サッカーアラカルチョ

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ヨーロッパサッカー回廊『ユーロ2012』

12・06・15
 4年に一度ワールドカップの中間年に行われる、通称ユーロ(正式名:ヨーロッパ・フットボール・チャンピオンシップ)がポーランド、ウクライナの共同開催で開幕した。

 このユーロが注目されたのは1992年のスウェーデン大会であろう。この大会、開幕直前に当時のユーゴスラビアが決勝大会出場が決まっていたのが、内戦によりUEFA(ヨーロッパフットボール協会)はユーゴの出場を取消、変わりにデンマークが招請された。

 そのデンマークは、あれよあれよという間に決勝にまで進み、ドイツに2−0と快勝し、王者の地位を獲得したのである。デンマークの多くの選手は大会直前まで休暇を取っており、大会1週間前に集合し、Freshな状態での参加が功を奏したのである。もちろん、ラウドルップ、シュマイケルといった当時トップの選手を抱えていたこともあるが、まさか優勝するとは当時のフットボール関係者もジャーナリストも予想だにしなかった。

 この大会はヨーロッパのリーグ戦が5月に終了し、1か月も立たないうちに開幕する。当然選手は休む間もなく、更に厳しい戦いに臨むのである。疲労やけが、累積イエロー、レッドでの出場停止もある。

 しかしこのユーロこそ世界一のレベルの大会であることはその試合内容からも図れる。ワールドカップこそ世界一の大会であるとするが、これは試合内容からすると2番目の大会である。

 なぜか?ワールドカップは32チームが参加する。一方ユーロは16である。ワールドカップはアフリカ、アジア、オセアニアなどのいわゆるフットボール発展途上国からの参加もあり、第一次予選でベスト16になる国はおのずと予想がつく。しかるに今大会のユーロは参加16か国のうちFIFAランキング20位以内が13チームもある。当然フットボールにおける何かが起こるのである。1試合として気を許せる試合はないのである。

 多分世界一の大会をというのであれば、ユーロのうち13チームと南米2チームそしてその他の地域1チームを加えた合計16チームの大会が実施されれば、その大会こそ世界一の大会となるはずである。

 今年のユーロはすでに始まって1週間になるが、どの試合もどちらが勝つかわからない試合であった。優勝候補はスペイン、ドイツ、オランダ、ポルトガルというのが一般的ではあるが、イングランド、フランス、イタリアも捨てがたい国、更には開催国ウクライナ、ポーランドも地元の利を生かし侮れない。

 この中で優勝候補の一角とみなされていたオランダが死のB組で、デンマークに初戦敗退、ドイツにも2−0と敗れ早々と姿を消し兼ねない状況である。

 優勝候補トップのスペインはイタリアと対戦、ディフェンシブなイタリアのイメージを払しょくする攻撃的なイタリアに苦戦を強いられやっと1−1の引き分けに持ち込んだが、これからの試合はワールドカップでの試合とは違うフットボールをしないと勝てないかもしれない。

 特徴が出ていたのは、イングランドであろう。世界一のサポーターの後押しもあり、超攻撃的な試合をしないとサポーターから強烈なブーイングが起こる国民性。それなのに新任のホッジソン監督はキーマン、ルーニーが2試合出場停止もあり、かつセンターバックの常連ファーデイナンドをテリーの人種問題事件との兼ね合いもあり選抜せず、控えのカーヒルと中盤の要であるバリー、ランパードも欠き、いわば飛車角抜きでの予選となった。

 しかし初戦、フランス戦では、そのサポーターの気持ちを抑え、絵にかいたような4−4−2の布陣で8人が組織で守る戦術をとり、フランスのリベリー、ベンゼマ、ナスリといったトップ選手の攻撃を抑え、我慢の90分を戦い何とか1−1の引き分けに持ち込んだ。弱いチームを強くするスペシャリストともいわれるホッジソンの面目躍如の試合であった。今後ルーニーが出場できれば、攻撃のパターンも増え、ベスト4の可能性は高い。

 そのユーロと時を同じくして日本代表が14年W杯予選を戦っていた。その試合だけをみていたら日本もヨーロッパ並みのボールポゼッションからペネトレートして得点を挙げるパターンは確立しているかに見えた。

 だがユーロとの比較をするとそこには大きな隔たりがあることがわかる。果たしてプレッシャーが強い、スペースを殺された中で、ヨーロッパの連中がやすやすとパスを回しゴール前に飛び込むパターンを日本代表ができるのか、オマーン、ヨルダン戦では実力差がありすぎわからなかったが、オーストラリアとの対戦ではパワーゲームに弱い日本が浮き彫りにされた。

 パワーと個の技術、そして組織的な戦術の総合性のあるチームにどこまで通用するのか、個としては本田が目立ったが、組織的な守備としてはまだまだ物足りなさが残った試合であった。

 現在の日本代表をユーロに参加させてみたらどうであろうか。本田は通用するだろうが他にいるのであろうか。長友は?Maybe.香川は?長谷部は?今野は??そして戦術は?イングランドみたいな我慢ができるデフェンスを90分続けられるか。スペインのボールポゼッションは無理としてもフランス並みのことはできるのか―。

 ユーロは現在も続いている。どこがベスト8になるのか予断がつかない。

 世界一の質の高いフットボールの試合をぜひ観戦(TVでも―できれば音声を消して)し、日本の将来のフットボールのイメージを作って下さい。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
現在:T M ITO Ltd.(UK)代表取締役
伊藤 庸夫