サッカーアラカルチョ

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ヨーロッパサッカー回廊『一発勝負の面白さ』

13・06・11
 ヨーロッパのフットボールシーズンは終了、8月までエキサイテイングなスポーツはお預けとなる。変わって英国ではクリケット、テニス、そしてゴルフのシーズンになる。

 そのフットボールの最終を飾るイベントがロンドン・ウエンブレースタジアムで行われた。筆者も毎週ウエンブレー詣でで過ごし、フットボールの醍醐味を味わった。

 まず5月11日に行われた135年の歴史を誇るFAカップの決勝戦はマンチニ監督率いるマンチェスターシテイ(MC)対マルチネス監督のウイガン。大方の予想はMCにどこまでウイガンが抵抗するかであった。しかしボトム3、降格寸前のウイガンはこの試合に賭け11人のパワーが結集し勢いの面でMCを圧倒。ボールをキープし攻めるMCに対し、カウンター攻撃で一矢報いようとするウイガンは、前半多くのチャンスを作り期待を抱かせた。その報いは後半90分インジュリータイムに入りウイガンは右コーナーキックを取り、そのボールは今シーズン骨折で5月より復帰したベン・ワットソンが豪快なヘッドで決め1−0で初優勝を飾った。

この結果―
 *ウイガン12.8百万ポンド 対  MC180.1百万ポンド(選手移籍金総額)
 *ウイガン30,000人(人口80,000人)対 MC40,000人(人口百万人):サポーターの数。(総数86,000人)
 *マンチニ監督更迭
 *ウイガンはこの後アーセナルに負け降格、マルチネス監督はエバートン監督に
 というドラマが生まれた。一発勝負のカップ戦の面白さは意欲、勢いが技術、戦術を上回れることであろうか。

 そして次は5月19日リーグ1のプレーオフ、勝者がチャンピオンシップ(プレミアの下のリーグ)へ昇格する試合。ヨービル(英国の西南部の町)対ブレントフォード(ロンドン西部の区)の戦いは両軍合わせて4万人のサポーターが詰めかけ、一生かかってもウエンブレーで応援をする機会はめったに来ないお祭りと生死をかけた勝負を楽しんだ。

 試合はプレミアとは打って変わって典型的、伝統的なイングリッシュスタイル。ダイレクトフットボールというのは良いが、要はすべて空中戦。長身センターフォワード目がけてのロングボールを競り合い、落としたボールをダイレクトで味方へ。そしてタックル、取ったボールをロングパス、また競り合い。それの繰り返し。ゆっくりボールを回してのポゼッションフットボールはどこにもない。それだけにミスパスあり、シュートはポストの上空へ。結局前半2点をとったヨービルが2−1で昇格が決定した。

 とにかくこのフットボールは面白い。息つく暇もないほどのボールの往復はどこで何が起こるか予測を超えており、それだけに一つ一つの競り合いにサポーターは熱狂する。プレミアが年々面白くなくなったということが言われているが、それは技術よりこのような熱でフットボールをする試合が少なくなったせいであろうと思う。

 皆さま、真のイングリッシュフットボールを楽しむのであれば、プレミアだけではなく、リーグ1(上から3部)以下のイングリッシュ(外国選手は少ない)による試合を観戦することをお勧めする。きっと興奮することであろう。フットボールの原点はここに在りである。

 そして5月25日のUEFAチャンピオンズリーグ決勝のドイツ対抗戦。バイエルンミュンヘン対ボルシア・ドルトムンドの一戦。ドイツ人がこれだけロンドンを席巻したのは歴史始まって以来。11万人(切符なしも大勢ロンドン入り)が大挙し、飛行機、列車、車、バスでロンドン入り。トラファルガー広場はまるでドイツの戦勝記念のようなにぎわいであった。

 試合は典型的ドイツフットボールの戦い。先のリーグ1のプレーオフの試合展開と同じパターンの激しい競り合い、タックルの応酬であったが、技術、戦術的には世界トップクラスの選手がそろっており、パスミスはほとんどない、スピードに乗った試合展開はサポーターでなくとも興奮する試合であった。

 前半はドルトムンドが優勢に展開したがゴールレスで終わり、後半バイエルンのセンターフォワード、マンジュキッチが蹴りこみ1−0とリード。しかしその後ドルトムンドもPKを決め、1−1のタイとした。後半に入り、このまま同点延長PK戦かと思われたが、89分リベリーの相手センターバックともつれてのパスをスピードに乗ったロッベンがかっさらって左足でGKの逆を突くうまいシュートで5回目の優勝を飾った。

 ドイツ人によるドイツのフットボールは外国人によるイングリッシュフットボール関係者に多くの課題を提供した。

 曰く:イングランドアカデミーの育成制度は1997年スタートしたがイングリッシュの選手はわずか38%しかプレミアに登録されていない。一方ドイツは2000年以降育成制度を抜本的に改革、ドイツ選手のブンデスリーグ登録選手比率は50%を超えている現状から、育成制度面での問題が一つ目。金に糸目をつけないロシア人、中東人、アメリカ人富豪に支配されたプレミアクラブと51%以上の支配権はクラブサポーターによるドイツのクラブ制度の在り方が二つ目。それでもテレビ放映権収入は増え続き、バブルを越えているプレミアの財政面での問題が三つ目である。

 ともあれ問題点を多く残したまま、8月のニューシーズンまで、まずはゆっくり休暇である。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
伊藤 庸夫