり、今までの多くの論議を呼んだ人間の目による審判の判定だけで、これだけ高速化し、激しさも増した近代のフットボールの判定をすることはほぼ不可能に近いと判断。新たにチーム監督による判定へのアピールの機会を認め、監督、主審とがビデオを見て最終的に審判(主審)が判定できるようにすべきと提案、来年行われるU−20世界大会での実験を検討することとなった。

 このアピールによる判定は現在テニスでは行われており、1試合3回選手が判定に対しアピールできるもの。アピールに対しビデオでボールの軌跡を追いそのボールがInかOutかを判定するもので、アピールが通れば3回のアピール権は残るがアピールが拒否されると1回のアピール権が消滅する仕組みである。映像は観客にも示されるが、あくまで決定は主審が行うものである。

 ラグビーではトライの判定ができない場合、主審がビデオで確認し判定しているが確認は主審が行うものでチームからのアピールではない。

 今回のブラッター会長の提案は現状のテニス方式を踏むもので、アピール権はチーム監督がオフプレーになった際に行使し、当該監督と主審がビデオを見て最終的に主審が判定を決定するというものである。

 フットボールがテニス、ラグビーのように一時的にストッププレーがあるスポーツではなく、反則以外は流れている試合を止めるわけにはいかない。果たしてオフプレーになった時に時間を遡って判定することが選手、観客の同意が得られるのか、流れの中で戦うスポーツに合ったビデオ判定であるか今後論議を呼ぶことであろう。

 フットボールでの判定で難しいのは、特に得点シーンの中では、オフサイドの判定が挙げられる。

 現ルールでは副審(線審)の判断で旗が挙げられるが人間の目が必ずしも的確であるわけではなく、ビデオを使うことで、明らかにオフサイドラインかどうかが判定されることはより正確な判断がなされる点で受け入れられるであろう。

 またシュートを打ったボールが相手の手に当たったハンドの反則か否かも得点に絡む論議を呼ぶシーンであるが、これも鮮明にハンドか否か正確に判定されることになる。

 そしてペナルティエリア内でのダイビングなのか、ファールでPKなのかこのビデオ判定があればより正確になるが、笛が鳴らず流れた場合アピールしたとしても元に戻すことができるのかといった問題点は残る。今後実施するとすれば、詳細な例を示さないと試合の流れを切るだけになり不興を呼ぶ可能性もある。

 またアマチュア、ジュニア、ユース年代での試合はどうなるのであろうか。このような試合では第3者がビデオを撮っている場合は少ない。従いプロの試合が対象となるのであろう。あるいはUEFA大会とかW杯とかの国際大会だけの適用であるかも論議される必要がある。

 ともあれ、人間による人間のスポーツであるフットボールにも機械化が導入される可能性は強くなってきた。正しい判定をするには一歩前進であるが、判定を委ねる審判をリスペクトするという精神もスポーツの世界の中では必要なのではないだろうか。

 法も成文法と慣習法があり、時代時代に合った常識で判断するということも人間社会の中では必要ではないかと思われるがいかがであろうか。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
現在:T M ITO Ltd.(UK)代表取締役
伊藤 庸夫