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ヨーロッパサッカー回廊『プレミアリーグ負の側面』

19・09・15
 8月9日に開幕したプレミアリーグは早1か月が経過した。序盤5試合をこなしたプレミアの順位は、リバプールが全勝の勝ち点15でトップ。次いでマンチェスターシティ(以下Mシティ)が3勝1分1敗で2位と、昨シーズンの激烈な覇権争いは今シーズンも続いている。

 その他の『ビッグ6』は、トッテナム・ホットスパーズは2勝2分1敗、勝ち点8で3位。マンチェスターユナイテッド(以下MU)は4位、チェルシーは6位と、アーセナルは7位とまだこれからの状況となっている。

 今シーズンの移籍総額は1,4ビリオンポンド(1,860億円)とプレミアリーグ始まって以来の高額取引が行われ、前シーズンの経営指標もMUが589百万ポンド(784億円)。次いでMシティは503百万ポンド(670億円)と群を抜いており、昨季20位で降格したハダースフィールドでさえ125百万ポンド(166億円)総額収入を得ていた。まさしく世界一のリーグである。

 このプレミアリーグの繁栄とは裏腹に、それ以下のリーグは四苦八苦の経営を続けており、その格差は天と地の差がある。その典型的なクラブを取り上げてみたい。

 イングランドプレミアリーグの下部プロリーグは、「スカイベットチャンピオンシップ」、「スカイベットリーグ1」、「スカイベットリーグ2」の3部制となっており、プレミアリーグとは別組織のイングリッシュ・フットボール・リーグ(通称EFL)の傘下にある。これら2つの組織を通称プロリーグと称し、プレミアと合わせ92チームが加盟している。

 その中の伝統ある2つのクラブが破産宣告をした。ボルトン・ワンダラーズFC(Bolton Wanderers FC)と、ベリーFC(Bury FC)である。新たな投資先を確保し、健全経営が出来る体制にしない限り、クラブが消滅する事態に陥った。これに基づきEFLは、とりあえず2つのクラブに開幕より12ポイント減の罰則を科した。

 両チームともマンチェスター北部の町のクラブで、ボルトンは1874年創立、FAカップ4回優勝し、プレミアリーグでも活躍した日本人選手の中田英寿、西澤明訓、宮市亮も在籍していた名門である。

 ベリーも1885年創立の伝統あるクラブで、MUの『クラス92』の一員であったネビル兄弟の父がクラブ幹部であり、彼らの母もこの破産騒ぎまでセクレタリー(秘書)を勤めていた。

 事態が深刻になったのは昨シーズンからであり、ボルトンはキャッシュフローでの負債がかさみ、破産宣告となりトップ選手へのサラリーが支払われず、ユース選手を使って現在まで5試合1引き分け4敗と最下位になっている。負債総額は2013年度に168百万ポンド(223億円)に上り、返済するための新たな投資先を現在も求めている。その後、何とか投資先が見つかり、現在クラブ買い取りの手続き中であり、EFLからの除名だけは逃れているが、まだ予断が許せない経営状況が続いている。

 一方のベリーについては、現在の会長が前会長よりわずか1ポンドで購入したクラブであり、選手の補強もままならず選手へのサラリーも未払いが続き、結局新たな投資家も見つからず8月末の期限が到来。破産確定となり、遂にEFLから除名されることとなった。134年の歴史の幕を閉じることとなったのである。従い今シーズンの「スカイベットリーグ1」は23チームで争うことになった。

 どうにかならなかったのか? という疑問も湧く。

 1992年にプレミアリーグが創立してから、フットボール資金はプレミアリーグに集中し、その下部リーグへの資金の流れは乏しくなって来た。放映権のみはプレミアリーグが取得した権料のうち、5%は落下傘資金としてEFLへ配分されるが、その他のスポンサーシップ、マーチャンダイズ収入はプレミアリーグクラブに集中しており、下部リーグへは回ってきていないのが実情である。

 ちなみに選手の報酬額は、プレミアリーグ発足時平均週給600ポンドと言われていた。その当時の下部リーグの収入は週300ポンドであった(日本のJリーグ選手の方が高給取りであった)。それが現在では、プレミアリーグ選手の平均週給は4万ポンドに跳ね上がる一方、EFL2部の選手平均週給はそれほど変わらず600ポンド程度と言われている。その格差は天と地の格差である。

 MUのアレクシス・サンチェスが週給45万ポンドという高額ながら、1年半の在籍で5ゴールしかあげられず、今季はインターミラノへローン契約で移籍させられたが、このような高額での契約を歯止めする制度も検討する必要があるのではないだろうか。

 そこで議論されているのが、サラリーキャップ制(選手の年俸総額を毎年のリーグ収入に基づき上限を調整する制度)の導入である。現在ラグビーではこの制度が取り入れられている。今後ベリーのような弱小クラブがリーグから排除される事態が起こらないためにも、制度を見直さねばならないのではないかという意見も多い。

 あるいは、下部プロクラブの経営母体を現在の株式会社制度から、ドイツ的なクラブ構成サポーターを加えたNPO形式にすることによって、最小限の資金保持を計ることもあり得るかもしれない。

 更にプレミアリーグ収入の一部をトータル的に運用し、下部リーグへ転用できないものかも、これからのイングランドフットボール界の課題となってきているのではないだろうか。さてどうなるのか?

 果たして今後のJリーグは―


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
伊藤 庸夫