サッカーアラカルチョ

一覧に戻る

ヨーロッパサッカー回廊『リバプールの行方』

10・10・11
 プレミアリーグ今シーズンも7試合を消化し、まさしく『強い』チェルシーが、アンチェロッチ監督の指導よろしく、連覇を目指し、他の追随を許さぬトップを走っている。今年はオーナー、アブラノビッチも従来のような大判振る舞いはやめ、緊縮財政に切り替えたにもかかわらずであるが。
 
 期待されたマンチェスターユナイテッドはギッグス、スコールズのベテラン選手の活躍はあるが、ストライカーのルーニーがワールドカップでの不振を引きずり、かつスキャンダルから得点出来ず、現在3位。リーグ優勝へは険しい山を越える必要がある。
 
 そしてようやく、過大な投資効果が見えてきたマンチェスターシテイはトップ4のUEFAチャンピオンズリーグ出場枠に入ってきた。監督マンチニもやっとプレミアの試合に慣れ、選手掌握も序々に板につき、試合内容が悪いと選手のやる気に活を入れ、キャプテン、テベスとつかみ合いをするほどになってきており、これは期待できるというのが、イングリッシュメディアの大方の見方となっている。
 
 それに引き換え、忘れられた存在になっているのが、80年代常勝のリバプールである。10月7日現在ボトム3となり、降格候補の枠に入ってしまった。今シーズンからイングランド監督候補の筆頭に挙げられていたホジソン監督をフラムより獲得、今年こそはトップ4に上がり、来年はチャンピオンズリーグへ出場と期待されたが、蓋を開けたら7試合で1勝3分3敗の18位となっているのである。
 
 その原因はストライカー、トーレスが昨シーズンからの膝のけがを背負い、ワールドカップでも期待を裏切る絶不調であったこともあり、自信を無くし、全く点を取れず、点取屋が居なくなってしまったことであろう。トーレスについては、シーズン前にはレアルから買いがあったにもかかわらず、「5千万ポンド出なければ売らない」としたチーム側の誤算もあったのも事実。今となっては2千万ポンドでも売って新しいストライカーを取るべきであったとファンはクラブの経営陣への批判を強めている。
 
 一方ではチームのオーナーとなっているアメリカ人経営者はフットボールを知らな過ぎ、クラブを経営するのには適していないと、現オーナーのアメリカ人、ヒッグス氏とジレット氏への風当たりは強い。既に3億ポンド(400億円)の負債を背負っており、負債を払拭でき、かつ補強費をふんだんに出せる経営陣に代え、新たに選手の補強をし、名門復活を図るべきとするファンは多い。
 
 そこで、クラブの(英国人)事務局長は新たな買い手を模索、アメリカ人ながらボストンレッドソックス(野球)のオーナーでもあり、ヘッジファンドのスペシャリストでもあるジョン・ヘンリー2世に売ることを決めたのである。10月15日までに銀行借入の282百万ポンド(375億円)を返済しないとリバプールは破産し、管財人の下で経営することになるといった非常事態に直面しており、まずはその返済を済ませ次に補強をこの1月の移籍ウインドー期間に行える可能性を持ったオーナーとして決めたのである。
 
 しかし一方ではヒッグス・ジレット氏は売却に真っ向から反対、法定紛争も辞さないとしており、ここ1週間で名門リバプールの行方は再建なのか破滅なのかが決まる大事な時にきている。
 
 また、もし破産となった場合はプレミアリーグにて勝点減点ということにもなりかねず、来シーズンは降格にもなりかねない状況に陥ったのである。過去18回のリーグ優勝記録を持つ名門もリバプールが凋落するのか、その原因が外国人オーナーによる経営破綻なのか、それとも監督、選手なのか、ここ1ヶ月が岐路となっているのである。
 
 昨シーズンにはポーツマスが経営破綻し、勝点減点の上、降格、管財人による管理となり、多くの選手が売られ、今シーズンは戦力ダウン、現在は最下位。またエスカレーター式に降格の可能性も高く、再浮上はなかなか難しい。
 
 名門の凋落は突如としてやってきた。今日の王者も明日は貧者となる。そこにはサポーターの力は虚しいものであり、資本がすべてを決してしまう。英国のプロスポーツはその意味でビジネスであり、繁栄しているときは右肩上がりであるが、一旦下降すると歯止めがないのも今一度制度的に見直す必要があるのではないかと指摘されている。
 
 名門リバプールのNever Walk Alone!の歌声も弱々しくなってきている。
 
 
◆筆者プロフィル
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
現在:T M ITO Ltd.(UK)代表取締役
伊藤 庸夫