サッカーアラカルチョ

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ヨーロッパサッカー回廊『FIFAとロンドンオリンピック』

11・12・16
 現在、日本ではトヨタカップが3年ぶりに戻ってきてフットボールファンを沸かしている。目玉はバルサとサントスであろう。15日のバルサはアジア代表カタールのアルサッドを圧倒して4−0と勝利、18日のサントス戦で雌雄を決する。世界一のクラブの頂点に立つのはどちらかという大会である。主催はもちろんFIFAである。

 この大会は1980年以前にはヨーロッパのチャンピオンと南米のチャンピオンのホーム&アウエーで世界一を決めていた。しかしお互いのプライドとライバル意識が開催地のサポーターを過熱させ暴動寸前にまで達した。

 元マンチェスターユナイテッドのキャプテンでもあったビル・フォークス氏は68年ヨーロッパを制し、アルゼンチンのエスチュデイアンテス戦でのアウエー試合について「毎晩ホテルの前で楽隊が一晩中太鼓を鳴らし騒いで一睡も出来なかった。そのため1−0で負けてしまった。これもアウエーと実感したよ」と述懐している。

 そのためFIFAは、このチャンピオンを決める試合を中立国かつ経済大国に成りつつある日本のスポンサーマネー(トヨタ)をあてにして、1980年から日本開催としたのである。しかるに当時の日本のフットボールインフラは劣悪であり、国立競技場には冬芝ではなく、茶色の芝化しておりフットボール先進国のヨーロッパ、南米のクラブのひんしゅくを買っていた。81年に来日したリバプールはブラジルのフラメンゴに3−0と敗北し、記者会見で「ひどい芝だ。まるで砂場でフットボールをしているようだ」とピッチで負けたと負け惜しみの言葉を残して帰国した。

 その後も87年のポルトとペナロールの試合は雪の中での泥試合となりボールがパンクするハプニングもある程であった(ポルトが2−1で優勝)。この試合の前日、大学ラグビーの試合がありピッチはでこぼこであった。その競技場もワールドカップを経て何とか改善された。しかし、この2年間はトヨタの業績悪化もありスポンサーを降りたためオイルマネー潤沢なUAEでこの「FIFA Club World Cup」は行われていたが、再度TOYOTAがスポンサーに復活したため日本に戻って来たのである。

 世界のフットボールはFIFAが統括している。ワールドカップを頂点に各年代別ワールドカップ(U23,U20,U17)も開催、女子もワールドカップを1991年(中国)以来開催している。

 さて来年2012年はオリンピックイヤーである。オリンピックにも当然フットボールの種目はある。近代フットボール発祥の国イングランドのロンドンで行われる。このオリンピックのフットボールは1984年のロスアンジェルス大会まではアマチュアの大会であり、列強ヨーロッパ、南米の競合国のトッププロ選手は出場していない(日本が1968年メキシコで銅メダルを取ったが相手は当時共産圏国以外の選手はすべてアマチュアであった)。プロを認めて世界一の頂点を目指す大会にと当時のサマランチIOC会長はFIFAに詰め寄ったが、FIFAはワールドカップこそ世界一の大会であるとして拒絶。その妥協案としてU23の世界大会をオリンピックで戦わせることを認めたのである。フットボールにおいてはFIFA>IOCなのである。

 主催するロンドンオリンピック委員会はフットボールに関して2つの大きな問題を抱えている。一つは1960年のローマオリンピック以来出場していないGreat Britain(GBチーム)のフットボールに参加するにあたってのFIFA加盟国であるイングランド、スコットランド、ウエールズ、北アイルランド4国の合同GBチームを結成できるかである。今の所スコットランドは参加に否定的である。理由は参加することによってFIFAがScotlandを一国として認めない方向に行くのではないかと言う懸念をしているからである。

 ウエールズも北アイルランドも同じく危惧をしている。現在のU23の候補選手の中にはウエールズ代表のベール(スパーズ)、ラムジー(アーセナル)を入れれば強力なGBチームが出来るとされているが果たしてウエールズ協会が認めるかまだ決まっていない。そしてアーセナルのベンゲル監督は「オリンピックはFIFAの公式試合ではない。また日程もプレミア開幕と重なる。選手をオリンピックへは出さない」とコメント。一方マンチェスターユナイテッドのファーガソン監督も「クレバリー、ジョーンズ、ウエルベック等のフル代表組もUEFAユーロが6月に開催され休む間もない。従ってオリンピックへは出さない」とコメントしている。オリンピックにはGBチームとして2軍3軍で戦うのかまだ見通しはない。

 そのため2つ目の問題がまだ横たわっている。それはチケット問題である。開会式、閉会式、水泳、陸上競技、特に100m決勝の行われる日のチケットは発売と同時に完売であるが、余っているのがこの男子フットボールのチケットと女子フットボールのチケットである。過去3回インターネットでの発売をしたが、今現在でも上記2つのフットボールのチケットは売れない。女子についてはまだまだ半数にも達していないといわれている。

 なぜか。まず男子はU23であり、上記のようにトップ選手が出ない試合には興味がない。女子についてはプレミア、チャンピオンズリーグなどなど、男の戦いの試合を見慣れた英国ファンにとっては女性のフットボールには見向きもしないという感覚があるからである。

 筆者の友人も「U23に、オーバーエイジでルーニーとかベッカムがでれば見ても良いが名も知れぬリザーブの選手が出る試合は興味ない」そして「Ladies!フットボールは男の戦いだよ!お嬢さんのフットボールは面白くない」と言っておりこれがオリンピックフットボールへの英国民の大方の見方である。

日本の皆さんフットボールのチケットは余っていますよ!!


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
現在:T M ITO Ltd.(UK)代表取締役
伊藤 庸夫