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ヨーロッパサッカー回廊『6ヤードボックス』

11・06・11
 フットボールのピッチについてのFIFAのルールには、何故そう規定されているのか分かりにくいものがある。わずか17条という、スポーツのルールでは最小の規定だからこそ世界隅々フットボールが普及したという見方もあるほどである。

 その中でピッチについては105mX68mとあるが、これは国際公式試合でのピッチの規定であり、国内試合とか、フレンドリーマッチでは必ずしもこの105mX68mでなくとも良いのである。

 ちなみに現在のアーセナルの本拠であるエメレーツスタジアムは確かに105mX68mあるが改装前のハイバリースタジアムは110ヤード(101m)X71ヤード(65m)であった。ロングボール一発即シュートも可能な距離でもあった。

 またマンチェスターユナイテッドのピッチも横は69mもあり、90年代前半、足の速いウイングプレーヤーだった、左にギッグス、右のカンチェルスキーにとっては好都合なピッチでもあった。

 まだそれ程ピッチの広さを気にしない時代(2000年以前)のグラスゴーレンジャーズのピッチは相手に足の速いワイドの選手がいるかによりピッチを69mにしたり、67mにしたりしていたこともあるのだ。

 ベルギーのアンダレヒトのピッチは右と左のゴールラインの高差が1mという坂になっており、そのぐらいの傾斜は誤差のうちというのもフットボールを楽しませている一つの要因であろう。

 筆者が居るロンドンには左のコーナーの高差がゴールポストのバーになっているピッチもある。横がゆがんでいるのである。それでもフットボールは前半後半で陣地が交代するので特に不公平さはないというのがコモンセンスなのだ。

 それではピッチのマーキングのなかでゴールエリアが長方形に引かれているが何故6ヤードなのだろうか。そして何の目的のために作られたのであろうか。

 皆様もう一度ルールブックを開いて目を皿のようにしてゴールエリアの定義があるかよく見てください。通称シックスヤードボックスといわれているが、何故6ヤードなのか。ペナルテイエリアが18ヤード、つまり6ヤードの3倍であるとか、ペナルテイスポットが12ヤード(6ヤードの2倍)とかの奇妙な幾何学的倍数で決められたのか?

 そして6ヤードボックスは何のためにあるのか。近年のルール解釈上ゴールキーパーへのチャージは厳しくなったが、それは特に6ヤードボックス内に限ったことではない。18ヤードのペナルテイエリア内で特別に保護されているのである。特に6ヤードボックス内だけではない。

 それでは一体何のためにラインが引かれているのか。1891年のルールでは6ヤードボックスではなくゴールラインより6ヤード上に16ヤードの直線ラインが引かれていただけである。そして1901年に初めて6ヤードボックス化したのである。その6ヤードボックス内ではゴールキーパーがボールを保持している場合のみ相手選手はゴールキーパーにチャージできるというルールのためにあった(筆者が高校時代1960年代ではGKに対してのショルダーチャージは認められていた)。

 しかしあまりにゴールキーパーへのチャージが激しくなり現在のペナルテイエリア(18ヤードボックス)内でのキーパーへのチャージはファウルとされるようになったのである。

 フットボールのルールを決めるのはFIFAとフットボール母国のイングランド・スコットランド・ウエールスと北アイルランドの4か国である。将来ゴールキーパーへの保護地域が広すぎるという意見も出てこないとも限らない。そして単なる例えば10ヤードボックスしかないピッチマーキングにならないとも限らない。

 さて、この議論は英国でも起こりつつありますが、皆様はどう考えますか―。


◆筆者プロフィル
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
現在:T M ITO Ltd.(UK)代表取締役
伊藤 庸夫