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ヨーロッパサッカー回廊『1ミリは1ミリ。プレミアリーグ開幕』

19・08・14
 7月25日に史上最高気温38.7度を記録した英国は、その後20度から25度の典型的英国の夏に戻り、もはや秋到来の季節となってきた。

 夏の風物詩である、音楽の祭典プロムもたけなわとなり、夏のスポーツであるクリケットも、対オーストラリアとの「Ash」戦が行われ、1回戦5日間の試合が終了。オーストラリアが勝ち、今週からは2回戦が行われる。英国民の目はクリケットに向いている。

 その中で日本人メジャー2人目、全英女子ゴルフに20歳のルーキー『Smile Cinderella』と呼ばれる、渋野日向子選手が優勝し、「タラタラしてんじゃね〜よ」というお菓子がどこで買えるのか話題となっている。

 ラグビーも日本でのW杯を目指し、最終調整のためのテストマッチが行われEnglandがWalesを破りW杯モードになってきていた。Brexit問題という国家的課題を抱えた英国民も、このようなスポーツのイベントには全てを忘れて熱狂する余裕はまだまだある。

 そして、ついにプレミアリーグも8月9日開幕した。今期からプレミアも種々の改革を行い実施していくことになった。

■ウインターブレークの導入
 恒例のクリスマスから新年にかけての過密日程を、いくぶんか緩和することになった。多くのヨーロッパ諸国のリーグはクリスマス休みがあり、ドイツのように冬季休業するところもあるが、英国のフットボールは労働者の娯楽として休みの多いクリスマス、新年には過密的に行われており、この期間を乗り切ったクラブが5月に覇者となるという伝統があるため、休むことなく続けてきた。

 その伝統も半分以上の登録選手が外国人となり、半数以上の監督が外国人。そしてクラブのオーナーも外国人となったプレミアリーグが、ヨーロッパ各国のしきたりに少しは合わせようとした試みが実施されることになった。

 2月にプレミアのクラブ半数が、1週間ずつ休止するという妥協案での実施となる。この提唱はさかのぼれば、1996年アーセナルの監督となったベンゲルが「クリスマス、新年と続けて5試合、6試合も試合をするのでは教会へも行けず、家族とクリスマスを祝えない」と提唱したのがきっかけであるが、25年超しにやっと実現するものだ。しかしリーグだけでなくFAカップ、リーグカップ、トップ6クラブはUEFAチャンピオンズリーグ、UEFAヨーロッパリーグと試合が目白押しであることには変わりない。

■昨期から移籍期限がプレミアリーグ開幕までとなった。
 過去、8月末まで移籍できることから開幕後に移籍する選手が多く、チームとしても選手としてもチームを固定することができなかったが、今期もすっきりした形で開幕を迎えることができるようになった。

■VAR(ビデオ・アシスタントレフェリー)の採用
 この改革は前回も記したが、このVARシステムも開幕戦から物議を醸している。

 まず8月10日に行われた、ウエストハム対マンチェスターシティ(以下シティ)の試合では、多くのVARシステムでのチェックが行われた。その1つに『ミリメーターオフサイド』といわれる判定がなされた。

 53分、シティのストライカー、スターリングがシルバのインチパスを受けてガブリエル・ジェズスにパス。ジェズスがシュートを決め、3−0とリードしたと思われたが、VARチームから審判に対し、アシストしたスターリングがオフサイドであったと連絡があり、審判が画面で確認、オフサイドとなった。

 まさにスターリングの左肩が1ミリオフサイドであったとし、『ミリメーターオフサイド』となったのだ。審判は「ミリメーターでもオフサイドはオフサイドである。ゴールラインテクノロジーでもボールが1ミリでもラインを超えていなければゴールとはならないし、1ミリでも超えていれば得点になる」と。

 75分には、同じスターリングがマーレズからのループボールを受けシュートを決めた。これまた1ミリメーターの差だったが、今度はオンサイドで得点となった。

 また、83分にはアグエロのPKに対し、ウエストハムGKファブアンスキーがセーブしたが、アグエロが蹴る前に1歩ゴールラインから先に飛んだとしてやり直しとなった。これもVARでの確認からであった。

 このVARシステムを管理しているのは、ストックニーパーク(ヒースロー空港の北部)の事務所で一括管理しており、現場の雰囲気を加味せず、流れを断ち切りビデオ判定だけで決めている。果たして、このような現場感がないところでの判定が良いのかどうか、また議論を呼んでいる。しかし、微妙な判定が公正に判断できるツールとしての役割は大きいと言えよう。今後の判定に注目していきたい。

 そして、プレミアリーグ開幕戦での結果から見えてきた点を挙げてみたい。

 昨期のトップ6のうち、開幕戦敗戦はマンチェスターユナイテッド(以下MU)にアウエーで0−4と敗戦したチェルシーだけで、昨期優勝したシティは初戦ウエストハムに5−0と圧勝。今期も優勝の呼び声が高い。

 スペイン代表ロドリ(23歳)を現在キャプテンのシルバの後釜として63百万ポンド(84億円)で獲得、初戦ウエストハム戦では評判通りの働きをし、シティの中心選手として今期の活躍が確約されている。ちなみにロドリは、プロトップ選手としては異色のビジネスを専攻した大学出でもある。

 昨期は期待にそぐわず6位となったMUは、初戦チェルシーとホームで戦い4−0と圧倒した。昨期は20チーム中18番目という選手1人当たりの1試合走行距離を記録し、「走れないMU」と揶揄されたが、初戦の平均年齢24歳227日は20チーム中最年少。スワンジーから獲得したWales代表ダニエル・ジェームズは21歳。スピードに乗ったサイドからの攻撃で初ゴールを決め、ギッグスの再来振りを示した。

 2得点をあげたラッシュフォードも21歳。若さあふれるスピードに乗った攻撃は、今後プレミアの旋風となる可能性が高い。レアルマドリッドへの移籍を表明していたポグバも移籍金が1.3億ポンド(170億円)とも言われ、レアルはその金額を出せず、結局開幕時までに移籍は出来なかった。

 昨期は穴となっていたセンターバックには、レスターからマグワイアーを80百万ポンド(106億円)の史上最高移籍金ディフェンダーとして獲得。初戦のチェルシー戦では、その守備と攻撃の起点としてのパス精度に長けた面を発揮し、勝利に貢献。やっとスールシャール監督はバランスのとれたチーム作りが出来て、往年の強気なMU復活が叫ばれている。

 昨期、チャンピオンズリーグでヨーロッパを制したリバプールも、初戦ノーウィッチ・シティに4−1と圧勝。昨期は1敗しかしていない強さを見せつけ、今年も優勝候補の一角を占めるのは確実となっている。

 問題はチェルシーであろう。今期はユース選手の移籍に関してルール違反となり、FIFAから移籍禁止が申し渡され移籍獲得の選手がいない中、チェルシーの元キャプテンであったランパードを監督に招聘。新たなチーム作りを試みているが、初戦MU戦では上記の通りいいところなく敗戦、今後の戦いに暗雲が立ちこめている。

 これから10か月続くプレミアリーグは、やはり世界一のリーグとして激しく、速く、強い、息の抜けない試合が展開されていくことであろう。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
伊藤 庸夫