サッカーアラカルチョ

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ヨーロッパサッカー回廊『Tears!涙の英国』

12・07・11
It always ends in penalties.
(いつもPK負け)

It always ends in tears.
(いつも涙)

Forget football, a Brit wins at Wimbledon.
(フットボールを忘れウインブルドンで勝つ)

Tears again, Don’t cry Andy!!
(また涙、泣くな アンディ)

 ここ2週間、オリンピックを控えたロンドンはユーロ2012そしてウインブルドンテニスとスポーツイベントでの話題は尽きない季節となっている。

 しかし、どちらも期待を裏切る結果となってしまい、例年になく豪雨で洪水多発の英国で、新聞の見出しも「涙」が溢れている。

 ユーロでは、6月24日のイタリアとの準々決勝でPK負け、涙の敗退。その2日後26日から始まった、ウインブルドンテニスでスコティッシュのアンディ・マレーが1936年以来の英国人優勝と期待されたが、古豪ウインブルドン6回優勝のフェデラーに決勝で敗退。また涙の英国となってしまった。

 さて、ユーロ2012でのイングランドを振り返ってみたい。

 国民期待の中、予選を負けなしで通過したが、6月24日準々決勝でイタリアと対戦したイングランドは、徹底したディフェンシブな4−4−2で戦い、ほとんどチャンスがない中で相手の猛攻を抑え、120分後PK戦となった。

 過去、1990年イタリアW杯準決勝、96年イングランドユーロ準決勝、98年フランスW杯ラウンド16、04年ポルトガルユーロ準々決勝、06年ドイツW杯準々決勝と、縦続けにPK戦で敗退した悪夢を払拭すべく、ホッジソン監督は練習中PKの練習も加えていたが、本番ではジンクス通り、アッシュリー・ヤングがバーを叩き、アッシュリー・コールがGKに取られ万事休すとなったのである。「PK Shay England」である。

 なぜイングランドは負けたのか、種々の批判が各方面から分析されている。

 曰く:期待したルーニーが全く試合勘がなく、動きが鈍くただの選手になり下がってしまった。予選2試合出場できなかったのだから、試合のフィットネスを戻すための練習をもっとすべきであったのに、ラスベガスで遊んでいたのはけしからんとか。

 曰く:ホッジソン監督の徹底した4−4−2のディフェンシブなシステムは予選では通用したが、ノックアウト戦ではイタリアに67%もボール支配されており、シュートにも行けない有様であり、本来ブリティッシュジョンブルのフットボールはダイレクトフットボールであり、選手はディフェンスよりアタックに向いているのだ。退屈な試合をしても勝てないとか。

 曰く:イングランドの選手育成システムがうまくいっていない。プレミアの60%の選手が外国人であり、自国の選手が出る幕がなく、育たない。制限するべきだとか(ただし現在のEUの法制度ではEUパスポート保持者はEU加盟国内で自由に労働許可がでるため制限できない)。

 もっとジュニア・ユース時代に、スペイン並にボール技術とポゼッションフットボールを志向したコーチングをすべきだとか。いや英国は雨が多く、かつ天然芝のピッチが多いのでいつもピッチがぬかるんでいて、どうしてもボールを保持しパスをするより蹴ってしまうフットボールになってしまうから、これからは人工芝でボール技術を習得すべきとか、天候のせいにする向きもでている。

 育成制度については、ドイツの若手育成システム制度を参考に、今年の夏よりThe FAはEPPP(エリート選手育成制度)を従来のクラブのアカデミー制度を改組。ヨーロッパ並にクラブでのジュニア・ユース年代では、現在の練習時間をさらに4−6時間/週、増やし、ボール技術の習得を優先。トップのカテゴリー1ではクラブで教育、フットボール育成を行う寄宿制度を採用し、従来の地域性を撤廃して全国から優秀選手を集められる制度を実施することになった。

 曰く:次のブラジルW杯には何とかベスト4に入るべく、若い選手を多用し、新旧交代をすべき。ジョンテリー、コール、パーカー、といった30才を超えた選手は代表から外すべきとか。そして最近は発表されたFIFAランキングではイングランドが4位に上がったのは何かの間違いではないか。FIFAランキングの位置付けも公正な評価とはいえないとか。

 曰く:なぜオリンピックのGreat Britainチームにスペインのように、ユーロで活躍したU23の選手を出さないのか。出さないといっているアーセナルのベンゲルは、フレンチだからオリンピックには関心なく我関せずなのか、もっとThe FAは強い権限を持つべきであるとか(といっても今回のGBチームはイングランド、ウエールズ、スコットランドおよび北アイルランドの合同チームであり、どの協会が主導権を握るかは極めて政治的であり、結局今のところスコットランド、北アイルランドの選手は含まれていない)。U23こそ次の時代の主力選手なのだからクラブの監督は利己的にならず出すべき、といったビッグクラブへの監督批判も出てきている。

 ともあれフットボールのシーズンは終わり、また8月から次のシーズンが始まる。今年のシーズンで注目はやっと懸案であったゴールラインテクノロジーが採用されることになったことであろう。

 FIFAは、International Board (FIFA、イングランド、スコットランド、ウエールズ、北アイルランドで構成するフットボールルールを協議する機構)での決定で今年からいわゆるHawk Eye(テニスで採用している)、またはGoal Ref(ボールにゴールラインを超えた場合に察知できるデバイスを設置する方法)が採用されることになった。

 イングランドプレミアでは来年1月以降ホークアイシステムが採用される予定である。FIFAとしては12月の日本で行われる世界クラブ選手権(トヨタカップ)から実施することになった。

 しかしUEFAは現在採用している5人レフリーによる審判を続ける予定。これでやっと2010年南アW杯でのイングランドランバードのシュートが得点になることになれば人間から機械による判定も悪くはないのではないだろうか。

 そして涙から微笑みへ、次はオリンピックで笑顔を―。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
現在:T M ITO Ltd.(UK)代表取締役
伊藤 庸夫