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ヨーロッパサッカー回廊『冬季ウインドーでの移籍』

11・03・15
 ヨーロッパのフットボールシーズンもあと残すところあと3か月半、4分の3を消化し、ヨーロッパビッグ5(イングランド、ドイツ、スペイン、イタリア、フランス)のリーグも激烈な優勝争いが繰り広げられている。

 1月31日、1月1日より始まった今シーズン冬季の“移籍ウインドー”が締め切られた。この冬季ウインドーは、夏季シーズン前の移籍とは異なり即戦力の選手の獲得が主となることは例年のことでもある。優勝戦線にあるクラブはその優勝を確実とするためのストライカーの補強は必至である。

 また降格候補となっているクラブは、残留を図るための補強を強いられる。しかし、この移籍には多額の資金を必要とする。その資金があるクラブは大々的に補強し、ないクラブは現勢力で戦う羽目になる。最近の中東・ロシアのオイルマネーを潤沢に使えるクラブは当然みさかいもなく投資を続け、トップ選手を獲得していく。

 また、選手側からみれば現在のクラブより、さらに有力なクラブへ移籍し活躍することで優勝という栄誉を勝ち取りたいと思うことは当然であろう。一方クラブ側はトップ選手を抜かれることによるチーム力の弱体化を避けるための長期契約を交わし、移籍に関してはその移籍金の下限を設け、いたずらに右から左へと選手の自由意志で渡らせない条項を設け、しばりを入れているのが最近の傾向である。

 今年の冬季ウインドー内での移籍の話題といえば、まずはスペインのワールドカップスター、フェルナンド・トーレスが挙げられる。ワールドカップでは、けが明けで本来のスピードに乗ったドリブルからのシュートは見られなかったが、その得点能力への期待は大きく、チェルシーが5,000万ポンド(約67,5億円)の移籍金をリバプールに払い獲得したのも、契約の中に、5,000万ポンド以上のオファーがあれば移籍できる条項があったため。果たしてそれだけの価値があるのか?

 獲得した5,000万ポンドをリバプールは2人のストライカー、1人はニューカッスルの長身ストライカーで将来のイングランドを背負うと期待されるアンディ・キャロルを3,500万ポンドで、もう1人はワールドカップでウルグアイの勝利に貢献した、それもハンドボールで対ガーナ戦ゴールを阻止したルイス・スアレスを2,280万ポンドで獲得した。

 現在の評価としては、リバプールがシーズン初めは降格ゾーンにいたのが、6位に浮上。その原動力となったのは、スアレスであり、対マンチェスターユナイテッド戦では、彼のスキルでカイトのハットトリックをアシスト、3−0と勝利に導いたことで対価に値する活躍を見せている。

 しかしトーレスはまだ本来のシャープさがなく、5,000万ポンドの価値はないとされている。またキャロルはほとんど出番がなく、ニューカッスル時代の得点マシーンの姿をピッチで見ることはない。期待はずれという評価が下されている。

 これを見ると移籍金は高騰しているが、元が取れるかはの予測は難しい。移籍金がギャンブルといわれるゆえんである。ともあれ、ヨーロッパビッグ5のトータルの移籍金は4億2,000万ポンド(約570億円)、なかでもイングランドが2億2,500万ポンドと半分以上を占めている。チェルシーをはじめとするロシア・中東オイルマネーに依存するクラブがプレミアには多いことでの移籍マーケットとなったといえよう。

 さて、このウインドー期間で1つの改革が実施された。FIFAが開発した移籍手続きの電子化である。国際移籍では、選手の所属する国の協会が移籍先の国の協会宛国際移籍証明書を発行し、送付しなければならないが、従来はFAXなどでその発行と受領に時間がかかり、1月31日午後11時59分59秒までにその書類が登録されないと移籍が認められない規則となっており、クラブ同士の移籍契約書、選手の契約書作成に数時間かかってしまい、2月1日午前0時以降に持ち越され、その移籍が無効になることもままあった。   

 そして今回この恩恵を受けたのは、ポルトガルベンフィカのダビド・ルイスである。チェルシーへ2,500万ポンドで移籍出来たのは、締め切り直前にわずか2分で登録出来たからである。

 この移籍でいつも問題となるのは、?中東・ロシアのオイルマネーも枯渇する日がいつか来ることで、高額な取引が今後も続くか? ?また、選手のマーケットが狭くなり、ヨーロッパのビッグ5も世界のタレントを獲得すべくスカウティングを開始、日本のJリーガーもその安価さで刈り取られているが、日本の選手契約は単年契約が多く、移籍金が発生しない移籍となっていることも放出に拍車をかけており、Jクラブも複数年契約で移籍金が取れる方向へ行くのか? ?そして従来FIFA公認エージェントの介在が移籍の高騰を生んでいるとし、今年より移籍に関してFIFAは、公認エージェント制を廃止し、フリーとすることになったこともどう推移するか?である。


◆筆者プロフィル
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
現在:T M ITO Ltd.(UK)代表取締役
伊藤 庸夫