サッカーアラカルチョ

一覧に戻る

ヨーロッパサッカー回廊『ウインドウ閉まる』

13・09・20
 今年の移籍ウインドウは9月2日23時に閉じた。

 多くのトップ選手の動向が注目されたが、プレミアリーグで注目3羽烏として取り沙汰されたのはマンチェスターユナイテッド(MU) のストライカー、ルーニーであり、次にリバプールの噛みつきストライカーとして現在も出場停止となっているウルグアイ代表のスアレスであり、そして更に、トッテナム・ホットスパー(スパーズ)の至宝となったガレス・ベイルであった。

 ルーニーは前監督ファーガソンに移籍を申し出ていたとされ、チェルシーのモウリーニョ監督が獲得に乗り出し2度にわたり35百万ポンドのオファーを出したが、同じプレミアのライバルには売らないとするMUの方針で頓挫。パリサンジェルマンが興味を示したが結局、買い手がつかずMUに残留となった。

 新任のモイエズ監督はエバートン時代にルーニーをデビューさせたが、ルーニーが自伝の中でモイエズを批判したことで裁判を起こし結局ルーニーに勝訴した経緯もあり、戦力としては残したいが、外国からの買い手が現れれば売っても良いという感触を示していたとされる。ルーニーとしては渋々残留となったのである。

 MUは開幕4節で2勝1分1敗。ルーニーも練習時ジョーンズにタックルされ額を切りまだ2試合しか出場していない。この冬のウインドウで買い手が出てくれば放出もと、モイエズ監督は考慮しているのではと推測されている。

 そしてチェルシーのイバノビッチの腕に噛みつき出場停止中のリバプール、スアレスはレアル・マドリッドへの移籍を希望するも、結局レアルは触手を示さず、ストライカーが欲しいアーセナルが40,000,001ポンドという異例のオファーをしたが、リバプールはこれまたライバルへは売らないとし拒絶し、移籍は頓挫。結局外国からの買い手もつかず、残留となった。

 ちなみになぜ1ポンド足したのかと言うと彼の契約のリリース条項として40百万ポンド以上であれば移籍の交渉に入れるとしているためである。さすが経済学士アーセン・ベンゲルのオファーとして注目されたが結局ベンゲル監督はドイツ代表、レアルのMFエジルに42.5百万ポンドをウインドウ最終日に提示し、獲得した。

 スアレスの出場停止が解けるのは9月末、その間リバプールは3戦全勝、それもスアレスのサブであったスターリッジが3点を挙げ勝利しているだけに、スアレス復帰後のリバプールが勝ち続けられるかもスアレスの移籍動向に影響してくるであろう。

 そしてこの夏一番注目されたはスパーズのベイルの去就であった。ウインドウ最終日にレアル・マドリッドが1億ユーロ(86百万ポンド)=130億円という史上最高額の移籍金を提示1億ポンド(150億円)を要求し最後まで粘っていたスパーズ側も折れ、結局史上最高額での移籍が成立した。これでレアル・マドリッドは左にロナウド(80百万ポンドでMUより移籍)右にベイル(86百万ポンド)と世界一高額選手を並べた布陣で今シーズンを戦うことになった。

 そのベイルの初仕事、対ビジャレアル戦に初出場、ロナウドと共に両雄そろい踏み。そしてまずはベイルが1−1となる同点シュートを決め、更にロナウドが2点目を入れ両雄並び立ったのである。しかしアウエーのビジャレアルとは結局2−2の引き分けに終わってしまった。

 果たして両雄並び立つことがどこまで続くか、11人がチームのスポーツで2人の英雄がいても必ずしも勝てるとは限らない。しかも両者ともフリーキックの名人、どちらが蹴るのか、お互いのエゴが出てくればチームがチームでなくなることはよくある。

 ちなみにレアルはロナウドに5年契約、週給288,000ポンド(年間15百万ポンド=22.5億円)の契約更改をした。フットボーラーとしては最高額である。その理由というのもかつて在籍したMUがロナウドを買い戻したいという意向があるため、レアルとしては何としてもロナウドを慰留させたいがためのオファーであったといわれる。一方ベイルのサラリーは週給160,000(12.5億円)ポンドであり、レアルではまだロナウドが王様なのだ。

 このウインドウ期間でのプレミアリーグの移籍金総額は史上最高の630百万ポンド(945億円)を超えた。移籍金支払いトップは上記ベイルを売った資金をもとに107.5百万ポンドの補強をしたスパーズ。現在4試合で3勝を挙げ、アーセナルに得失点差で2位を付けており、補強の成果はとりあえず上がっている。次はマンチェスターシテイが94.9百万ポンドを補強に使っている。チェルシーが65.5百万ポンドと次いでいる。

 この巨大移籍に関して大きな疑問も提起されている。成立した移籍選手約120人のうちイングリッシュ選手はわずか25%しかおらず、その他はすべて外国人選手、果たして今後のイングランドの代表選手をどこから選ぶのか、わずか200人(全体の35%)しかプレミアリーグ登録のイングリッシュはおらず、FAはその登録国籍を見直すことが急務となっている。その為EU国籍選手の登録をどうするのか、EU外の国籍の選手の制限を強化する制度を再検討するなどである。(現在も過去2年間国際Aマッチ75%以上出場選手にしか労働許可を与えていないが一部選手への特例を認めている−。注:アーセナルの宮市選手も特例扱い)

 そしてイングランドの速い、激しい、ワンタッチのフェアーな闘いのフットボールも外国選手が多くなるにつれていわゆるポゼッションフットボールが金科玉条となってきたため、面白くない、イングランドらしくない、という声も多く聞かれる。さらにボールポゼッションの技術の乏しいイングランド代表選手で果たしてワールドカップに出ても勝てないのではとの懸念も指摘され、コマーシャルには世界一のリーグとなってはいるがイングリッシュ・アイデンティティが欠如してきていると警鐘を鳴らす声も多くなっているのも事実である。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
伊藤 庸夫