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ヨーロッパサッカー回廊『ユース年代の課題』

11・04・11
 今年の3月、春休みに日本のフットボール名門高校が英国に遠征してきた。

 片やフットボール産業界世界一のプレミアリーグを持つ英国のユース選手と片やJリーグ発足92年から19年を経たJリーグの申し子の日本のユース選手との違いはどこにあるのか興味ある遠征であった。

 結論を総合的にいえば、U−16、U−17の段階ではその差はほとんどなくなってきていることが分かる。試合の結果も伯仲しており、0−1、2−2、2−0、1−2といった結果となっていた。昔のように大敗して帰国することはなくなってきた。

 戦術面からみると、英国のユースのフォーメーションは従来から4−4−2が主流であり、この点について「4−4−2システムは育成段階ではやりやすいシステムである。味方の選手同士の距離感がグリッド的であり、パスするにもドリブルするにも容易に味方のサポートが受けられるため、単純なシステムであり、セットプレー、カウンターアタック、ディフェンスでのいわゆるコモン・センス(常識)を体で具現化しやすいので、少年たちにとってまず取り入れるべきフォーメーションであろう」と、帯同していたイングランドコーチであるアラン・ジレット氏が語ってくれた。日本の高校生も4−4−2であった。ディフェンスはゾーンラインで守るという基本が日本のユース年代に定着してきたことを表している。

 では、個々のプレーの中で対等以上に闘えるためには、各選手の技術が対等以上でなくてはならない。この点では、ボールスキルの点で日本のユース年代は英国のそれを上回っていることも個々の場面で証明してくれていた。「しかし、ボールへのチャレンジでボールを取った後のイマジネーション、そのボールをスペースのある味方選手へのパス、または、すき間をついてのドリブル、そしてシュートといったゴールへの道のイメージは英国の選手の方が上のようだ」と、これはフラムのアカデミーコーチであるペンブリッジ氏の指摘である。

 いつも子どもの時からプレミアリーグの試合を見ているユース選手の方が直観的にゴールを見て、ゴールを入れるイメージを持っているからであろう。「フットボールはフィジカルなゲームである。先にボールに触り、コントロールし、次の展開(ドリブル、パス、シュート)へつなげるゲームである。そのためにU−16までは徹底的に技術(ボールコントロール)を中心にドリルすることも必要だ。例えばU−16のコーチであればこの選手がU−18、U−21代表になった時に必要な技術はマスターさせなければならない。だから一面では勝負にこだわってはいるが、本質的には勝負の中での技術習得を中心に考えて育成する必要がある」とウエストハムのアカデミー長であるトニーカー氏は若い選手の育成について述べている。

 結論的に、勝負・ゲーム展開は伯仲したといったが、それでも日本のユース年代の課題も多く見えてきた。

 (1)単純に走るだけでは勝っているが、パスミスが多い。すぐ相手にボールを渡してしまいピンチを招く。落ち着いて自分のボールをコントロールし、次のステップへのイメージがないのか、下ばかり見て味方の足元が見えないのかである。これこそ技術なのだが―。しかしパスミス後も運動量においては日本のユース選手の方があるため、またプレス出来、なんとなく互角の闘いになっている。

 (2)セットプレー時に味方のスローインからの攻撃が出来ていない。その一因は多くの日本のユース選手のスローインは“おじぎ投げ”であり、ファールスローとして取られるため味方へ投げる前にファールスローしてはいけないという意識が働くのか、スローインのフォーメーションが上手く機能していない。(筆者が1990年前後“日本病”として取り上げたが、いまだに投げられない選手が多いのには驚く。JFA審判委でも取り上げられてはいるが―)多分コーチが、たかがスローインと高みの見物をしていたための禍根をのこしたものなのだろうか。

 (3)ゴール前でシュートをしない。ゴールシャイのボーイよりセルフィッシュ(利己的)なボーイを。等々である。

 英国も1999年にスタートしたアカデミー制度を2013年からは改革し、日本並みに週5日練習、1日試合、1日休日へ移行し、練習量を増やし(現在はU−16で週3回練習)その時間を技術練習に充てる方向に進んでいる。フットボール王国ヨーロッパから遠い日本で世界のトップになるためにはまだまだ克服すべき課題が多くある。


◆筆者プロフィル
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
現在:T M ITO Ltd.(UK)代表取締役

伊藤 庸夫