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弊紙発刊の書籍がリニューアル版で絶賛販売中!【一部抜粋して紹介】

21・02・11
 2017年、Amazon初登場でカテゴリー別4位となった「100万円も借りられなかったNPOが、街クラブ日本一の施設を造った奇跡の物語」(出版元:北のサッカーアンビシャス)が、全国のサッカー関係者から注目を集め、この度「クラブ40周年記念誌同梱版」としてリニューアル発売となった。

 こちらの特装版は、数量限定で現在Amazonでのみ取り扱い中。地域スポーツ関係者には関心の高いクラブ運営や、あっと驚く施設の作り方も実例を基に紹介。ご興味のある方は是非どうぞ。

 本紙では、本の中身を少しずつではあるが紹介している。今回は第十二の巻「土地の購入から、一気に人工芝グラウンドへ!」から一部を抜粋したい。


【以下書籍より一部抜粋】

第十二の巻「土地の購入から、一気に人工芝グラウンドへ!」

 SSSホームグラウンドの真隣にある、札幌市内の高校の持ち物である多目的グラウンドは、2008年に北海道の高校サッカー界でいち早く人工芝を導入したのだが、その人工芝メーカーのヨコハマ弾性舗装システム株式会社(本社東京都)を紹介していたのは柴田だった。世界的な企業の「横浜ゴム・ヨコハマタイヤ」と連携しているヨコハマ弾性舗装システムは、運動施設のゴム系舗装などで高いシェアを誇る。特に野球スタジアムのラバーフェンス(特許技術の防護帯)は、他の追随を許さないトップシェアであり、有名なのは札幌ドームのホヴァリングサッカーステージでも欠かせないゴム系周辺整備もそのひとつだ。

 北海道支店長の倉口茂則氏(74歳)と、柴田の出会いは約20年前にさかのぼる。その当時、スポーツ用人工芝の開発が進み、短く堅い「ショートパイル人工芝」から、細く長く柔らかい「ロングパイル人工芝」へ技術革新も起こっていた。技術畑出身で開発から携わっていた倉口氏は、人工芝グラウンドの可能性は北海道のような気候条件でさらに利用価値が高まると確信。北海道のスポーツ関係者にも説明を続けていたが、サッカー用での初導入までには時間が掛かっていた。

 特に大きな資金が動く、大型のスポーツ関連事業では多岐にわたる情報交換会が行われ、駆け出しの頃の柴田も出席していたという。当時を振り返って、「公式、非公式なものもありましたが、出席していた関係者は、それぞれの業界で北海道のリーダー的存在の方が集まっていました。事業規模も、最初は数億円規模の話だったはずですが、様々な業界の職業人がかかわるにつれ、10億、20億、最後は100億規模の話となっていました。大きなプランは北海道のスポーツ界にとっては夢のような話でしたが、理想と現実の乖離性から何年経っても実現しなかった内情も見ていました」。その時に感じた一番の問題点は、根本となる資金の調達方法と、最終的にその大きな額に対し誰が責任を取るかということだったという。

 “船頭多くして船山に登る“形で頓挫した大計画だったが、それぞれの業界の海千山千の職業人たちとの情報交換は、後に仕事を依頼することになる倉口氏との出会いのきっかけともなった。実際に柴田が企画、実行したSSSドリームプロジェクトでは、「責任は自分が取る」と明確にした上で、理想と現実の折り合いをつけて計画を一歩一歩着実に進めるなど、当時の経験が参考になったとも言える。

 月日が流れた2012年12月。SSSがメインバンクからの借入金を元手にグラウンド用地の購入に至り、やっと人工芝導入の交渉に入る。交渉と言っても、スポーツ振興くじ助成の施設関連の対象事業では、公正かつ適正な価格で契約をするため、一般競争入札、指名落札入札、見積もり合わせ、プロポーザル方式のいずれかで施工会社を選択する必要がある。

 スポーツ振興くじ助成金を活用するにあたり、当然ではあるが一切の口利きなどは不可能で、他社メーカーとの3社以上による見積もり合わせでの施工請負業者選定が行われた。しかも、SSSが提示した条件は、土地購入で借入金が膨らんでいたこともあり、かなり厳しいものだった。その一因としては、土地の整地や暗渠(あんきょ。地下に埋設する水路の設置)を含めた土木工事を一から始めなければならないこともあった。

 費用的に厳しい条件の中、契約に至ったのは、倉口氏が率いるヨコハマ弾性舗装システム株式会社、土木工事を担当する株式会社橋本工業(札幌市。代表取締役橋本雄二氏)、土木設計を担当する株式会社スポーツビジネス研究所(札幌市。代表取締役今野一彦氏)のチーム体制だった。製品の質を下げずに、全体の工費で最安値を提示出来たのには理由があった。それは、真隣の土地で先に人工芝グラウンドの施工実績があり、地盤の調査や、土木工事の内容でもコストを下げる計算が出来たからである。

 倉口氏は語る。「価格競争をするからと言って、良いものを提供するためには、なんでもかんでも安くする訳にはいかない。今回の場合は、隣の高校さんの時も道内最初の導入例ということで、既に価格面で頑張っており、今回もその価格を基準にすることが出来た。当社としても隣同士に2面のストライプ式の最新型人工芝がそろうのは、全国的に見ても宣伝効果は非常に高い。その分どこにも負けない良いものが出来たと思う」――現場に立ち続ける職人としてのプライドものぞかせた。

 土木工事を担当した橋本代表は「正直価格的にも厳しいものがありましたが、子どもたちのためにと、私たちも社員一丸となって頑張らさせていただきました。他では難しかったと思いますが、ヨコハマ弾性舗装システムさんとの連携があって可能となった仕事だと思います」と、日焼けし引き締まった表情で振り返った。

 スポーツビジネスを研究のテーマとし、大型スポーツ施設の土木設計などを担当している今野氏は「NPO法人の資金力で、グラウンド用地を購入し、人工芝生化を図るのは簡単ではないと思います。SSSさんでは、難しいと思われていた時からしっかりとしたビジョンを持って取り組んでいたのが、その後の展開にも間違いなくつながっていると思いますし、私も北海道型の面白い事業が出来ると大いに期待していました」。

 最後に倉口氏は、「北海道の場合、本州での使用に比べて、約倍の期間対応出来るように人工芝を造って管理しているが、これは単純に冬期間の使用頻度が少ないからだけではありません。芝そのものの性能や、本数や密度も他社製品に比べ優位性を出しています。また雪国ならではの気候条件に負けない芝の耐久性、さらには地盤の凍上(とうじょう。地盤が凍って持ち上がる)という問題もあり、それもクリアーしなければならない。これも、上物の人工芝だけで考えるのでなく、橋本工業との連携もあり、土木工事からノウハウの積み重ねで出来ることです」。

 続けて「人工芝の製造はもちろん、施工から管理に至るまで全てのサービスを一貫して行えるのも当社だけの強み。人工芝専用の機械を道内で保有するなど、補修も含めたアフターサービスも評価されています。また、近年米国で問題提起されたリサイクルゴムチップの成分に対しても、当然ではありますが当社ではヨコハマタイヤで問題の無いものだけを厳選して導入しているので心配はありません。加えて国の最新調査でも問題無しとの検査結果が出ており、さらに信頼性が高まったと言えます」と、競合他社との違いに自信を見せた。

 柴田も、「気候条件の厳しい北海道で、長く使用するためのアフターサービスは重要。その点でもヨコハマ弾性舗装システムさんと、橋本工業さんの連携は安心しています。また、いろいろなノウハウを結集し、総工費を抑えていただくなど、このチーム体制が無ければ人工芝生化は不可能だったと思います」と改めて感謝していた。

 今後、人工芝の導入を検討している団体関係者には、それぞれの地域の気候条件や、地盤の特性(硬い地盤、粘土質、砂地なのか。凍上や地盤沈下の可能性)などを考慮した施工内容はもちろん、長く使用するためにも、単純な導入費用(イニシャルコスト)での比較だけではなく、管理、補修を含めたアフターサービスも重視することをお薦めする。人工芝とはいえ、しっかりとした管理と長く使用する分、それに伴うランニングコスト(維持するための費用。人工芝の部分補修やゴムチップの補充など)、も計算しなければならない。

 上:上段写真/グラウンドの土木工事の様子。暗渠(あんきょ)排水の整備を地面下にしっかりと行うことで、大雨でも水たまりの出来ない、水はけの良いグラウンドとなっている(2013年7月撮影)
 上:下段写真/人工芝工事の様子。ゼブラ模様の人工芝を採用することで、デザイン性だけではなく、公式試合時のオフサイドラインの見極めや、指導時のミニコートやグリッドの作りやすさなどの利点もある(2013年8月撮影)


 さて、ここで読者の方は一本の細いクモの糸のように垂らされた年月を超える伏線にお気づきだろうか? 2008年に札幌市内の高校が石狩市花畔地区に人工芝グラウンドの開設。2009年にSSSドリームプロジェクト構想開始。2012年に先行していた高校と同じ石狩市花畔地区にグラウンド用地の購入。2013年に人工芝生化に至る。

 もし、資金不足のSSSが、隣同士の施工だから可能となったヨコハマ弾性舗装システムの最安値の提示を受けていなければ、どうなっていただろうか? 他の見積もり合わせに参加した業者の価格提示で果たして人工芝生化に成功していただろうか? 恐らく無理だったのである。

 ここでも表には出ないが柴田がひっそりと行っていた、プロジェクトとは関係が無いと思われた影の仕事が後に生きることになったのだ。

 最初は誰もが信じなかったプロジェクト。未来からふわふわと流れる一本の細いクモの糸を分かっていて手繰り寄せた成果と見るかは読者にお任せしたい――。

 振り返ってみるともう一つ不可思議なこともあった。ここまで人工芝ホームグラウンド開設までにも紆余曲折があり、スケジュール的にも自由がきかない中、柴田はかなり前から「オープン日は2013年9月8日!にすべきというか・・・なるというか・・・まっ良いんだけど・・・完成イベントは必ず行う!」と、特命チームに告げていた。その時土橋は『いやいや、さすがにまだ何も決まっていない時から、そんな日付にこだわっても無理だし、天候の問題もある。イベント日を確定で行うとなったら準備段階からさらにスケジュールが厳しくなり、自ら難しくしてしまうようなものだ』と思ったという。しかし、物事が順調に転がり始め、工事が進み完成が近付くにつれ、2013年9月8日にオープンイベント開催の可能性が高まった。

 ぎりぎりまで施設の開設とイベント準備で忙しく動き回っていた土橋は、柴田が開催日にこだわっていたことはすっかり忘れて、イベント日となった9月8日の朝、何気なくテレビをつけて驚いた。

 「トォキョウ!」。

 あの“Tokyo 2020“と書かれた白い小さなボードが画面に大写しになり、招致メンバー歓喜の瞬間はいまだ記憶に新しい。アナウンサーも「2020年、東京オリンピック・パラリンピック開催が決定しました!」と、興奮しながら語っている。

 ホームグラウンドに先に着いた土橋は、オープンイベントの準備で走り回ることになり、オリンピック招致決定のことはすっかり忘れていた。会場には会員を中心に既に500人は集まってきている。天候にも恵まれ、晴れやかな表情であふれた。

 上:上段写真/2013年9月8日、日本中が2020年東京オリンピック・パラリンピック開催決定に沸いたその日にグラウンドオープンイベントを開催

 上:下段写真/オープンイベントに集まった約500人の子どもたちは真新しい人工芝の感覚を踏みしめながら、初めてのホームグラウンドでサッカーを楽しんだ


 開始時間が近付き準備に没頭していた土橋が背後にプレッシャーを感じた瞬間、「だーかーら9月8日は絶対だと言ったろ。同じスポーツつながりだしこんな明るいニュースの日は記憶に残るだろ。ピンポイントでこの日って信じられないだろ。ふっふっふ」。と、いつの間にか来ていた柴田が後ろから小声で言ってきたのを聞いて背筋が固まってピンと伸びた(元々背筋がピンと伸びてはいる)。

 いやいや、さすがにこれは偶然の産物と思いたい。グラウンド開設に至るまでには、予定通りには進みにくい各種申請業務に加え、天候に左右される土木工事に、人工芝の貼り付け作業も雨などで日程の遅れは仕方のないことだ。それをあらかじめピンポイントのイベント日ありきのスケジュールで進めることは土橋の言う通り困難だ。その状況を分かっていながら完成前にイベント日を事前告知で確定しておくのは、500人を超える規模では無謀な策と言われても仕方ない。しかも来場者のほぼ全員が来たことも無い初めての場所なのだ。もし、急な日程の変更があっても容易には対応出来なかったことだろう。

 しかし結果論としては、日本国中がオリンピック・パラリンピック招致決定に沸き、イベントに集まった多くの人々もその明るい話題と悲願の人工芝ホームグラウンド開設の相乗効果で笑顔の絶えない1日となったのは間違いない。これは単純に運による偶然だったのか、緻密な計算に基づくものかは分からない。運も偶然も味方につけるべく影で見えない努力をしていたとみるべきか。


―この続きにご興味のある方は、ぜひ本書でお楽しみください。通常版はAmazonかコーチャンフォー(新川通り店、ミュンヘン大橋店、釧路店、北見店)で、特装版はAmazonでのみ販売しております(Amazonサイト内で、「SSS札幌」、もしくは「SSSサッカー」で検索するとトップページに表示されます)。

 「あなたも奇跡と呼ばれたプロジェクトの証人となる!?」


【書籍情報】
題  名:「100万円も借りられなかったNPOが、
      街クラブ日本一の施設を造った奇跡の物語」

著  者:北のサッカーアンビシャス編集部
     協力SSSドリームプロジェクト特命チーム
     イラスト担当スエリス

発行所:北のサッカーアンビシャス

形  式:A5版300ページ(カラー8P、モノクロ292P内イラスト20P)

価  格:クラブ40周年記念誌(カラー20P)付きの特装版は1,100円+税
     通常版は1,000円+税(ヤマトDM便での発送)

販売先:特装版はインターネットモールAmazonでのみ取り扱い中
     通常版はAmazonとコーチャンフォーで取り扱い中
     (新川通り店、ミュンヘン大橋店、釧路店、北見店。他店舗はお問い合わせ)


編集部