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ヨーロッパサッカー回廊『監督よりドクターの方が上』

14・08・11
 プレミアリーグの開幕戦ともいうべきコミュニティシールドが8月10日ウェンブレースタジアムで行われた。前シーズン優勝のマンチェスターシティとFAカップ優勝のアーセナルとの対戦であった。結果はカソルラ、ラムジー、そしてジルーの得点で3−0とアーセナルの圧勝であった。ワールドカップで活躍したチリのサンチェスの加入はアーセナルに攻撃の速さを与え、今シーズン久しぶりの優勝も狙えるまでになっていることを示した。

 ワールドカップの直後のリーグ開幕であり、各チームの補強がどれだけか、また、どのクラブが優勝するのかを占うことに注目度が置かれており、その意味ではマンチェスターシティのパフォーマンスはまだチーム化していない感が強く、果たして2連覇出来るか課題が多いようだ。

 さてそのフットボールについて、英国のメディアは押し寄せる荒波によってクラブは破滅するとの衝撃的な事態を予想している。

 FAのドクターであるイアン・ビアズレイ氏が「アメリカンフットボールの選手がアメリカNFLの試合で頭を強打し初期の認知証になった。その後、家族が裁判を起こし、結局870百万ポンド(約1,479億円)を勝ち取った。

 この判例は今後あらゆるスポーツにも反映される。そのためフットボールの試合でのヘッドインジュリー(頭部の負傷)の対処は今まで以上に慎重かつ綿密に行わなければいけない」とし、過去幾度となくあった事例もその対象となりかねないと指摘、「今後はピッチ上で頭のけがが発生した場合は、ドクターがその選手がプレー出来るか出来ないか判断しなければならない。今までのように監督がベンチ入りしたドクターまたはフィジオの意見を聞き最終的にプレーさせたり交代させたりすることは避けなければならない」と警告している(注:フィジオセラピストと呼び、日本の理学療法士とは異なり、スポーツ専門家から4年間のコースを経て資格を取得し、ドクター(医師)の指示なく、診断、治療、リハビリもできる。FAでは特にジュニア、ユースの試合には公式戦であれ練習試合であれフィジオを帯同しないチームは試合ができないと決められている)。

 先のワールドカップの試合でもウルグアイのアルバロ・ペレイラもドイツのクリストフ・クラマーもヘッドインジュリーをしたにもかかわらず監督の判断でプレーを続行したが、今後はこのような事態は避けなければ上記のような多大な損害賠償金が科せられる可能性を秘めており、各チームでは負傷交代にはドクターの指示が絶対であることを義務つける必要性がありそうである。

 過去にはアルツハイマー病で亡くなったスコットランドの元選手が裁判を起こし「1950年代のボールは重くヘディングを度重ねて行った結果がアルツハイマー病となったのだ。その賠償を求める」と。結局この裁判はボールの重さとヘデイングの回数とアルツハイマー病の因果関係が不確定とされ、元選手の遺族の敗訴となったが今後ヘディングでの後遺症についても見直す必要性も出てくるかもしれない。

 一方ではジュニア時代はヘディング中止という案もあり、今後このアメリカの判決によってラグビー、アメリカンフットボールよりは格闘技の要素が低いとみなされるフットボールにも新たな課題が生まれてくる可能性は高い。

 いずれにせよ、規則化するにはFIFAとEngland、Scotland、Wales、北Irelandの5者によるInternational Board(国際評議会)で決めなければならないが、その前に裁判所での判例によって多額の損害賠償金が荒波となって押し寄せた場合に各クラブが財政的に対応できるか今後論議を呼ぶことになろう。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
現在:T M ITO Ltd.(UK)代表取締役
伊藤 庸夫