サッカーアラカルチョ

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ヨーロッパサッカー回廊『退屈な試合』

11・09・11
 ウエンブレースタジアムに77,000人あまりのファンが期待したイングランド対ウエールズのユーロ予選の試合は、結局1−0でイングランドの順当勝ちとなったが、その期待は見事に裏切られた内容であった。

 勝てばイングランドはユーロ2012(ポーランドとウクライナ共同開催)の切符に王手を掛けられる、一方のウエールズは先のモンテネグロ戦に勝っており、典型的なジョンブル魂のぶつかる、激しく、速く、強い試合を展開してくれると期待したのである。     

 イングランドはルーニー、ヤング、スモーリングの若きMユナイテッド選手とダウンニング(リバプール)、ケーヒル(ボルトン)の若手、ベテラン、テリー、ランパード、コール(共にチェルシー)中盤はMシテイのバリー、ミルナーとバランスのとれた布陣。一方のウエールズは目玉商品である、22歳俊足ヨーロッパ中のクラブが注目するガレス・ベール(スパーズ)、20歳ながらキャプテンを務めるアーセナルの新星アーロン・ラムジーのプレイメイクに期待したのである。

 フォーメーションは共に4−3−3、イングランドは右利きのヤングを左、左利きのダウンニングを右ウイングに配置、ウエールズは注目のベールを21歳右DFのスモーリング相手にとスパーズでのポジション左ウイングと思われたが右に置き、イングランドのコールの攻撃参加を止める布陣でスタートした。

 試合は前半から両ウイングを活用しようとするもボール保持しているチームのディフェンス、中盤選手が安全確実なボール回しでテンポが遅くなりウイングプレイヤーを生かしきれない。何とも退屈な試合となった。従来のホームインターナショナル試合は正しく戦争であったが、この試合は正にフレンドリーマッチの様を呈している。サポーターもクラブのサポーターと違い、のんびり観戦、時々アウエーのウエールズのサポーター(約3千人)の声が響くだけであった。

 何故このような試合展開になったのであろうか。

 プレミアが始まって19年、当初は正しくジョンブルの戦いであり、一直線にゴールに向かう試合が外国選手の移入でポゼッションフットボール化し、あたかもボールをキープしていれば「負けない」フットボールが主流となり、コーチも選手もセットアップしチャネルを探し、あわよくばシュートにというステップを頭に植えつけられてしまったのではないだろうか。もちろんバルセロナのスタイルもあるが彼らが決して激しくないかというと嘘になる。メッシにしてもイニエスタにしてもシャビにしても戦うときは体を張りボールに行く。ただ違いはボールに触った瞬間に素早く処理し、次のプレーは何かを読んでいる先見性、異見性、想像力(フットボールインテリジェンス)そしてボールコントロールの技術があるからに過ぎない。

 しかるにイングランド、ウエールズの選手はそのようなボールポゼッションがフットボールと見間違えたかの感を持ってプレーしている。だから退屈な試合となったのであろう。

 個人の特徴、性格、国民性、そして感覚、フットボールインテリジェンス、ジョンブル魂を素直に露出すれば代表選手のレベル(体力、運動能力、技術、戦術的センス)の選手がウエンブレーのピッチに立っているのであるから、退屈な試合にはならなかったはずである。

 イングランドが前半ダウニングのロークロスをヤングが決め1−0となった後半、ウエールズは2度も決定的なゴール前ドフリーのシュートチャンスをバーを越える「ふかし」シュートでものにできず結局敗退。期待されたベールも孤立し、得点に結びつけるシュート、パスを披歴できずサポーターのイライラは最後まで続き、80分を経過した時点で、多くの観客が席を立ちウエンブレーステーションへ向かってしまった。(地下鉄が混まない間に乗るため)。

 フットボールはしょせん個人競技ではない。11人+サブの選手全員のベクトルが同じ方向にないと「面白い、観客を魅了する試合はできない」ことを示した試合であった。

 ただ一つ結果的には成功したのはウイングを両軍とも活用し、それも逆足の選手をそれぞれのポジションにおいて機能したことであろう。ウイングがクロス専門の選手からストライカー化していく傾向にあるのが見られた試合でもあった。守備側からすれば中のセンターバックスを強化することに重きを置き、SBは前に出てウイング的攻撃選手化していくシステムに一つの教訓を与えた試合でもあった。

 果たしてこれからのドメスチックリーグ戦、そしてインターナショナル試合での戦い方に違いがあるのか見守る必要があるのではないだろうか。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
現在:T M ITO Ltd.(UK)代表取締役
伊藤 庸夫