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ヨーロッパサッカー回廊『ロンドンオリンピック』

12・08・11
 ロンドンオリンピックも最終コーナーに入りあと4日を残すのみとなった。本来ならフットボールのプレミア開幕を控えてトピックスを語るべきであるが、今回は世界数十億人がテレビに釘付けとなっているだけに、ロンドンに居てオリンピックを語ることなく過ごすよりは、史上3回目のロンドンオリンピックを紹介することをお許しください。

 開会式は過去のオリンピック大会には前例のない、異質のイベントだった。『Very British!!』そのものだった。英国の歴史、有名歌手(元ビートルズのポール・マッカートニー)、コミック映画俳優(Mr.Bean)、そして極め付きはエリザベス女王の007初映画出演、パラシュートから競技場へ降臨(実際はスタントマン)、聖火点火は将来性ある少年少女7人に託し従来の有名選手による点火とは一肌違う演出は世界中の人々を楽しませた一大ページェントであった。

 05年シンガポールのIOC委員会でロンドンが決まった要因は「マルチ社会のロンドン、未来にはばたくロンドン」を強調し、「過去のアスリート中心のオリンピックから混合社会、混合人種、将来を担う若者が集うロンドンでのオリンピックへ」を強く提唱したことが大きく、投票するIOC委員の共感を呼んだからこそ選ばれたと言われているが、その理念をそのまま現したのがこの開会式であった。

 始まる前は、空港入国管理に最低2時間から4時間かかる、市内の交通渋滞は激しく、地下鉄は灼熱地獄(空調が完備していない)、ホテルも通常の4倍の料金設定、すべて予約済みといったネガティブな環境状況が流布され、果たしてうまく機能できるのか危ぶまれていた。

 しかしふたを開けてみたら、入国管理は普段以上にスムース、交通渋滞も会社員が在宅勤務を奨励されたため逆になくなり、静かな市中に戻っていた。おかげでとばっちりを受けたのが商店街で、普段の30%売上減、オリンピックを当て込んだ商戦も遅滞、そうでなくともユーロ危機のあおりで経済低迷期にある英国経済の回復の手立てが消えてしまったという皮肉なオリンピックの局面も出てきてしまった。

 心配されたテロ対策もお祭り好きなロンドンっ子の温かい受け入れとテレビ新聞を通してのメデイアの盛り上げ方が功を奏し現在のところ大きな問題は起こっていない。

 まさしく「市民による、市民のための、市民のオリンピック」となったのである。

 ここまで市民を巻き込んだ大きな要因は、やはり英国人選手の活躍が大きいのは事実。ロッタリー(くじ)の資金をつぎ込み英国人が触れたこともないようなスポーツ、例えば、バレーボール、テコンドー、自転車競技などへ多大な資金を導入し選手育成に勤しみスポーツの多様化を促進できた結果でもある。

 そして大会3日までは金メダルも取れず、開催国で最低の金メダルかと批判されたアスリートも、13日を過ぎ「Gold Rush!!」の見出しが躍るほどになり、13日目では金メダル22個を数え、100年ぶりの記録を更新、あと4日でさらに増える見込み(原稿到着時)。金メダル順位も中国、USAに次いで3位に上がった。そのためか、自転車ロードレース、トライアスロン、マラソンといった沿道での無料レースには多くの市民が詰めかけ、静かだった市中に活気が戻り、地下鉄も混みだした。

 その中で種々の問題も起こっている。そのエピソードを紹介してみよう。

1.国旗、国歌問題
 フットボール女子北朝鮮対コロンビア戦で、北朝鮮の選手紹介時、国旗がなんと韓国国旗となって大画面に映し出された。北朝鮮は選手を引きあげさせ1時間も遅れてキックオフ、結果は待たされたコロンビアがコンデションを崩し0−2で敗退。一時は北朝鮮オリンピックボイコットかと心配されたがIOCが陳謝して事なきを得た。

 また1960年以来の英国フットボールチーム(Team of Great Britain=TGB)のウエールズの選手が、試合前の国歌斉唱の際歌わず、Great Britainの代表チームとしては『God save the Queen』を歌うべきとの批判が出された。しかしフットボールの世界ではウエールズはFIFA認定のれっきとした国であり、ウエールズ国歌ともいうべき歌があるためか、キャプテン、ギッグスも歌わなかった。

 スポーツの祭典、政治、戦争を中止してまで戦い楽しむ理念のあるオリンピックもNationalityの面ではまだまだのところが露呈された。IOCも金メダル数でランキングを付けており、国威発揚のオリンピックと言われても仕方がない一面はあるようだ。

2.Cheating(ごまかし)
 バドミントンの試合で中国対韓国および韓国対インドネシアの試合。お互いが次の試合を有利にするため、負けるべくわざとサーブを外したり、ネットに引っかけたりしたため、IOCは無気力試合としてそのチームを失格とした。八百長試合がオリンピックにまではびこってきて、ひんしゅくを買っている。

 日本の女子フットボールも監督がシュートを打つな、引き分けろと選手に指示したとしてアメリカのジャーナリストがこれもCheatingではと取り上げたが、FIFA、IOC共に戦術の一環としての指示と判断、不問となったが、観客からは多くのブーイングが発せられた。正々堂々と全力を尽くして勝というオリンピアン精神はなくなりつつあるのか。

3.判定上訴による順位逆転
 日本の体操、柔道で判定にアッピール提訴が認められて順位が逆転、日本の体操では4位から2位銀メダルに昇格、3位であったウクライナは4位に落ちメダルをもらえず涙。日本にとっては提訴権を行使したコーチ陣の殊勲賞もの。今後は判定と提訴という問題をどう解決するのかIOC、各スポーツ団体は課題を投げかけられている。

4.空席問題
 組織委員会は完売と言っていた席に誰もいないという事態が各スタジアムで起こっている。チケットを買えなかったファンはどうすればチケットを買えるのかと騒ぎ、やっとInternetのみによるチケット購入方式を導入したが大会期間中であり、スタジアムのチケットカウンターに長蛇の列、チケットを入手したらすでに試合の後半になっていたという事態も起こっておりチケット販売方法は今後も問題になるといえる。一方フットボールは人気がなく、多くのスタジアムは上段には観客を入れない措置をとった。

 そして日本の皆様が注目のフットボールはというと、男子はU−23であり、女子のフットボールは???と思っている格闘技の英国人にとってはマイナーな種目。

 英国TGBが男女ともどもQuarter Finalに進んだが、共に負けると、正直なもの、翌日の新聞には一切記事なし。あったとしても虫眼鏡で見なければ見えないほどの記録欄に、例えばS.korea 1−1GB(5−4Penaltyの記載がない)。これがトップ代表であれば各紙こぞって「またもPenalty負け!!」と見出しが躍るが今回は無視のまま。どうなっているの?フットボールも記者が他のメイン(陸上、水泳、金メダル量産の自転車)の種目にかかわっており弱いチームには冷たいのかも。これもオリンピックか。

 スタジアムの雰囲気も通常のプレミアとは打って変わって和やかな雰囲気、子ども連れも多く一生に1回のチャンスをオリンピックのフットボール試合にかけた市民が多かったのだろう。

 あと4日果たして日本は4個以上の金をとれるのか?

 男子U−23は韓国と銅メダル争い。68年以来なるか?

 なでしこはアメリカに勝ってW杯と2冠になれるか?

 この記事が出る頃にはすべてわかっていますが、時差のある中、皆様寝不足にならないように楽しんで見てください。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
現在:T M ITO Ltd.(UK)代表取締役
伊藤 庸夫