サッカーアラカルチョ

一覧に戻る

ヨーロッパサッカー回廊『プレミアリーグ開幕間際−コミュニテイシールド』

13・08・13
 プレミアリーグの新シーズンも始まるが、激しく、そしてノンストップのフットボールをまた世界に披露することだろう。誰もがそれを期待したいと思っているが現実はちょっと違うようだ。

 8月11日、開幕に先立つ1週間前、恒例のコミュニテイ・シールドがウエンブレースタジアムで行われた。今年のチームは昨シーズンリーグ優勝のマンチェスター・ユナイテッド(MU)対The FAカップ優勝者のウイガンであった。ウイガンはカップには優勝したが、リーグでは18位となり降格、今シーズンはヨーロッパリーグに出場し、プレミア昇格を目指して再起を図るチーム。双方とも、監督が交代、MUはサー・アレックスが引退し、エバートンからモイエズを起用。ウイガンもマルチネス監督がエバートンの指揮を執る事となり、新たにボルトンの監督であったコイルが就任、指揮を執る試合となった。

 試合前から誰もが4−0位の差があるとみなしたのか、特にウイガンはFAカップでは40,000人もの地元サポーターが詰めかけたのに対し、このシールド戦にはわずか2,500人がウイガンから駆けつけたに過ぎなかった。MUはロンドンにもサポータークラブがあり、そのためかスタジアムの4分の3の約6万人がMUを応援、観客の数からは圧倒的にMUの試合となった(観客数80,235人)。

 前半6分にファン・ペルシーの強烈なヘッドで先制すると試合は全く迫力の欠けた展開となった。MUは攻めるも中々シュートレンジに入れず、一方のウイガンはボールをキープしてもMUのプレスディフェンスに対応できず、前半シュートさえなかった。アンダードッグのウイガンが牙をむき出してFAカップで見せたスピードに乗った攻めから思い切りのよいシュートは影を潜め、安全第一のバックパス専門の試合展開となった。いつMUが2点目を入れるかが注目であったが、それは後半59分同じくファン・ペルシーが強烈なシュートを決め2−0とし、迫力の欠けた試合はほぼ終わってしまった。結局MUのシュート数は6本、ウイガンは後半大きく外れるシュート1本だけであった。

 なぜこんなつまらない試合になってしまったのか。

 もちろん実力の差、技術の差、戦術の差もあろうが、プレミアの選手はスペインに毒されてしまい、パスフットボールをしなければフットボールではないと錯覚してしまったのではないだろうか。イングランドの選手の数は年々減り、今シーズンはわずか38%しかいない。華麗なパスの応酬の試合も醍醐味があるが、ゴール前での一瞬のすきを狙ったクロス、6ヤードボックスの中に18人も入ってのバトルも時として必要であり、迫力ある試合として観客を魅了することは間違いない。例え少々のミスはあっても、パワフルなゴール前での一つ間違えれば点になる試合を志向するチームを観客は求めているのだ。

 MUの看板であったルーニーが出場していないのもその要因かもしれない。ルーニーは昨シーズン末、サー・アレックス監督に干されてしまい、新任のモイエズ監督は表向き移籍をさせないとしているが、あくまでファン・ペルシーのシャドウでしかない使い方を志向するようであり、本人は移籍したい意向を漏らしている。

 チェルシーのモリーニョ監督が御執心で35百万ポンド(約52億円)を提示、MUは一応拒否しているが、9月2日の移籍ウインドウ閉幕までには移籍の可能性は高い。となるとMUのインパクトが無くなることになる。弱い相手には勝てても欧州チャンピオンズリーグのチームとなると意外性のある迫力のある選手が必要である。今のところ新たに獲得した選手はいない。このままいけば厳しいシーズンになることだろう。

 香川は後半83分に途中出場したが果たして彼のポジションはあるのか。モイエズ監督は4−3−3システムで行くようだ。トップはファン・ペルシーで決まり、その左右には右ザハ、またはバレンシア、左は好調のウエルベックがファン・ペルシーと交互に入れ替わる2トップにもなれるシステムで入り、ヤングとの併用もある。

 香川のベストポジションはシャドウストライカーであろう。となるとワン・トップの後ろとなり、ワイドの左右にウイングを配置すると、4−2−3−1とする必要があり、果たしてモイエズ監督がこのシステムを取るかである。取るとすればこのシャドウにはルーニーが最適であり、ルーニーが残留すると、香川の出番は限られてくる。よほど点取り屋に徹底してアピールしないと、またサブに甘んじてしまう可能性は高い。

 MUがトップを走れれば余裕を持ってモイエズ監督は香川を試すことができるが、チェルシー、Mシテイが肉薄してきており、またアーセナルもフレンドリーマッチを見る限り有力であり、新任監督としては使える選手しか使わないことになる。あまり期待しない方が無難であろう。

 そしてもう一つ面白くないフットボールになる可能性があるのはスパーズの至宝、ガレス・ベールの去就である。リアルマドリッドが85百万ポンド(約130億円)でオファーしたのだ。スパーズの会長は一億ポンド(150億円)でなければ売らないと息巻いており、史上最高額での移籍が実現すればプレミアにまた一人スター選手がいなくなる。

 そして先のシーズンで相手選手(チェルシーのイバノビッチ)に噛みつき10試合出場停止となっているウルグアイ代表、スアレスが移籍を希望し、アーセナルが40百万ポンド+1ポンドという珍しいオファーで獲得に乗り出したのだ。スアレスはスペインのリアルへの移籍を希望しているが、リアルはベール優先であり、その交渉次第というところである。

 もしこのプレミアの顔3人がプレミア以外のクラブへ移籍となると、面白みの欠けたリーグになりかねないのではと危惧されている。

 ともあれ、プレミアリーグは8月17日開幕する。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
伊藤 庸夫