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ヨーロッパサッカー回廊『プラティニの革命−ユーロの改革』

12・12・13
 ミッシェル・プラティニという名前を知らない人はいないであろう。

 1984年のユーロ(ヨーロッパ選手権)でフランスが優勝した時の得点王(9点)であり、85年のUEFAカップ決勝でも、イタリア・ユベントスのサポーターがリバプールのサポーターとベルギー・ハイゼルスタジアムで衝突、39人が死亡する中での、1−0と栄誉を勝ち得たユベントスのキャプテンでもあった。

 選手としてトップを上り詰めたプラティニがコーチ・監督といった現場でのトップではなく、フットボール政治・行政のトップに君臨しているのはフットボールの世界では稀な存在である。

 現在はUEFA(ヨーロッパ・フットボール連盟)の会長として、世界一の財政基盤を持つ大陸フットボール組織のトップとして、またFIFAの理事として次期会長の呼び声も高い存在でもある。

 そのプラティニが今年になってUEFAの改革に乗り出した。

 まず一つは現在行われているUEFAチャンピオンズリーグ(32チーム)とその下部であるUEFAヨーロッパリーグ(32チーム)の2つを合併して2014年より1つのリーグに集約したいと提案しているのだ。

 更に今月12月4日には爆弾発言を発表、曰く「2020年のユーロは今までの単独国または共催国での大会をやめ、予選通過国はまずホーム&アウエーでの1回戦を行いトップ16か国がハブ(拠点)でグループ戦を行い、最終的には1か所で準決勝、決勝を行う」という「ユーロビジョン」を提案したのである。

 この2つのヨーロッパフットボールの改革案は、賛否両論激論が取り交わされている。

 まずクラブの王者を決めるチャンピオンズリーグの統合では64チームの年間を通してのトーナメントは自国のリーグ戦と重なり、日程的にも無理であるし、強者チーム(例えば、バルサ、Rマドリッド、Mユナイテッド、Bミュンヘンなど)は代表選手を抱え、年間試合数が増え、選手の負担が増すと批判している。

 また、現在謳歌しているテレビ収入についても、ビッグクラブ対弱小クラブ戦に果たしてスポンサーが今までのようにつくのかという経済的な理由もあり、その改革には否定的である。

 一方、自国リーグ4位以下のクラブはトップクラブとの対戦が増え、逆に収入(テレビ、観客スポンサーなど)増になるとして歓迎している。果たしてこの革命第一弾をUEFA理事会は受け入れられるのか、来年の理事総会が注目されている。

 次のユーロを一国または共同開催で行う集中方式からハブ地を設けてのヨーロッパ全域での拡大方式による新方式にも賛否両論あり、2014年に結論を出すとしているがどうなるのかプラティニの政治力が試されている。

 これは2016年ユーロが現在の16チームの大会から24チームに拡大して行われる一国方式でフランスに決定しているが、2020年ユーロに10グループが名乗りを上げており(トルコ、オランダ、ベルギー、ドイツ、スコットランド・ウエールズ・アイルランドの3国共同開催、アゼルバイジャン・ジョージア共同開催、セルビア・クロアチア・ボスニア3国共同開催、チェコ・スロバキア共同開催、ルーマニア・ブルガリア共同開催またはルーマニア・ハンガリー共同開催)、UEFA理事会でも、到底調整もつかないとの予想と、また新たに新スタジアムを建設するには多額の資金が必要でありユーロ危機の現在果たして資金的に可能な国があるのかという点からプラティニ革命第二弾が発せられたのである。

 ハブ案というのは、例えば予選グループ4チームがバルセロナ(9万人収容スタジアム)・マドリッド(9万人)・バレンシア(5万人)のスペインで試合をする一方、他グループは例えばパリ(8万人)・アムステルダム(6万人)・カーデイフ(8万人)で試合をする。そのメリットはすべて大型のスタジアムであり多くの観客が期待される。ひいては財政的にもスポンサーも付き、参加国、主催者UEFAが潤うというものである。

 そしてチーム、サポーターの移動距離も2012年のポーランド・ウクライナ共同開催では970kmも離れた都市で試合をするという不評をかったが、上記2例では200kmで済み、チームにとってもサポーターにとっても至便である点が挙げられている。

 そして準決勝+決勝は一か所で行う案も出ており、イングランドのTHE FAは「是非ウエンブレースタジアムで」とこの案が発表されるや否やプラティニ革命に同調する姿勢を打ち出している。

 ただこの案も小国にとっては未来永劫開催国とはなりえず、機会均等という精神からは逸脱され、大国中心、大都市、大スタジアム中心のユーロになるとの懸念を訴える向きもある。

 その中でもトルコはヨーロッパの文化の懸け橋(イスラムとキリスト)の拠点として、また経済発展目覚ましい現在、2020年のユーロ1国開催をアピールしており、一方で2020年オリンピックにも手を挙げている。

 現在のところ双方とも最有力視されているだけに、プラティニ革命のためには、2013年9月に行われるオリンピック2020年開催地決定がどこになるのかが注目されている。

 オリンピックがイスタンブールに決定すれば、プラティニ革命のユーロ・ハブ方式は堂々と凱旋門ヘ向かうことになること必至である(同じ年に世界大会規模のオリンピックとUEFAユーロを開催することは無理との意見多いため、UEFAとしてはオリンピックはイスタンブールでユーロはトルコではなくハブ方式でという思惑もある)。

 更に、この両案が実現した暁には、2015年のFIFA会長選ではプラティニが現会長ブラッターを継いで会長になる可能性は大きく、ナポレオンを自負するプラティニにとっても、これから正念場を迎えているのである。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
現在:T M ITO Ltd.(UK)代表取締役
伊藤 庸夫