サッカーアラカルチョ

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ヨーロッパサッカー回廊『プレミアも最終コーナーに』

12・03・14
 英国ロンドンも春の兆しが見えてきた。ハイドパークの桜も一部蕾がほころび、水仙も花を咲かせている。街も来るべきオリンピックを控え、いたるところで工事が行われており、またリハーサルを兼ねた大会も行われるなど、活気を帯びてきている。

 フットボールも春を迎え、最終10試合を残し、覇権争いそして残留争いも激しくなってきた。優勝がかかっているマンチェスターの2チームは、ネックアンドネックで毎試合がカップ戦の様相を見せており、お互い負けられない。1敗すれば順位が逆転するという事態になっている。

 3月11日にはトップのシティがアウエーでスワンジーと対戦、2位ユナイテッドは地元オールドトラッフォードでウエストブロムと対戦。シティはこのところ、負けが込んできてユナイテッドとの差が2ポイントに縮まっており、この試合は勝ってこのまま突っ走りたいところ。一方ユナイテッドは、10月以来シティの後塵を拝し、FAカップにも敗れ、ヨーロッパチャンピオンズリーグでも敗退し、残るリーグ戦に20回目の優勝をかけているなかでの試合。

 シティはホーム試合に強いスワンジーに1点を先行され苦戦を強いられる。一方ユナイテッドはルーニーが右からのクロスを走りこんで先にボールに触りゴールし1−0とリード。後半にもPKをルーニーがこの日2点目を決めほぼ勝利を確実にした。

 シティは終了間近にCKを連発したが得点に至らず、0−1と敗退、痛い星を落とした。

 オールドトラッフォードではまだ試合が続行していたが、シティの敗退を知ったファンが、騒然とした雰囲気となった。

 結局この日の結果でユナイテッドがトップに帰り咲き、シティは10月以来堅持していたトップの座をライバル、ユナイテッドに明け渡すことになった。

 この2チームの争いはこれからも激しい戦いとなることは必至である。

 一方この2強を追っているのが3位のトッテナム、そしてシーズン初めは惨めな戦いからベンゲル更迭もささやかれたアーセナルであるが、ファン・ペーシーの得点マシーンの復活で4位にあがってきているものの、2強との差は14ポイントと大きく優勝の目は少ない。

 シティと共に、オイルマネーが潤沢なチェルシーは今シーズンから若干34歳ながらポルトを優勝させたアンドレ・ヴィラボアを監督に招聘したが、ベテラン選手との確執もあり、成績も低迷。3月4日にウエストブロムに0−1と敗退し、5位に転落したことで、オーナーのアブラノビッチは即監督を更迭、チェルシーのタイトル奪回はほぼ消えてしまった。

 前回もカペッロ、イングランド監督の更迭についてレポートしたが、激しいタイトルレースを展開するプレミアの監督への期待は大きく、結果を残さねば、即更迭、解雇されてしまう。厳しい職業である。

 アンドレ・ヴィラボア監督の獲得にはチェルシーとして15百万ポンド(19億円)/3年契約の報酬を払い、選手獲得にも82百万ポンド(106億円)を使っており、結果がでなければ即更迭というのがオーナーの哲学なのかもしれない。

 選手は契約で縛られ、移籍しない限り解雇されないが、監督は結果次第では補償金を支払ってでも即更迭するのは、監督の職務が「勝つことである、あるいはヨーロッパチャンピオンズリーグ出場権確保(4位以内)」というのがトップチームの監督に課せられた課題であるからでもあろう。

 アブラノビッチオーナーは2003年チェルシーを買収して以来、7人もの監督を更迭しており、果たして次の監督に誰を任命するのか、誰が受けるのか注目されている(現在はアシスタントであったデイ・マテオが代理として指揮)。

 今シーズンのプレミアでは既に、サンダーランド(ブルースからオニールに)、QPR(ワーノックからヒューズに)ウルバーハンプトン(マッカシーからコーナーに)の監督が交代している。

 しかし一方では、ユナイテッドのアレックス・ファーガソン監督は1986年以来の26年目、アーセナルのベンゲルは96年以来の16年目、さらにエヴァートンのデービド・モイエ監督は10年と長期にわたってクラブを指揮しており、長期政権こそがクラブを安定させる基と言えないことはない。それには監督の資質、勝利という結果達成もさることながらオーナーの忍耐も必要といえよう。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
現在:T M ITO Ltd.(UK)代表取締役
伊藤 庸夫