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ヨーロッパサッカー回廊『ドリブル優先シュートせずの日本病』

14・04・11
 毎年のことであるが、春休みを利用して多くの日本のクラブチーム・学校の部活動がヨーロッパにやって来る。

 そこで目につくのは何か―。

 1993年Jリーグが始まり既に21周年を経過、日本代表はワールドカップの常連としてベスト16は当たり前、あわよくばベスト8、4をも狙える程に成長した。

 その過程にJリーグのレベル高騰によるトップ選手の成長もさることながら、すべてのクラブチームコーチ、学校の部活動指導者はコーチライセンスを取得することが義務づけられ全国一律、金太郎飴のコーチメソッドが浸透。テクニック、スキルの向上は目覚ましいものになった。

 またピッチも土から人工芝、そして天然芝に転換。フットボールを取り巻く環境はこの20年で様変わり、世界的には10点満点で2点レベルから8点レベルまでには到達してきたともいえる。

 しかし1980年代後半以来、欧州特に英国へ武者修行に来たチームには日本特有のいわば日本病ともいうべきフットボールの気質と不思議なスキルがいまだに浸透しているのも事実である。

 その日本病はまだ癒えていなかった。今年春に来英したチームにもその伝統は引き継がれていた!?

 まず取り上げられるのは、ドリブルという技術の使い方である。80年代、90年代の英国プレミアリーグに多くの南米のスキルフルな選手が移籍してきた。その多くの選手は一旦ボールを持ったらドリブルを始める。よほど自信があるのであろう。シュートまでドリブルしようとし味方の選手へのパスチャンスを自らつぶし、結局は頑強なジョンブルタックラーにつぶされてしまうのが多かった。

 当時の英国のフットボールはダイレクトフットボールと言い、ワンタッチ、ツータッチでのパス(ロングボールも含めて)をつなぐのが主流であり、それがエキサイティングなフットボールとしてもてはやされた時代である。ドリブルするとブーイングも起こるほどであった。気質が違うのであった。

 原則は『ドリブルは仕掛けであるが相手にボールを奪われてはいけないことを前提とするスキルである』、『特にドリブルからシュートチャンスが生まれた時は迷わずシュートする』が原則である。

 それをシュートが打てるのに打たず、味方を探しパスをしてしまい、いたずらに相手ディフェンダーに時間を与え、タックルされ得点チャンスを逃すドリブルはドリブルとは言わないとされている。

 Jジュニア、ユース、学校部活動の指導者が選手たちに、ドリブルに対しての考え方をどう指導しているのであろうか。

 多くの選手がシュートを打てるのに打たず、パスし得点チャンスを逃していることが何と多いことか。シュートを入れるには貪欲なエゴイズムも必要なのだ。メッシにしてもドリブルしたらシュートを狙うドリブルをし、相手に取られずシュートを決める。それがドリブルなのだ。

 そして筆者が1980年代、90年代初め日本病と名付けたファールスローの別名「お辞儀投げ」がまだ継承されているのには驚き以外の言葉は見当たらない。何と多いことか。1試合最低3本はある。

 英国の主審は「お辞儀投げ」をすべてファールスローとして相手のボールとする。

 筆者は90年初めJリーグ開催前に事あるごとに図解入りで警鐘を鳴らしていたが、まずは日本の審判が「お辞儀投げ」をファールスローとして取らない。そして指導者が投げ方をコーチしない。あるいはスローインの投げ方は、コーチライセンスの対象とはなっていないのかとも思われる程である。あるいはライセンスを与えるコーチ(多くは協会の上級コーチ)が実際には投げ方を知らない。よって投げ方を教えられないのかもしれない。

 もしこのファールスローの「お辞儀投げ」を選手がジュニア時代に身につけてしまうと癖となり修正は非常に難しい。今年の春、英国遠征に来た選手に投げ方を教えたが、ジュニア時代から「お辞儀投げ」をしていたため中々正規の投げ方が出来ない。一番いい方法はその選手にスローインはするなと言うことであった。

 唯一フィールドプレーヤーが手を使えるのがスローインである。それがファールとなり相手のボールとなることは4倍のハンデとなる。

 今一度ジュニア、ユース時代に正しいフォームでの投げ方を指導する必要がある。

 代表選手でも長友がインテルに加入し、来伊した当初は「お辞儀投げ」であった。最近それは無くなっているがまだ代表クラスでもこの投げ方をする選手がいるであれば、いわば日本病とは片付けられない、嘲笑物である。

 過去にはある選手が3回同じ「お辞儀投げ」をし、4回目にボールを拾い投げようとしたら、観客から大笑いの声が起こりその選手は「お辞儀投げ」もできず自分の体の前から投げ(完全ファールスロー)、嘲笑を喫したことがある。

 スローインはフットボールの基本である。これが出来ない選手は片輪と言っても過言ではない。

 今一度フットボール大国の一員となるのであればこのような基本的なことはジュニアの時に習得させ、コーチ、審判もこの投げ方を学び直すことが必要であろう。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
現在:T M ITO Ltd.(UK)代表取締役