サッカーアラカルチョ

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ヨーロッパサッカー回廊『判定次第とRespect』

13・03・20
 今シーズンのヨーロッパ・チャンピオンズ・リーグのベスト8からイングランド・プレミアリーグクラブはすべて姿を消した。

 昨年優勝したチェルシーは予選グループで3勝1分2敗となり、ユベントス、シャフタール・ドネツクの後塵を拝し3位、ベスト16に残れなかった。同じく昨年プレミア優勝のMシティもチャンピオンズリーグでは振るわず、ボルシア・ドルトムンド、レアル・マドリッド、アヤックスにも及ばず最下位で敗退。

 アーセナルは予選グループでは2位となりベスト16に残ったが、バイエルンミュンヘンとのベスト8をかけたホームの試合では3−1と敗戦。アウエーでの試合では何とか2−0で勝ったもののトータル3−3となり、アウエーゴールシステムの採用で敗退。ベスト8へは進出できなかった。

 そして、今年は1999年以来の3冠を目指すMユナテッドはヨーロッパフットボールの老舗レアル・マドリッドとベスト16戦で対決。アウエーのベルナベウ・スタジアムでは1−1のアウエーゴールを挙げ、ホームでの優位を利して勝ち残るのではと期待された一戦は思わぬ事態となり、トータルで2−3と逆転され敗退。すべてのプレミアクラブはベスト8へも進出できなかった。

 このMU対レアルの戦いでMU監督ファーガソンは、マドリッドでのアウエーゴールを生かして得点を挙げ、勝つシナリオを描いていた。そのため最近の試合でフィットネス不足のルーニーを休ませ、またこの試合の前のリーグでハットトリックを挙げた香川も外し、前線にファン・ペルシーと成長著しいウエルベックを起用。この試合で公式戦出場1,000試合の記念達成となった39歳のライアン・ギッグスを左サイドで起用した。

 レアル・マドリッドはMUでスターダムにのし上がったクリスティアーノ・ロナウドを左に置き、監督モウリーニョは逆転勝ちを意図した布陣でキックオフ。

 48分、MUは貴重な得点を挙げた。左からのクロスをレアルのデフェンダー、ラモスがクリアできず痛恨のオウン・ゴール。これでMUはトータル2−1として後半を守り切れば永遠のライバルに勝てるとホームサポーターの応援は激しくなった。

 しかし後半、左サイドで浮いたボールにナニが足を振り上げ、そこへ飛び込んだレアルのアルベロアの胸を蹴った形になり、レフリーは“Dangerous Play”として即レッドカードを示した。

 果たしてこの判定が正しかったのか、イエローではないかとの議論は試合後多くの評論家、両軍監督、選手から問われる判定であった。10人となったMUは守備一方となりレアルの猛攻劇が始まった。そして66分、途中交代のモドリッチが30mのロングシュートを決め、トータル2−2で五分五分となった。勢いに乗るレアルはその3分後の69分に右からイグアインがロークロス、左から詰めたロナウドが決勝点を挙げ2−1。トータル3−2と逆転に成功、MUは今年もチャンピオンズリーグ・トロフィーには手が届かなかった。

 判定に怒ったファーガソンはテレビインタビューにも出ず、UEFAより処分を受ける可能性が高い。

 レフリーのアセッサーとしてUEFAが派遣したのはイタリアの名審判、コリーナ。彼は「レフリーの判定は正しい。危険なプレーはレッドである」とレポートし、トルコ人レフリーを擁護したが、収まらないのはイギリスのメディアであり、大方の評論は「ナニはボールに足を上げており相手ではない。イエローが妥当である」というもの。

 ともあれ“No Premier League Club in UEFA Champions League”となった。

 フットボールの規則は17条しかない。微妙な判定はレフリーに委ねられているのだ。やっとゴールラインテクノロジーが採用されるが、それ以外のオフサイド判定、ハンドの判定など、まだまだ人間の目では追い切れない判定は多い。

 Respectとはスタジアムに来るすべての人々へのRespectであり、レフリーも一人の人間であり、レフリーの判定、それが正しいのか間違いなのかを問わず一旦下した判定に対するRespectはあるべきであろう。

 60年代以前、延長引き分け後はコイントスで勝者を決めていたこともあるのだから―。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
現在:T M ITO Ltd.(UK)代表取締役
伊藤 庸夫