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ヨーロッパサッカー回廊『Open and Freedom(J3構想は成り立つか)』

12・11・12
 日本でJ3構想が取りざたされている。Jリーグの下のJFLを改組して、プロクラブによるJ3リーグとアマチュアのJFL(?)リーグとに分けるというもののようだ。

 果たしてこの構想は成り立つのか? 成り立たせるべきなのか?

 100年の歴史を持つ、ヨーロッパのフットボールリーグはどうなっているのか。まずプロリーグが発足して124年経っているイングランドの例をみてみよう。

 御承知の通り、トップリーグは「The FA」管轄のプレミアリーグ(20チーム)その下に「Football League」管轄のリーグが3部あり、それぞれ24チーム合計92チームがいわゆるプロリーグを構成している。

 このプロリーグの下部に通称「ノンリーグ」と呼ばれるリーグがある。トップリーグは現在「Blue Square Bet(スポンサー名) Premier」として全国リーグとなっている。チーム数は24チーム、その下部には全国を北と南に分けた地域リーグがあり、22チームずつで構成されている。更にその下にはそれぞれの地域リーグがあり、その地域リーグもトップリーグを「プレミアリーグ」と名付け、その下に2部、3部と裾野は広がっている。

 昇格、降格はプロリーグの4部(Npower League2と呼んでいる)の23、24位(最下位)のチームが自動降格し、ノンリーグのトップリーグの優勝チームは自動昇格、そして2−5位のチームがプレ−オフし、その勝者がプロリーグ4部に昇格する。

 ノンリーグからのプロリーグへの昇格条件は、スタジアムの規模、クラブの財政状況などで判断されるが、ここ10年、昇格を認められなかったクラブはない。ちなみに現在のノンリーグのトップ「Blue Square Bet Premier」リーグの24チームのうち11チームは元プロリーグ加盟チームであり、プロリーグ経験クラブとして降格したチームである。

 それではノンリーグのチームはアマチュアなのかというとそうとも言えない。クラブとしてはれっきとした伝統を持つクラブであり、経営規模はプロ並みとは言えないが、いつかはプロチームになろうとする意欲を持っているクラブであることに違いはない。しかし選手は完全アマチュア(フットボールで収入を得ていない選手)ではなく、ほとんどの選手がいわゆるPart Timer選手である。日本語でいうセミプロである。昼は定職を持ち、週2−3回程度夜間練習し、試合ごとにフットボール給をもらう選手である(FIFAの規定ではプロ選手扱い)。またプロリーグから降格したクラブの選手のほとんどはFull Time Professionalとして登録されているが平均年収2万ポンド(240万円)程度である。

 ロンドンの南テニスのメッカ、ウインブルドンには過去1988年リバプールを破ってThe FAカップの優勝を果たした、「クレージーギャング・ウインブルドンFC」があった。しかしスタジアムがあった地区を再開発することになり、このクラブは解散し、ロンドンの北80kmにあるミルトンキーンズに移転を余儀なくされた(ミルトンキーンズ市はスタジアムを用意し受け入れた)。現在はプロリーグの3部で「MK Dons FC」のチーム名で将来はプレミアリーグを目指している。

 一方ウインブルドンからクラブが消えたサポーターは新たに「AFC Wimbledon」を結成し、昨年念願のプロリーグ4部に昇格、3部に上がれば「どちらが本物のウインブルドンか」と「MK Dons FC」との対決を楽しみにしているのである。そこにはプロとかアマとかの概念的区分はない。

 またマンチェスターには「FC United of Manchester」というクラブがある。これはマンチェスター・ユナイテッドがアメリカ人の富豪グロジエ氏によって2005年買収されたため、多くのMUサポーターがこの買収に反対し、サポータークラブの有志が集まり「真のマンチェスター・ユナイテッドを復活させる」とし結成されたクラブである。昔の伝統あるMUを連想させるユニホームで現在はノンリーグの中のトップリーグから数えて3部(プロリーグから数えると7部、ノンリーグ3部は全国を3地域に分けてそれぞれ22チームで構成)で、将来は現在世界のトップ・メガクラブであるMUに対抗し「どちらが本物のMUか」といえる時を待っているのである。ここにもプロとかアマとかの区分はない。

 結果として強いチームが上に上がり弱いチームが落ちるのである。

 イングランドの人口約5千万人(スコットランド、北アイルランドを除く)で、プロリーグ92チーム+ノンリーグ134チーム(1部24、2部2X22=44、3部3X22=66)合計226チーム(それ以下の地域リーグを入れると1000近くのチームがリーグを戦っている)のフットボール・コミュニテイを形成できる基盤にはフットボールを楽しむ、応援する、支援する(財政的に)、『おらが村のチーム』として存在する歴史もさることながら、人々の夢の実現に挑戦する感性も無視できない。身の丈にあった経営をすることでサポーターに支えられた『おらが村のチーム』を運営するのがクラブのレーゾン・テートル(存在価値)なのだ。

 フットボールのよさはプロもアマもないOpenかつFreedomのスポーツであり、唯一サポーターと選手がいれば、あとは支援組織(クラブ、行政、施設、スポンサー、メデイアなど)が後押しし7部からでも10部からでもプレミアへ駆け上がれる仕組みとなっているのである。

 1試合の観客動員数もプロ3部で約6000人。4部で4500人、ノンリーグのプレミアで1600人程度である。

 今一度J3構想を見てみると、現在のJ2の平均観客動員数が5800人ほどで、イングランドの3部、4部程度であり、JFLは約1000人ほど。これはノンリーグの2部(上から6部)程度であり、これでは例えJ3としてプロリーグを結成するだけの価値はあるのか財政的にも疑問が残る。

 またJFLが存在する意義はプロもアマも含めた日本のフットボール界の「へそ」であることである。プロを目指すプロクラブ(J準加盟)、企業チーム、クラブチーム、大学が混在するリーグであり、これはイングランドのノンリーグのプレミアリーグに匹敵する。

 このような混在リーグはドイツにもオーバーリーグとして存在する。また一方で試合の質、選手の質を考慮すると面白くエキサイテイングな試合(激しく、速く、ゴールに向かい全力で攻防する)が現在のJ2、JFLの準加盟チームでさえあるかというと甚だ疑問である。選手の質も然り。高い入場料を払ってみる価値のある選手がどのくらいいるのかという疑問もある。

 イングランドの試合を見るなら「プレミアだけではなく、3部、4部、ノンリーグのトップリーグの試合を見ろ(2部はプレミアのコピー)」と言う。そこには90分間ゴール前の激しい闘いがあり、これがフットボールの原点という試合をする。だからこそ地域クラブが存在しサポーターが応援するのである。

 フットボールからOpen and Freedomという概念を除いたら成り立たないことを忘れてはいけない。その意味でJ3はプロ、JFLはアマという規制をすることは現状、経営的にも、試合の質的にも無理と言わざるを得ないであろう。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
現在:T M ITO Ltd.(UK)代表取締役
伊藤 庸夫