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ヨーロッパフットボール回廊『ユーロ2020始まる』

21・06・18
 6月11日、1年越しのユーロ2020がイタリアローマでのイタリア対トルコ戦で開幕した。本来なら昨年行われる予定であったが、コロナのパンデミックで1年遅れての開催となった。

 従来からW杯開催の2年後に、1国または2か国での集中開催であったが、昨年の大会実施にあたってヨーロッパの各地での分散開催となったこともあり、今年のユーロは「ユーロ2021ではなく、ユーロ2020」として行われている。その概要は下記の通り。


(I)大会概要
◇1.出場国は24か国。

 6グループに分け、トップ2チーム及びグループ3位のうち勝ち点の多い4チーム、合計16チームがノックアウト戦に臨み、以降準々決勝(QF)、準決勝(SF)、そして7月11日決勝戦がイングランドのウエンブレースタジアムで行われる。


◇2.分散開催の都市:11か国に広がっている。

 開幕戦がローマ(イタリア)、準決勝、決勝がイングランド・ウエンブレースタジアムで行われるが、それ以外にグラスゴー(スコットランド)、アムステルダム(オランダ)、コペンハーゲン(デンマーク)、ブカレスト(ルーマニア)、ブダペスト(ハンガリー)、ミュンヘン(ドイツ)、セビリア(スペイン)、そしてバクー(アゼルバイジャン)、サンクト・ペテルブルク(ロシア)での戦いが展開される。
 一番移動距離が長いのがセビリアからバクーで、その距離4,766キロメートル。チームによっては移動距離が長短によってハンディがつくケースも出てくる。


◇3.コロナ禍での観客動員制限:観客収容人数制限はUEFAではなく各国のコロナ対策にて決定されることになっている。

*イングランド・ウエンブレーは22,500人及びスコットランド・ハンプデンデンパーク(グラスゴー)は12,000人まで収容できる(収容人数の25パーセント)。英国は7月19日までロックダウンが延長される為、当初の予定ではウエンブレーの決勝戦は90,000人フルハウスとしていたが25パーセントに制限される。

*ロシア・サンクトペテルブルク及びバクーは50パーセント
但し非居住者は観戦できない。特別のVISA取得必要。

*ローマは1/4の収容人数16,000人収容可。

*アムステルダムは16,000人収容可(通常は54,000人収容)。

*コペンハーゲンは15,000人収容可、ミュンヘンは22パーセントの
14,500人収容可。

*ブタペストはハンガリー政府の制限なく、67,000人収容可。

*ブカレストは13,000人収容可。

*スペインセルビアは30パーセント収容可。


◇4.観客に課せられた制限は一般のコロナ対策と同じ。

*マスク着用

*スタジアムには衛生ステーションを設ける。立ち見は禁止。椅子に座り観戦。

*ブカレスト、ミュンヘン、バクー、ローマはワクチン接種証明書、または検査陰性証明書の提示が義務。グラスゴー、ミュンヘン、バクーはスタジアム入場時の検査については考慮中。

*アムステルダム、セビリア、サンクト・ペテルブルクでは体温チェックする。

*イングランドとウエールズは6人以内または2家族なら一緒にパブで観戦できる。

*ファンゾーン(パブリックビュー):イングランドはロンドン・トラファルガー広場に設けられるが入場券は抽選。またマンチェスター、バーミンガム、グラスゴーにも設置される。


◇5.選手:チーム全員(スタッフ及び選手)はバブル化し、試合ごとにPCR検査を実施する。


(II)グループ1戦開始
 既に6月15日まで6グループの1試合目が終わっているがその中のハイライトを注出してみたい。勝ち点は下記( )内に表記。

グループA
・イタリア(勝ち点3)・ウエールズ(1)・スイス(1)・トルコ(0)

グループB
・ベルギー(3)・フィンランド(3)・デンマーク(0)・ロシア(0)

グループC
・オーストリア(3)・オランダ(3)・ウクライナ(0)・北マセドニア(0)

グループD
・チェコ(3)・イングランド(3)・クロアチア(0)・スコットランド(0)

グループE
・スロバキア(3)・スペイン(1)・スエーデン(1)・ポーランド(0)

グループF
・ポルトガル(3)・フランス(3)・ドイツ(0)・ハンガリー(0)

 まず英国のBook Maker(賭け屋)の予想は種々あるが、Betfairの掛け率からいうと
イングランド 5/1
フランス   5/1     
ベルギー  11/2
スペイン  13/2
ドイツ    7/1
ポルトガル 15/2
イタリア   9/1
となっている。イングランドがトップとなっているのは、地元ウエンブレーでの試合が多く移動距離もなく有利とみたからであろう。

*イングランドが下馬評ではトップとなっているが、センターバックのマグアイア(MU)が、けがの為、果たしてこの大会に間に合うのか危ぶまれており、初戦クロアチアに何とかスターリングの得点で1−0と勝ったが、先行き不安な出だしであった。

*勢いを印象付けたのはイタリアである。前回W杯大会では予選敗退したが、マンチニ監督が就任して以来、ほぼ負けなしの伝統的なデフェンスの強さと勝ちにこだわる攻めで、初戦トルコに3−0と快勝し、今後の試合に大きな期待が寄せられている。

*ウエールズもキャプテン、ベール率いるまとまったチームでスイスに1−1と引き分け、ベスト16への期待も大きくなってきた。

*1試合目のハイライトとしては、スコットランドのホームでの戦いでハーフラインからのロングシュートを放ったチェコのセンタフォーワード・シュイック(バイエルン・レーバクーゼン)であろう。スコットランドのGKがペナルティエリアを出ていたことを見ての50メートルシュートがネットに刺さり、この大会のベストゴールの候補となった。

*グループFは『死の組』と呼ばれており、ドイツ対フランス戦で、試合前に空から自然エネルギー信奉者がデモを仕掛け、パラグライダーで空から侵入、スタジアムの電線に触れ転落。フランスベンチ前に居た監督デシャンが危うくけがをするかとも思われたアクシデントがあったが、ドイツのハンメルのオウン・ゴールでフランスが勝ちグループの覇者へ進んでいる。

*優勝候補の一角であるスペインは、コロナ患者を出したこともあり、バルサとアトレチコの代表選手一人ずつがこの大会出場できず、初戦スエーデンに0−0の引き分けとなり今後に暗雲が漂っている。

*デンマークの中盤の要、元スパーズのエリクソン(現在ACミラン)がフィンランド戦プレー中、心臓麻痺で倒れ、試合が1時間45分も中断、ピッチ上での応急処置に時間がかかり、一時は一命が危うくなる状態であった。デンマークのキャプテンの応急処置で舌を取りだし空気を入れたことが生き返ったと、彼のとっさの措置を称える一方、試合続行をしたUEFAに対して「試合続行するとは考えられない。中止し翌日とかに延期すべき」との声多く、主催者側の対応に対して批判が広まっている。エリクソンはこの心臓麻痺でフットボール選手として復帰することはないと専門医は診断している。残念なことであった。

 ともあれこれから約1か月、ヨーロッパのフットボールは熱気を帯びてきているが、コロナのリバウンドによってはまだまだ読めない状況が続くと思われる。

 Tokyoオリ・パラも他山の石としてユーロを見守る必要があるのではないだろうか。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08:JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)

伊藤 庸夫