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ヨーロッパサッカー回廊『W杯始まるも「Infamy」という言葉が躍る』

14・06・17
 6月12日、20回目のワールドカップがブラジル・サンパウロで開幕した。

 初戦から「Infamy」という言葉が躍っている。皆様「Infamy」という言葉の意味が何であるかご存知でしょうか?(是非一度辞書を引いてみてください)。

 2022年大会はカタールに決定したが、その時のAFC会長でもあったビン・ハマム、カタールFA会長が他のFIFA理事を買収し開催権を勝ち取ったとされた問題を受けて、2022年の開催地を再度検討すべきとの声と共に、その開催を決定した現FIFA会長ブラッターの辞任を求める声がUEFAの理事、関係者から持ち上がってきている。

 わずか24名の理事による投票で世界一の規模を誇るスポーツイベントの開催国を決定するので、候補国はFIFA理事の支持を勝ち取らなければならない。ほぼ9割の理事がそれぞれの分野で活躍するビジネスマンで、利権がらみであり、そのためにビジネスと称した裏金、わいろがやり取りされたことは日韓共同開催決定以来のプロセスを見ても明らかであった。

 結局ビン・ハマムはFIFAから追放されたが、そのしこりはまだ残っている。投票のプロセスで5百万ポンドの裏金を使ったとされ、金で買ったカタールの2022年開催は無効であり、再度開催国を決定すべきであるとUEFA会長のプラティニも言わざるを得ない立場に追い込まれてしまった。カタールを支持したプラティニでさえ、堪忍袋の尾が切れてブラッターの再選を阻止しようと声を張り上げてきたのである。

 曰く「Infamy FIFA, Infamy Qatar」である。

 事実、カタールの開催中止となると、他国での開催は次の総会で話し合われるが、その場合は果たして現行の決定投票システムである理事24名による投票から、オリンピック方式の全会員国209票による公正な投票方式に制度改正へと動く可能性はあるのだろうか。「Infamy FIFA」からの脱出は16年もの間君臨した現ブラッター会長から新しい顔への変換も必要となってこよう。

 カタールが開催できなければどこへというのもまた話題となっている。アメリカ、オーストラリア、日本も可能性がある。またまた政治劇を見なければならないことになる。

 さて、そのブラジル大会も始まった。スタジアムの工事の遅れ、多額の投資を批判する民衆の反対、デモ、暴動の中で今大会が成功するかは今後の1か月で答えは出てくるであろう。

 そして第1戦でまた「Infamy」の言葉が見出しとなった。ブラジルが3−1でクロアチアに勝利し6回目の優勝への一歩を踏み出した結果となったが、試合をぶち壊したのが審判の判定であったとヨーロッパメディアが声を荒げたのである。

 まず、前半26分に1点を先取されたブラジルはエース、ネイマールがクロアチアのプレーメーカー、モドリッチへエルボーをかましノックアウトさせたことだ。主審はイエローカードのみ。しかしこのプレーは危険プレーとしてレッドカードに値する。ミスジャッジだ。もしレッドであったなら、ネイマールのその後の2点もなかった。ヨーロッパではレッドだというのだ。

 そして「Big error by the Referee」というのがブラジルの2点目のPKの判定である。クロアチアのセンターバック、ロブレンがセンターフォワードのフレッジを軽くチャージしたのをPKとしたのである。どう見てもダイビングあるいはバランスを崩して自ら倒れたとしか見えない場面であった。レッドを逃れたネイマールが決め1−1となった。「Diving Fred」の見出しが躍った。

 更に1点リードされたクロアチアがゴール前にロビングを挙げセンターフォワード、オリッチがヘッドで落しそれを決めて2−2となったはずが主審はキーパーチャージとして得点を認めず、結局は3−1とブラジルが予想通り開幕戦に勝利したのである。オリッチは完全にGKと競りながらボールを頭でコントロールし、返しておりGKチャージとはならないプレーであった。

 見出しは「The referee’s Infamy may longer to live down」(レフリーの汚名はずっと持ち続けられるであろう)であった。前大会の南アでブラジル選手を退場させた同じ主審であり、お返しをしたのではと揶揄されている。

 この3つのエラーをした主審への評価は10点満点中4点(テレグラフ)5点(デイリー・メール)であり、全出場選手を入れても最下位の評点であった(ちなみにネイマールはレッドを逃れて8点)。彼は今後の試合のレフリングが出来るか、「Early Bath」(途中交代で帰還)となるかFIFAの審判委員会での評価による。毎回予選グループ時点で半分のレフリーは途中帰国となっている。

 このレッテルを貼られたレフリーは残念ながら日本のレフリー西村であった。前大会、南アでの実績を買われてビッグゲーム開幕戦に抜擢されたが、世界一の大会、世界一の選手の中で冷静にミスなく判定を下すことが難しかったのであろうが、結局は試合のレベルについていけなかったことに尽きると思われる。日本、アジアでのレフリング技術の向上がまた叫ばれてくる。

 毎回レフリーに負けたという監督が出てくるが今回もクロアチア監督は「Out of depth」(その器ではない)と審判を批判している。

 その審判への風当たりが強い中、今大会から選手の壁ラインを描く白ラインマーカーの導入は秀逸であったが。

 これから1か月泣き笑いの勝負が続く。選手のけが、審判の誤審、デモ、暴動の勃発、スリひったくり、洪水の発生、スタジアムの不備、そして八百長も含めて、今回のブラジルのワールドカップは何が起こるかわからない大会となりそうだ。

※ちなみに「Infamy」は汚名、不名誉など。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
現在:T M ITO Ltd.(UK)代表取締役
伊藤 庸夫