サッカーアラカルチョ

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ヨーロッパサッカー回廊『激しいヨーロッパのワールドカップ予選』

13・10・22
 2014年ブラジルワールドカップの出場国が続々と決まっている。

 10月15日に行われたヨーロッパでの予選最終日までにベルギー、イタリア、ドイツ、オランダ、スイスが決まっていたが、この日に持ち越されたのは、予選F組のロシアかポルトガル、予選G組のボスニア・ヘルツェゴビナかギリシャ、予選H組のイングランドかウクライナ、そしてI組のスペインかフランスであった。

 結局F組はポルトガルがルクセンブルクに勝ったが、ロシアがアゼルバイジャンに引き分けたため1ポイント差でロシアがブラジル行きを決めた。C・ロナウド擁するポルトガルは10月11日のホームでのイスラエル戦に1−1の引き分けに終わったため2位となり、プレーオフでブラジル行きの切符を賭けることとなった。

 G組のボスニアはギリシャと並ぶ勝ち点22(得失点差では優位)でリトアニアとの最終戦を迎え、ギリシャが小国リヒテンシュタインに取りこぼしをしない限り、勝たなければならない試合だった。後半23分シュツットガルトのストライカー、イビセビッチのゴールが決まり1−0で勝利、初のワールドカップ出場を決めた。

 I組の南アフリカワールドカップ覇者のスペインは最終戦グルジアと対戦。2位フランスと勝ち点3の差があるため引き分け以上でワールドカップ出場を決められる一戦。勝利の得点はプレミアで活躍する、Mシテイのネグレドとチェルシーのマタが決め2−0と順当に勝ち、ブラジルへ連覇を目指して出場することが決まった。

 H組のイングランドは2位ウクライナと1ポイント差であり、ウクライナが弱小国サンマリノに確実に勝利を挙げることが予想された。イングランドは負ければプレーオフの地位に落ちるため、何が何でも勝たねばならぬ試合として、ホーム、ウエンブレースタジアムでの対ポーランド戦の試合に臨んだ。

 ポーランドは既に予選敗退が決まっているが、ドルトムンドのレワンドフスキーがストライカーとして君臨、一泡吹かせようとキックオフ。

 85,186人の観客のうち2万人はポーリッシュ。ポーランドがEU加盟後はEU国民として50万人以上が英国に移住、主として建設業界の労働者として働いている。ロンドンでも日本人学校があるイーリング地区はEU加盟以前からポーリッシュ移民の町を形成、現在ではヒースロウ空港近くのハウンズロウ地区もポーリッシュタウン化している。それだけにこの試合はポーリッシュから見れば「ウエンブレーをホームに!」の掛け声で動員したのである。本来なら英国での試合では発煙筒を焚くのは禁止されているが、キックオフ前には多くのポーリッシュが発煙筒を焚き、異様な雰囲気の中でのキックオフとなった。

 過去、対ポーランド戦では1973年にイングランドはポーランドに敗れワールドカップに出場できなかった苦い経験があり、この試合はイングランド国民にとっていわばトラファルガーの海戦、ウオータールー(ワーテルロー)の決戦に等しい闘いとなっていた。

 イングランドは左フルバックの常連、A・コールがけがのためエバートンのバインが入り、今年からスパーズのレギュラーとして注目を集める若手のホープで、11日に行われたモンテネグロ戦に強烈なシュートを決めたタウンセンド(23歳)を右ウイングに置く布陣。

 キックオフ後はまるでポーランドのホームでの試合のようにポーリッシュが声を挙げての応援だったが、前半41分その応援の声も静まった。左からバインがクロスを上げ、ルーニーがヘディングシュート、貴重な1点をもぎ取る。ルーニーは11日のモンテネグロ戦でも1点を挙げており、いまだにその後の去就が噂されているMUでの不安定なプレーとは裏腹にはつらつとしたプレー振りを示していた。ルーニー復活である。そして後半43分キャプテン、ジェラードが2点目のシュートを決め満員のウエンブレースタジアムは大歓声に包まれた。

 ホッジソン監督としてはスイス代表監督以来のワールドカップ出場であり、今後はプレミアリーグ登録選手500名のうち、わずか170名しかいないイングランド選手から代表選手を選ばねばならない。そのジレンマを克服し、イングランドの期待に応えなければならない。代表選手のうちキャプテン、ジェラードは33歳、ランバード35歳、A・コール32歳、中盤の要のカーリックも32歳とベテラン選手が多い中、経験の少ないタウンセンド(スパーズ)、ウイルシャー、ウオルコット(共にアーセナル)、ウエルベック(MU)、スターリッジ(リバプール)、バークレー(エバートン)、ジョーンズ、スモーリング(共にMU)、そして18歳のスターリング(リバプール)などの若手をどこまでインターナショナルのレベルまで持ち上げられるかも課題である。

 イングランドはFIFAランキングは10位だが、来年のブラジルワールドカップでは第1シードから外れることになった。強豪国とのグループに入るだけに厳しい状況下でのワールドカップ出場となる。果たして前述の若手が今後8か月でどれだけ成長するかが鍵となっている。

 そうこうしている中、日本代表は欧州遠征で1点も取れずセルビアとベラルーシに2敗。このままではブラジルでのグループ予選落ち確実となってしまった。過去4年選手を固定化した付けが回ってきたのであろうか。

 若手の台頭も乏しく、ヨーロッパに在籍する選手も90分試合に出場している選手は少なく、マンネリジャパンになりかねない。前にも指摘したが、外国人監督は目先の結果が第一、前を見据えた展望から2年3年先を見て選手を起用する監督は少ない。今からでも遅くない。今一度スタッフ、選手を総点検すべきではないであろうか。

 来年のワールドカップは果たしてスペイン式ボールポゼッションフットボールが制するのか、ドイツ式プレッシャーと武闘、その中でのスキルのあるスピードフットボールが制するかにもよるが、今やヨーロッパは後者のスタイルとなってきている。とろとろしたドリブル、後ろに回すパス、シュートを打たずパスするフットボールは今や過去の遺物。

 闘いを忘れたゲーム化したフットボールはコンピュターの中でしか無くなってきていることを今一度認識する必要がある。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
伊藤 庸夫