サッカーアラカルチョ

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ヨーロッパサッカー回廊『シーズン未見』

11・08・11
 7月末から8月初めはヨーロッパの各クラブは来るべきシーズン開幕に備え、それぞれ遠征試合を行ったり、スポンサー大会を開いている。クラブ経営の立場からは親善試合を行いスポンサー料を稼ぐというのが大きな役目であるが、チームからはシーズン初めに登録する25名の選手をどう選ぶかの厳しい登用試験でもある。

 7月末にはアーセナルがエメレーツカップを開催、キャプテンのシェスク・ファブリガスがはたして育てのクラブ、バルサへ戻るのか、残留するのか注目されたが、結局試合には出場せず、両クラブの交渉を見守っている。本人はバルサ移籍を希望しているが5年契約という枠組みのなかでアーセナルは35百万ポンド以上の移籍金でなければ、出さないとしており、バルサのオファーとはまだ開きがある。 

 本人の希望通りに行かないのは保有権を有するクラブに契約上の保有の優先権があり、選手の希望は無視されることが多い。これはマンチェスターシティのテベズにも当てはまり、シティはこれまた40百万ポンド以上でなければ売らないとし、本人の移籍要望書をもってしても買い手がつかなければ本人が嫌うマンチェスターでの生活から逃げることはできないことになっている。

 選手が嫌々ながら練習を強いられ、試合に出なければならない宿命は「プロフェッショナル」という言葉で片付けられてしまうのであろうか。クラブ側は「代理人がたきつけているだけ、本人はプロである以上契約を全うするのが当たり前」という立場をとっており、なかなか前に進まない。8月末までの移籍期間に解決つくのか注目である。

 そのアーセナルは、ボカジュニアーズに2−2、ニューヨークレッドブルズに1−1と引き分け、前途多難のシーズンを迎えることになる。6シーズンタイトルなしで名将ベンゲルの最後の年ではないかと噂は絶えない。

 シティもアブダビの富豪をバックに選手を買いまくっている割には、アーセナルと同じくデフェンスラインが不安定で開幕1週間前のコミュニテイシールド戦、対Mユナイテッドに前半2点をもぎ取り、勝ち抜くかと思われたが、後半足が止まるとデフェンスにミスが出てあっという間に3点を献上、Mユナイテッドの逆転勝ち。さすがMユナイテッドと思わせる戦いであった。

 この試合、後半3人交代させたMユナイテッドの選手は平均年齢は23歳。GKのアトレチコ・マドリッドから移籍したデ・ギーは20歳、バックフォーのスモーリング、エバンス、ジョーンズ、ラファイエルはそれぞれ23歳、ストライカーのウエルバックも21歳、そしてカーリックに代わって入ったクレバレイも21歳と若く、生きのいいフットボールをウエンブレースタジアムで披露してくれた。伝統的に若手を起用してリシャッフルをしてきたMユナイテッドの伝統が生きた試合でもあった。

 このシーズン開幕前の試合を見て、例え世界一のリーグであり、選手のサラリーも20万ポンド/週=12億円/年を取る選手も目白押しであるが、所詮人間ミスはつきもの、そのミスから点が入る。言ってみればミスをうまく利用して点を取るゲームがフットボールなのだとも実感できる試合内容であった。

 これから来年5月まで長いシーズンが始まる。英国もアメリカの財政赤字とEUイタリア、スペインの財政赤字のダブルパンチを受け経済は低迷するなかでフットボールだけは不況をものともせず、謳歌できているのはテレビ放映権料の高騰にもよることに間違いない。

 そのテレビ業界にも盗聴事件でマードック氏率いるNews of Worldの廃刊とSKYテレビ買収の禁止が国会で決定され、陰りがみえてきている。

 UEFAもFinancial Fairplayを呼びかけ、クラブの総収入の60%上限めどを人件費にあてる。それを上回った場合は移籍禁止、ポイント削減等の罰則を科すことになっている。

 プレミアのチェルシー、Mシティは既に人件費が収入より高くなっており、この罰則が適用されれば、右肩上がりのバブルもいずれ世界経済の動向とおなじくはじけるのではと危惧されている。

 スポーツは経済とは別といいつつも経済とは切り離されない現実の中で、このシーズンが来年5月終了する時、どうなっているのだろうか。そしてその時、日本は?


◆筆者プロフィル
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
現在:T M ITO Ltd.(UK)代表取締役
伊藤 庸夫