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ヨーロッパサッカー回廊『ゴーリーもストライカー』

13・11・15
 プレミアリーグも秋たけなわの11月12日現在、今季獲得したドイツ代表MFのエジルの活躍もあり、久しぶりにトップを走るアーセナル。そして下位常連ともいうべきサウサンプトンがアルゼンチン人監督マウリシオ・ポシェチーノの采配も冴え、強豪を抑えて3位という番狂わせもあり活況を呈している。

 昨年の覇者MUは新監督モイエズのもと期待はされていたが、現在5位。11月9日の首位アーセナル戦で1−0と勝ち、トップとの差は5ポイントの差、これからクリスマス、ニューイヤーの連戦での巻き返しを図ってくることであろう。

 その注目のサウサンプトンはストークとのアウエー試合、珍しいゴールを与え1−1の引き分けとなり2ポイント獲得を逃してしまった。

 キックオフ開始13秒、ストークのGKアズミール・ベゴビッチ(ボスニア代表)が味方ディフェンダーからのバックパスを直接クリアー。風に乗ったボールはサウサンプトンのディフェンダーを超え、大きくワンバウンド、GKボリュッチは余裕をもってボールへ向かったが風の強さを読み取れず、大きくオーバーされ、そのままゴールへ飛び込んでしまったのである。ゴーリーのストライカー誕生である。

 風に乗り、よく飛び、弾むボールによるゴールであるのは間違いない。2000年以降に弾む、縫い目のないボールがアディダスで開発され、GK殺しのシュートが多くなったが、そのお返しをベゴビッチがしたのである。

 ゴーリーがストライカーとなった例はあるのだろうか。プレミアが始まった1992年以来記録をひも解くと、いたいた!過去に4人もいた。拾ってみましょう。

 かの有名な元MUの赤鬼GKピーター・シュマイケル(元デンマーク代表)がアストンビラに移籍していた2001年10月のエバートン戦。終了直前CKを得て、自陣のゴールを放って、敵ゴールマウスへ突進。CKからのボールが相手DFのクリアーボールで浮いたところを右足の豪快なボレーシュートで見事に決めたのである。まさしく真のストライカー顔負けのゴールへの嗅覚を発揮したのである。シュマイケルの技術がゴールキーピングだけではないことを世界にアピールしたシュートでもあった。

 そして2004年2月、ブラックバーン対チャールトン戦、ブラックバーンのゴーリー、ブラッド・フリーデル(元アメリカ代表)が味方のCKからの折り返しのボールを見事に決めた。

 3点目は2007年3月、スパーズの当時イングランド代表GKであったポール・ロビンソンが自陣左サイドのFKをベゴビッチと同じパターンで相手ゴール前へ大きく蹴り、そのボールは高くワンバウンドしそのままゴールに吸い込まれたのである。相手のワットフォードのGKフォスターは懸命に追ったがボールに追いつかず1点献上となった。

 次いで2012年1月、エバートンのGK ティム・ハワード(アメリカ代表)はボルトン戦、風に乗った90mのロングキックを蹴り、そのままゴール!しかしハワードは相手GKアダム・ボクダンに同じGKの宿命を同情、あまり喜ばなかった。そのことで、彼のスポーツマンシップは大いに讃えられたのであった。

 さて世界にはストライカー顔負けのゴーリーがいる。

 GKながらもっとも得点を挙げているのはブラジル人のGKロジェリオ・セニ(サンパウロ)である。1973年生まれ、97年より2006年までブラジル代表でもあった。彼はセットプレーのスペシャリストとして、合計112点を挙げており世界一のスポットキッカーとして今でも君臨している。

 そしてパラグアイ代表であった、ジョセ・ルイス・チラバートもフットボールファンであれば知らない人はいないスポットキック・スペシャリストであった。得点62点、そのうちPKでのハットトリックを挙げている。

 ところでJリーグではGKの得点はあるのであろうか。あった。5人が記録している。

 1996年11月9日、浦和レッズのGK田北雄気が横浜フリューゲルス戦PKを決めた。

 1999年4月7日、京都の松永成立がナビスコカップでの山形戦、クリアーボールを蹴ってゴール。

 2004年7月10日、横浜FC対鳥栖戦、横浜の菅野孝憲がFKから直接ゴール。

 2006年7月13日、仙台対東京ベルデイ戦、東京Vの高木義成が89mの超FKを決めている。

 2013年11月10日、松本山雅対山形戦、松本の村山智彦がFKで80mのゴールを決めた。

 オープンプレーからのGKによる得点があるのかどうかというと、世界のトップリーグではCKの流れからの得点しかなく、やはりゴーリーはゴールを守るのが仕事なのだということがわかる。唯一得点チャンスがGKに訪れるのはFK、PK、CKといったセットプレーからというのが事実のようだ。

 ともあれGKも11人の選手の1人、得点に絡めるストライカーGKがいるのは戦術的にも、そのチームの秘密兵器となることは確かなことだ。GKだといって点を取ってはいけないということはないのだ、状況に応じ、リスクを回避し得点に絡むのは見る観客にとっても楽しいことであろう。

 果たして次は誰が決めるのだろうか?


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
伊藤 庸夫